農業高校の日常編Part3~苦悩の先に・心の暖かさ~
テスト・終業式回です。
美紅の家での勉強会後も、放課後の空いた時間や休日等に美紅の勉強会は続いた。
美紅の教え方はとてもわかりやすかった。
そして、4日前からテストが始まり、全科目が今日終了した。
「「お、おわったぁ・・・」」
耕太と哲也は机に突っ伏していた。
「耕ちゃんどうだった・・・?」
「な、なんとか赤点はないと思う・・・」
「お、俺っちも・・・」
「日頃勉強しないからよ・・・」
南はそんな二人に呆れたようだ。
「日頃勉強なんてできないよ~な?下永」
「そのとーり・・・むりむり」
「川島君は授業もまともに聞いてないからそうなることがわかってるのかしら」
「う・・・面目ない・・・」
「はは、これで甘奈にも怒られなくて済む・・・」
「下永・・・目が笑ってないぞ・・・」
哲也は今にも死にそうな顔をしていた。
「わかってるんだ・・・帰ったら説教されるんだ!日ごろ少しでも勉強しないからそうなるんです!って怒られるのはわかってるんだ!分かりたくないだけなんだ・・・」
哲也は涙目で訴えた。
「大変だな・・・下永・・・」
「耕ちゃん・・・」
ふたりは手を握りあった。
「自業自得でしょ」
「「はい、すみません」」
土下座で謝る二人だった。
それから程なくして、テストは返却された。
耕太と哲也は赤点を取ることはなかった。
二人は心底安心した。
「美紅せんぱ~い・・・赤点回避しましたよ~・・・」
「ふぅ・・・一時はどうなるかと思ったよ」
「す、すみません・・・」
耕太は頭が上がらなかった。
「でも・・・」
「でも?」
「よく頑張ったね、耕太君」
そこには女神のような笑顔を耕太に向ける美紅がいた。
「み、美紅先輩・・・」
耕太の頬には一筋の涙が流れた。
「じゃあ、仕事しようか!」
「はい」
すぐさま現実に戻されたが。
「か、甘奈さん・・・赤点は回避しました・・・」
「見せていただけますか?」
「はい・・・」
哲也の家には甘奈がやってきていた。
もちろんテストを確認するためである。
哲也は恐る恐るテストを差し出す。
「確かに、全教科赤点は回避されてますね」
「はい、頑張りました・・・」
「私に、テスト本番近くに泣きついてきたのは誰でしたっけ?」
「申し訳ございません!」
哲也は一人で勉強することができず、仕方なく甘奈を頼り怒られながらも勉強をしたのである。
「哲也様の勉強が進み、私が教えられなくなったらどうするおつもりですか?」
「えっと・・・その・・・」
「もう少し日頃から勉強をしてください」
「はい、すみません・・・」
「もう、次は頑張ってくださいね?」
「はい!もちろんでございます!」
「もぅ・・・調子いいんですから・・・まあでも」
「ん?」
「よく頑張りましたね、哲也様」
甘奈の笑顔は哲也を優しく包み込んだ。
「か、甘奈!やっぱ俺にはお前しかいない!」
「て、哲也様!?」
哲也は甘奈を抱きしめていた。
美紅と甘奈は実にアメとムチをうまく使い分けている。
それからさらに1週間が経った。
今日は2学期の終業式だ。
今日が終了すれば冬休み、クリスマスや正月などたくさんのことが待っている。
「えー、明日から冬休みに入ります・・・」
校長の長い話ももう慣れっこだ。
大体の者が目をつむっているが・・・
「それでは、生徒会長挨拶」
挨拶をするのは南姉ではない、美紅だ。
「みなさん、2学期も今日で終了となります・・・」
その小さな体から発せられる声は凛としていて、いつもの幼いものではなかった。
その姿を見た誰もが生徒会長と認めるだろう。
「校歌斉唱」
2学期の最後を締めくくるのは100年間歌い続けられた校歌だった。
「緑溢れる この大地に
光る若人の声 流れる汗は
誇り高き 命の結晶だ
おお我らが 母校ここにあり
畑農 畑農 我らの母校」
畑農の2学期が終了した。
「もう2学期も終わりかー早いなー」
「そうだね~この前入学したばっかなのにね~」
「時間が経つのは早いものね・・・」
いつもの3人は教室で談笑していた。
「耕ちゃん、正月はどうすんの~?」
「ん?そうだなー、家でのんびりしてるだろうな~」
「初詣とか行かないの?」
「あーシズに連れて行かれそうだな・・・」
「そっか~じゃあそのときは俺っちと甘奈も呼んでね」
「おう、言っておくよ。南さんもどう?」
「そうね、私も今年はのんびりする予定だったしご一緒させてもらってもいいかしら?」
「了解~」
「今年はってことは毎年どこか言ってるの~?」
哲也が聞く。
「ええ、大体はハワイにあるお父さんの別荘に行ってるわ」
「ハワイ・・・ハワイか・・・」
「耕ちゃん?」
耕太は一瞬暗い顔をした。
「いや、なんでもないよ。しっかし、流石だね~ハワイの別荘なんて」
