哲也の過去~夢~
下永の過去編です
ここは、西と東のちょうど真ん中。
西ほど田舎でもなく、東ほど開発が進んでいるわけでもない、緑が程よくあり住みやすい街だ。
そこを走り回る一人の男の子がいた。
これは、その男の子と、その子の大切な人のお話だ。
「ハハハハハハハ!うおおおおお!」
「て、てっちゃぁあん!まってよぉぉぉ!」
「ハハハハハハハ!気持ちいいーーー!!」
「もうダメ・・・」
この友達を置いて走り回るのは下永哲也6歳だ。
「ハハハハハ!だらしないぞー!いくぜええ!」
一人哲也は走っていった。
哲也がたどり着いた先は、
「じいちゃん!きたよーー!」
「お~う!哲也か!また見に来たのか!」
「うん!お庭作るんでしょ~?」
「そうだぞー!今日も作るぜー!」
元気に受け答えするこの老人は、哲也の祖父、下永鉄心(しもながてっしん)だ。
鉄心はこの造園屋で働いている、というか経営している。
下永造園、この地域の大体の造園関係の仕事をしているそこそこ大きな造園会社だ。
「哲也!危ないからあっちで見てろ~?」
「はーい!」
哲也は祖父の仕事を見ることが大好きだった。
鉄心の作る庭園は多くの人に高評価を受け、次々と仕事が舞い込んでくるほどだ。
自分の祖父の手から素晴らしい庭が生まれる、そのことを何よりの誇りと思っていたのは哲也だった。
「よぉし!みんなー!はじめるぞー!」
「「「「「「はい!」」」」」」
鉄心は自らバックホー(ショベルカーのこと)に乗り部下へと指示を飛ばす。
「やっぱ、じいちゃんはかっこいいなー!俺っちもあんな風になりたい!」
哲也は造園屋という職に憧れを持っていた、いつか自分の手で祖父に負けないような庭を作りたいと思っていた。
「その石はこっちだ!」
「はい!」
「その木はこっちに植えろ!」
「はい!」
鉄心の指示に素早く従う部下たち、鉄心自身もバックホーで穴を掘り樹木を植えていく。
庭は一日では完成しない、特にこの家は近くでお有名なお金持ちの家、広い庭を持っておりとても一日で終わる広さではなかった。
しかし、哲也はいつも工事の終わる日を選んで見学に来るため、今日も最後の仕上げへとかかっていた。
「うわー!さすがじいちゃん!すごいや!」
哲也は偶然工事の一日目も見学に来ており、何もない状態の庭を見ていた。
しかし、今そこには、バランスよく計算され植えられた樹木、わざと水を張らず白い砂を敷き詰めた池、形のいい石、そんな美しい庭がそこにあった。
やがて仕事を終え、家主と話を終えた鉄心が戻ってきた。
「哲也、庭は好きか?」
「うん!大好き!」
「庭づくりしてみたいと思うか?」
「うん!してみたい!」
「そうかそうか!お前がもし庭造りをするようになったら、わしがいろいろ教えてやるからな!」
「うん!」
孫の言ったことが相当嬉しかったのか、鉄心は満面の笑顔だ。
その後、哲也は家へと帰宅した。
「ただいまー!」
「ああ、おかえり、またおじいちゃんのとこへ行ってきたのかい?」
「うん!そうだよー!」
徹夜を出迎えたのは哲也の父、下永愛人(しもながあいと)だ。
愛人は一人の老人の体を揉んだり、ほぐしたりしている。
下永整体、哲也の父、愛人が営む整体院だ。
「・・・そうか、危ないからほどほどにしておけよ?」
「えー?たのしいよ~?」
「・・・そうか」
「うん!じゃあ部屋にいるねー!」
「ああ」
そう言うと哲也は部屋へと走っていった。
そしてそれから
「哲也はいるかー?」
「あ!じいちゃん!」
「おー哲也!今日は仕事についてきなさい」
「ん~?なんで?」
「ああ、お前の許嫁を紹介しようと思ってな」
「許嫁?許嫁ってなに?」
「お前の将来のお嫁さんだ」
「お嫁さん・・・お嫁さんか!わかったいく!」
「おー!そうかそうか!じゃあ行くぞ!」
「うん!」
二人は出かけることとなった。
とそこに、
「あ、父さん」
「おう愛人、藤崎さんのとこに行ってくるよ」
「ああ、藤崎さんによろしく」
「おう!任せとけ」
そして哲也と鉄心は出かけて行った。
「ねえ、じいちゃん」
「ん?どうした哲也」
「許嫁?ってどんな子なの?」
「ああ、すっごく可愛い子だぞ」
「そっかー楽しみだな~」
「はっはっは!」
「ハハハハハ!」
そして二人は藤崎家へと到着した。
「ほぇ~・・・でっかい家~」
「このあたりでも有名な金持ちだからな!」
「そうなんだ~」
「お二人共よくぞいらっしゃいました!」
「おお!藤崎の息子か!」
「はい!」
「藤崎は元気か?」
「はい、とても元気ですよ!」
「そうか、おっと、哲也挨拶しなさい」
「はーい!下永哲也です!よろしくです!」
「おー元気だねー!俺のことは藤崎のおじさんと呼んでくれ」
「はーい!藤崎のおじさん!」
「よし、じゃあうちの娘を紹介しよう」
「許嫁さん?」
「そうだよ~うちの娘で、君の許嫁藤崎甘奈だ」
