耕太の過去編、現状編~この全てがわしの拠り所~
過去編、現状編クライマックスです
「・・・・・・・・・あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
耕太は取り乱した、この世のものとは思えない雄叫びをあげた。
拠り所を二つも一気になくした。
その悲しみと恐怖に打ち勝つことなど耕太にはできない。
人が死ぬ悲しみ、耕太はこれをこれまでに二度味わっている。
身体は確かに成長した。
しかし、人の死に対する思いは成長などしていなかった。
「耕太君!落ち着くんだ!」
「耕太君!落ち着いて!」
三郎と皐月が宥めようとする。
だが
「あああああああああああああああああああああああ!!!」
耕太は落ち着くことはない。
その時
スッ
耕太の体が優しく抱きしめられた。
「耕太、大丈夫、まずは落ち着こう?ちゃんと事実確認しないと、ね?」
優しく、全てを包み込むような声。
昔から耕太を見ている三島だからこそわかる耕太の気持ち。
三島だからこそわかる、耕太の恐怖心。
三島は必死に語りかける。
「シズ・・・父さんが・・・母さんが・・・」
「わかってる、でも今はちゃんと連絡が来るのを待とう?耕太がそんなんだと、おじいちゃんやおばあちゃん、おとうさんが悲しむよ?耕太はあの人たちを悲しませたいの?」
「・・・いや悲しませたくない・・・」
荒かった耕太の呼吸が静かになっていく。
「耕太、ちゃんと受け止めなきゃ・・・泣いたっていい、けど落ち着こう?耕太はひとりじゃない、私はずっと耕太を見てきたんだよ?ずっと一緒にいたんだよ?だから、泣くときも一緒に泣いてあげるから」
「シズ・・・ありがとう・・・ありがとう・・・うう」
「うん、一緒に泣こ?」
「ああ・・・」
「「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」
泣いた、盛大に泣いた、すべてを吐き出すように、全てを受け入れるために。
三郎も皐月もその光景を直視することはできなかった。
その後、泣きつかれた耕太は眠った。
「耕太君、辛いでしょうね」
「そうだな、これまでにも大切で大好きな人を亡くしてるしな・・・」
三郎と皐月は眠った耕太の頭を撫でる。
「それに、もう耕太君の親戚も少ないだろうに」
「そうね・・・」
父方の親戚は弟である明人が雅子と再婚したためになし、雅子の方は一人叔母がいるだけ、その叔母には子供が三人いる、引き取るとは思えない。
「最悪、俺たちが引き取ろう」
「ええ、そうね」
「まあ、耕太君がそれを望めばだがな・・・」
そして、翌日航空会社から電話があった。
「川島様のご家族の方ですか?」
「はい、息子です」
「今回は申し訳ございませんでした、慰謝料の方は必ず・・・」
「そんなことより、遺体は返してくれるんですよね?
「はい、それはもちろんです」
「葬儀の準備もあるので早急にお願いします」
「分かりました、それでは慰謝料の方ですが・・・」
「そんなものいりません、遺体を早く返していただければ結構です」
「しかしですね・・・」
「いりません」
「あのですねぇ」
声のトーンが変わった航空会社の社員。
「いいですか?こういうものはもらってもらわないと困るんですよ」
この言葉に耕太はいてもたってもいられなかった。
「そんな誠意のこもっていない金なんかもらっても母や父は帰ってこないんですよ!遺体だけ早く返してください!いうことはありません!」
「はぁ・・・わかりました」
電話はそこで切れた。
耕太はやるせない気持ちになった、怒りを覚えた。
同時に悲しくなった。
三日後遺体が帰ってきた。
すぐに葬儀を行った。
葬儀にはたくさんの人が参列した。
三島家、叔母はもちろん、会社関係の人、学校の先生までが参列した。
どれだけあの二人が愛されていたがわかった。
親族席には叔母と叔母の子供と夫と耕太のみ。
多くの参列者が涙を浮かべている。
そして、耕太は改めて父と母の顔をみた。
「はは、いい顔してるじゃん・・・父さん母さん、今までありがとうな、そしてあっちでも幸せにな、おとうさんによろしく」
耕太は涙を見せず、震えた声で呟いた、そして参列者が直視できないほど儚げな笑顔を二人へ向けた。
結局葬儀中、耕太が泣くことはなかった。
そして、火葬も済み二人の骨は墓へと入っていった。
二人の墓の隣には大輔の墓があった。
(三人とも再会できたかな、じいちゃんやばあちゃんも仲良くできるかな)
耕太は最後まで笑顔で二人を見送った。
そして、場面は三島家へ。
三島家には耕太、静音、三郎、皐月、叔母、その夫が座っていた。
「では、耕太君を引き取るつもりはないと?」
三郎が言う。
「はい、私たちも裕福ではありません、これ以上の余裕はありません」
「じゃあ、耕太君はどうするんです?」
叔母の言葉に反応する皐月。
「それは・・・」
叔母が黙ったその時。
「わしはあの家で一人暮らしするよ」
「「「「「え!?」」」」」
その場の全員が驚いた。
「わしは一人暮らしをする、あの家を放って出るわけにはいかない」
「でも!一人暮らしは大変だぞ?」
