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農業高校は毎日が戦争だぜ  作者: りょうさん
夏休み編
107/110

未だ涙を流す美紅を前に、耕太は自分の境遇と過去を話し始める。

「端的に言うと、わしには両親がいません」

「え?」

それまで泣きじゃくっていた美紅が赤くなった目で驚いたように耕太を見つめる。

「わしが中三の頃。飛行機の墜落事故で亡くなりました・・・」

その表情を耕太は一瞥しながらも話を続けていった。


話を進んでいくにつれて、美紅の表情は険しくなり、止めど無く流れていた涙も止まっていた。

そして、耕太は話し終えた。耕太には三人の親が居ること。しかし、その三人はもうこの世にいないこと。一人で暮らしていること。

「・・・」

「・・・」

二人の間に沈黙が訪れる。

「知ってたよ」

「え?」

沈黙を破り、口を開いたのは美紅だった。

「耕太君に御両親がいないことは知ってた。だって、この前の海水浴の時も、誕生日会の時も、耕太君の御両親はいなかったもん。最初は何か用事があるのかな?とも思った。けど、あまりにも御両親の影がなさすぎだよね?だから、知ってた」

美紅の言葉に耕太は驚きの表情を隠せない。

「そっか・・・。知ってたんですね」

「うん。でも、お父さんが二人いた事は知らなかったし、耕太君が壊れかけたのも知らなかった」

思い出してみればそうだった。誕生日会にも海水浴にも耕太の両親はいなかった。さらに言えば、耕太の口から両親の話を聞くこともない。誰の前にも耕太の両親は姿を見せたことがないのだから。

「そっか・・・。ははは・・・」

耕太は一気に力が抜けるような感覚に襲われた。

口からは乾いた笑いが漏れる。

過去を語ること、知られることに抵抗はない。しかし、最初から知られていたとなれば、肩透かしを食らったような感覚になる。

「それで、耕太君は自分のことで精一杯だから、恋愛のことは考えられないってことなんだよね?」

「は、はい・・・」

「・・・耕太君」

美紅は真っ直ぐ耕太を見つめると口を開く。

「恋愛って、そういうんじゃないと思うんだよね」

「え?」

「自分のことで精一杯だからしないとか考えられないとかじゃなくて、自分のことで精一杯だからするんじゃないかな?精一杯だから他人の優しさを求めるんじゃないかな?もちろん誰でもいいわけじゃないよ?自分が本当に拠り所にしたいと思う人に恋をするんだと思うよ。その人の前でなら笑っていられる、笑えないけど笑っていたいと思える。・・・その人と一緒にいたい。そんな感情が生まれたとき、私達はもう、恋をしてるんだよ」

「一緒にいたい・・・」

「中途半端な答えは出したくない、そう思うのは悪くないと思うよ。でもね、そうやって答えを出すことから逃げないで!先送りにしないで!」

「・・・!」

美紅の目からは再び涙が溢れている。

耕太はその表情を真っ直ぐ見ることができない。

耕太は困惑していた。自分がやっていたことは間違っていたのか?いや、間違っていることはわかっていた。じゃあなぜ困惑しているのか。それは、分かっていたから。そうすることで他人を、大事な友人を少なからず傷つけていたことを。

「耕太君・・・」

「・・・!」

耕太が下を向いていると、美紅が声をかける。慌てて顔を上げると耕太は言葉を失ってしまう。

そこには、泣いているのに笑っている美紅がいた。

そして、美紅はゆっくり口を開く。

「私を、振ってください」


「・・・はい」


「ありがとう」


耕太はその日、逃げることをやめた。

そして、進み始めた。

一歩ずつ、ゆっくりと。


続く


どうもりょうさんです。

今回はとても短かったですね。でも、私的には大事な話かと思います。

次回へ続きます。

それでは失礼します。

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