「うわ~・・・」
そこに現れたのは幼いながらも、お嬢様の雰囲気がすごくでている、可愛い女の子が立っていた。
「はじめまして、哲也様。私は藤崎甘奈といいます、よろしくお願いします」
「あ、ああ、お願いします!」
哲也は慌てて礼をする。
「うむ、甘奈は5歳だから、哲也くんの一つ下だな、仲良くしてやってくれ」
「う、うん!」
(年下なんだ・・・すごいな~)
感心する哲也だった。
「じゃあ、わしはそろそろ仕事に入らせてもらおう」
「はい、お願いします!」
藤咲家の庭を見てみると、下永造園の人たちが既に待っていた。
今回はここの庭づくりなのだろう。
「哲也は甘奈ちゃんと遊んでな!」
「は~い、甘奈ちゃん行こうか」
「はい、哲也様」
「う~ん・・・哲也様ってのやめない?」
「なぜです?哲也様」
「うーん・・・まあいいか!あそぼ!」
「はい、哲也様」
二人は遊びに出かけた。
「これをこうして、ほら!」
「わぁ!すごい!」
哲也は近くの川で草舟をつくり、川に流していた。
「甘奈ちゃんは作ったことないの?」
「習い事とかであまり外では遊べませんでしたから・・・」
「ふ~ん、よし!じゃあ今日はいっぱい遊びを教えてあげるよ!」
「は、はい!」
甘奈はまだ自分の知らない遊びができるのを楽しみにしていた。
そこから二人はだるまさんが転んだや、コマ回し、かくれんぼなど普通の子供がやるような遊びを多く行った。
甘奈の目は遊びを行ううちにキラキラと輝いていた。
そして、あっという間に夕方。
「おーい!哲也!帰るぞ~」
「あ!じいちゃん!はーい!」
「哲也様、今日はありがとうございました、良い経験ができました」
「いいんだよ別に、甘奈ちゃんだって、普通の子供なんだから!もっと遊ばなきゃね!」
「・・・普通の子供、そうですよね!子供ですものね!」
「そうだよ、普通の子供だよ~」
「ありがとうございました、哲也様」
「うん!また今度ね~」
「はい!」
哲也は手を振りながら鉄心のもとへと帰っていった。
「哲也様・・・普通の子供・・・か、そうですよね」
「甘奈?」
「あ、お父様」
「どうだった?哲也君は」
「はい、とても素晴らしいお方でした」
「そうか、気に入ったかい?」
「はい、とても」
「はは!何が決め手だったのかはわからんが良かったよ」
「はい」
それからも、ふたりの交流は続いた。
それから6年、二人は心身ともに成長した。
その間にも哲也は造園屋へのあこがれを強くした。
その中で哲也は思った「許嫁って本当にいいのだろうか」と。
思えば、お互いの気持ちは無視している。
本当は気持ちを押さえつけているのではないかと。
そう思った哲也は甘奈との間に少し距離を置いた。
それにいち早く気づいたのは他でもない、甘奈だった。
6年間も哲也を見てきたのだ、気づかないわけがない、そして二人は少しの間疎遠になった。
そんな中で、二人を嫌でも引き合わせる出来事が哲也が中2になった頃に起こった。
それは、
「じいちゃん!じいちゃん!しっかりしろよ!」
「哲也・・・わしは・・・もっとお前と話したかった・・・」
「なら死ぬなよ!俺だってまだ!まだじいちゃんに教えてもらいたいことがあるんだ!」
「はは・・・お前は・・・お前のやりたいことをしろ・・・あきら・・・めるなよ・・・」
「じいちゃん!」
「甘奈ちゃんと・・・なか・・・よく・・・な」
「じいちゃん!?じいちゃん!おきろよ!じいちゃあああああああああん!」
「お義父さん!」
「父さん・・・」
哲也の最愛の祖父、鉄心の死だった。
それから程なくして、葬儀が行われ、鉄心は自分の趣味で作っていた庭に埋葬された。
埋葬されて2日が経った日、哲也は墓の前へいた。
「じいちゃん・・・」
そうつぶやきながら墓石を撫でる。
「じいちゃんの葬式、すごかったな」
鉄心の葬式には地域の人たちや、会社の従業員などが多く参列していた。
「・・・お前はお前のやりたいことをやれ・・・か」
鉄心の最後の言葉が心に残っていた。
「俺のやりたいこと・・・そうだな」
哲也は何かを決心した。
そして口に出した、鉄心に話しかけるように。
「じいちゃん、俺っちはじいちゃんのように造園屋を目指すよ、これが俺っちのやりたいことだ!・・・これでいいんだよな、じいちゃん」
続く
どうもりょうさんです!哲也の過去~夢~をお送りしました!
ついに哲也の過去編へと突入しました。
普段おちゃらけた哲也にはどのような過去があるのか、明らかになります。
同時に甘奈の過去編でもあります。
耕太の過去編同様、シリアスな話があったりします。
我慢して読んでいただけると嬉しいです。
さて、次回は決意したことを愛人に話すところから始まります!
では、また次回お会いしましょう!
ブクマ、感想など頂ければ作者は泣いて喜びます
なにか、問題、ご要望があればメッセージなどいただければ嬉しいです