「大丈夫だよ親父さん、わしはひとりでも生きていける」
「でもな!金はどうするんだい?」
「それなんだ、親父さん、そのことに対してお願いがある」
「お願い?」
「ああ、わしをおじさんのとこで雇ってくれ、アルバイトでいい、学校が終わったあとから夜まで、だめかな?」
「そ、それならうちにくれば!」
「それじゃだめなんだ・・・おねがいだ、親父さん」
「・・・・・」
三郎は目を閉じて悩む。
「・・・わかった、高校は・・・行くんだな?」
「うん、学費は父さんたちが残してくれたものを当てるよ」
「覚悟はあるんだな?」
「当たり前だ」
耕太は強く三郎を見る。
「・・・しっかりしごいてやる、覚悟しとけ」
「わかってるよ」
そうして、耕太は一人暮らしをし、三島家で働くことになった。
そして一ヶ月後。
耕太は先生に呼ばれていた。
「川島、高校は決めたか?」
「いや・・・まだ」
「川島に勧めたい学校があるんだ、ここなんだが」
「畑・・・農業高校・・・?」
「そうだ、お前もいろいろと大変だろうが、この学校なら何かが掴めるかも知れない・・・考えてみてくれ」
「・・・はい」
「畑農?」
「そう、先生に勧められたんだ」
耕太は静音にこのことを話した。
「私の志望校じゃん」
「え?シズ家継ぐの?」
「ちがうちがう、私が行くのは生活科、保育関係の仕事につきたいの」
「あーなるほどな、確かにそんな科があったな」
「まあ、ちゃんと考えてみなよ・・・でも、私は耕太といっしょの学校に行きたいかな」
「そうだな、考えてみるよ」
その一週間後、耕太の進路希望調査には
第一希望:畑農業高校、緑地土木科
と書かれていた。
そして三月。
二月の推薦入試で合格を決めた耕太は、中学校を卒業した。
そして、卒業式終了後、静音に呼び出された。
「シズ?どうした?こんなとこに呼び出して」
「うん・・・えっと・・・その・・・」
「ん?なんだよシズらしくない」
「えっと・・・その・・・ね?」
「うん」
「私・・・耕太のことが好き!ずっと前から好きだった!私と・・・私と!付き合ってください!」
顔を真っ赤にして告白をする静音。
「うぇ?・・・へ?」
状況が飲み込めない耕太。
「私はちゃんと耕太を支えていけるし、包み込んであげられる!だから!」
「・・・・」
「だから・・・」
「シズ、ごめん、わしはシズと付き合うことはできない・・・いまは必死で、恋のことは考えていられないんだ・・・」
「・・・(すぅ)」
「シズ・・・」
静音の頬に涙が伝う。
「わかってた・・・」
「え?」
「耕太に今告白しても受け入れてくれないのはわかってた・・・」
「シズ・・・」
「いまは!だよね」
「え?」
「いまはまだ考えられないだけだよね!なら、私は諦めない!耕太を好きであり続ける!だれにも耕太をわたさない!」
「ちょ!シズ!?」
「もう決めたの!じゃあね!」
「おい!シズ!おぉぉぉいぃぃ!!いっちゃった・・・」
静音は校門のほうへと走り去っていった。
「はぁ・・・あいつは変わんねぇなぁ・・・はは・・・さて、俺も頑張りますかね!」
自分の頬を軽く叩き走り出す。
そして現在。
「おとうさん、父さん、母さん・・・わしにはいっぱい仲間ができた、心配すんなよ、これからもっと強くなるから!もっと友達作るから!いつか紹介するよ」
墓に話しかける耕太。
「じゃあ、帰るな?また来るよ」
耕太は家に帰っていった。
翌日。
「さて、今日も頑張りますかね!」
一時間自転車をこぎ、今日も元気に登校する耕太。
自転車を降り、階段を上り、もう見慣れた教室を開ける。
「おはよう!」
「お~おはようさん耕ちゃん~」
お調子者の下永に
「・・・おはよう」
無愛想だけどちゃんと挨拶を返してくれる南に
「「「「「「おはよう!耕ちゃん!」」」」」」
個性的なクラスメイトに
「おはよう!耕太!」
いつもと変わらない幼馴染。
この全員が今の耕太の拠り所。
(わしはここでやっていける!)
そう確信する耕太だった。
「てか、シズ!なんでここにいるんだよ!教室帰れよ!」
「やっだねー!!」
「「「「「「はははははは!」」」」」」
(心配すんなよ、みんな、お空で見ててくれよ!)
続く
どうもりょうさんです!耕太の過去編、現状編~この全てがわしの拠り所~をお送りしました!
今回で耕太の過去編、現状編は終了です。
重い話が続いたりしてすみませんでした。
この編は耕太の過去編、現状編でしたが一方で静音の過去編でもあります。
静音の告白現場もえがかせていただきました。
さて、これから元の日常に戻っていくわけですが次回からは、日常編Part2として、社会奉仕活動、夏季スポーツ大会、終業式、この三つの行事を何話かに分けてお送りしたいと思います。
過去編、現状編を読んでくださった方々、厚く御礼申し上げます!
これからも、まだまだ続いていきますので、農業高校は毎日が戦争だぜをよろしくおながいします!
それでは、次回農業高校の日常編Part2をお楽しみに!
次回またお会い致しましょう!
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