「そうだよな~普通じゃ考えられんないもんな・・・俺っちも甘奈の家の別荘には驚いたもんな~」
「やっぱり甘奈ちゃんの家も別荘あるのか」
「あるねー全国にあるらしいよー?」
「ほー想像できないな・・・」
3人はしばらく他愛もない話を続けた。
「じゃあ、耕ちゃんは暇な日が多いんだ」
「ああ、まあな」
耕太の仕事は、三郎が気をきかせて冬休み中は休みにした。
三郎も耕太に友達が出来て嬉しかったのだろうか、「友達との時間を大切にしな」といっていた。
「じゃあ、耕ちゃんうちに泊まりに来る?」
「え?いいのか?」
「いいもなにも、暇なんだよ~来てくれると嬉しいな~」
「下永がいいなら行きたいが・・・」
「じゃあ決まりね~」
「わ、わかった」
耕太は友達の家に泊まりに行くといっても静音の家くらいしかなく、内心わくわくしていた。
同時に嬉しかったのだろう、顔は笑顔だった。
「ほんと、あなたたちって仲がいいわね」
「「親友だからな」」
二人は堂々と胸を張って言った。
二人はこの数ヶ月で胸を張って親友と言い合えるほどに親しくなっていた。
その後、3人はそれぞれの帰宅していった。
耕太だけはあるところへ向かったが。
「美紅先輩」
「あ、耕太君」
生徒会室だった。
生徒会室には既に美紅が来ていた。
「はやいですね」
「まあね、会長さんですから」
「ふふ、そうですね」
美紅は胸を張りドヤ顔で言った。
その姿はとても可愛らしいものだった。
「そんじゃ、お仕事始めよっか」
「はい、美紅先輩」
二人は冬休み中に行われるある行事の準備を行っていた。
「美紅先輩は冬休み中はどうされるんですか?」
「うーんそうだねー、おばあちゃんの家に行って~そのあとは特に予定はないかな~」
「わしと同じですね」
「そうなんだ~なにもないの?」
「下永の家に泊まりに行くことになってます」
「へ~そうなんだ!仲いいもんね二人共」
「まあ、親友ですから」
「親友か~いいねそういうの」
「はい、友達がいるっってことはいいことです」
「そうだね、支えになってくれるもんね」
「ええ、この数ヶ月で沢山の人と出会いました。その人たちはとってもいい人で、わしには勿体無いくらいです。美紅先輩とも出会えましたしね」
そう言って耕太は美紅に笑顔を向けた。
「ふぇ!?えっと!その・・・私も耕太君と出会えてよかった」
「そう言っていただけて嬉しいです」
「へへ♪さて!頑張ろっか!」
「はい!」
二人は着実に準備を進めていった。
耕太が学校を出たとき、時刻は8時だった。
もうすっかり夜で空は黒くなっていた。
「お~さむ、早く帰ろっと・・・」
耕太は帰り道を急いだ。
「ん?川島じゃないか?」
「え?あ!先生!」
「久しぶりだな!元気だったか!」
「はい!先生こそ!」
耕太に声をかけてきたのは、耕太に畑農進学を勧めた先生、橋本宏(はしもとひろし)だった。
「ずっと、お前がどうなったか心配だったんだ」
「そうだったんですか、すみません。ひとつも顔見せなくて」
「いや、いいんだ。お前が元気にやっていてくれれば」
「先生には感謝してるんです」
「感謝?」
「はい、畑農では沢山の人に出会って、その人たちは素晴らしい人ばかりでした。あの時、先生が畑農進学を勧めてくれなかったらあの人たちにも出会えませんでしたし」
「いい仲間ができたみたいだな」
「はい、とても大事な仲間です!」
耕太の顔はとても晴れやかだった。
「いい顔ができるようになったな。いつか畑農を見に行くよ、お前の友達をいつか紹介してくれ」
「はい!必ず!」
そして耕太は恩師に別れを告げた。
「お、雪か」
空を見上げれば、真っ黒の空とは対照的な白い結晶が地面に舞い降りていた。
「どうりで寒いはずだ・・・さて、急いで帰ろ。水道凍っちゃう」
耕太は家へ向けて自転車を走らせた。
寒いはずなのに、耕太の心は暖かかった。
その心は一時は冷め切っていたはずなのに。
なぜ暖かいのか、それは耕太自身が一番わかっているだろう。
続く
どうもりょうさんです!農業高校の日常編Part3~苦悩の先に・心の暖かさ~をお送りしました!
2学期も終了し、冬休みへと突入します。
多くのイベントが待っています。
冬休み中に行われるイベントとはなんなのか、哲也とのお泊まり会に事件が起こったり、初詣はどうなるのか。
その全ては次回からの冬休み編で!お楽しみに!
それではまた次回お会い致しましょう!
作者のもうひとつの小説「こんなの家具なわけねえ!」も読んでいただけると嬉しいです!
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なにか、問題、ご要望があればメッセージなどいただければ嬉しいです




