夏休み編~懐かしの土地~
「さて、どこ行きましょうか」
ひとまず再会した四人は、駅をあとにし、街をフラフラと歩いていた。
「ああ、少し行きたいところがあるんだ」
「そうね、あそこには最初に行きたいわね」
「あそこ?」
根達が話す中で、花はどこのことを言っているのか分かっていない様子だ。
しかし、根達はその場所のことを楽しそうに話していた。
「じゃあ、行きましょうか」
「そうだな!」
耕太が促すと、根達は再び駅の方へと歩き出した。
駅から電車に乗り、西方向に進み、舞桜村の最寄駅で四人は下車した。
畑市西側の奥。そこは、東側のように整備はあまりされていない。その為、自然に囲まれた良い土地だった。駅を出ると、田園風景と緑の山が出迎えてくれる。
「村の近くまで来ちゃったね」
「そうだね」
耕太と花が不思議そうに首を傾げる中、根と葉月は周りを見回し懐かしそうに微笑んでいた。
「師範、結局どこへ行くんですか?」
「滝だよ」
「あ、なるほど」
耕太は根の言葉を聞くと、納得したように頷いた。
「さあ、行こうか」
そう言うと、根は歩き始めた。
駅を真っ直ぐ行けば舞桜村へと続く。しかし、耕太達が進んでいったのは駅の裏側の道。小さな山道だった。その道をまっすぐ行くにつれ、小さな音が大きくなってくる。そして、山道を囲うように生えていた木がなくなり、視界が一気に開ける。そこには決して大きいとは言えない一つの滝があった。
「うおお!ここも久しぶりだな!」
「ここって・・・」
「滝だよ。よくここで滝行したよね」
滝の前で大きく腕を上げる根。
その光景を見ていた花が思い出したように呟く。
「夏は良いんだけど、冬は寒かったなぁ・・・」
耕太は当時を思い出すと、笑いがこみ上げてくる。
まだ花達が舞桜村にいた頃、耕太達は根達に連れられこの滝へとよくやって来ていた。
「うおおおおお!さみいいい!つめてええええ!」
「我慢しろ耕太君!うおおおおお!つめてええええ!」
寒い中でも行われるこの滝行。
耕太は、もともと根がやっていたこの滝行に自ら志願して参加していたのだ。耕太以外に参加していたのは花のみだ。
「なぁ耕太君。なんでこの滝行をやろうと思ったんだ?」
「これをしたら、つよくなれるんだよね?」
耕太はバスタオルを頭からかぶり、あたたかいココアを飲みながら首を傾げる。
「そうだな。強くなれる」
それは精神的な意味であり、身体的にということではない。
「わしはつよくなりたい。おかあさんをまもりたい。だからやるの」
しかし、耕太には強くなるという言葉が魅力的に聞こえた。ただただ、母を守る。だから強くなりたい。それだけを胸に抱いて滝行に取り組んでいたのだ。
「そうか、耕太君は強い男になりたいんだな?」
「うん!つよくなりたい!」
「よし!じゃあ俺が鍛えてやる!ついてこい!」
「おー!」
この場所は、そんな会話をした場所であり、滝行をした場所であり、普通に遊んだ場所でもあるのだ。
「なあ耕太君」
「なんですか?」
「強くなれたか?」
根は滝を見つめ耕太に問う。
「わかりません。でも、守りたいものは増えましたよ。減りもしましたけど」
「そうか」
耕太は真面目な表情で答えた。
少しばかりの悲しげな表情を見せながら。
「いやー!お久しぶりですな村長!」
「久しぶりじゃのう根!変わっとらんようで何よりじゃ!」
「流石に体力は落ちましたがね!」
「そうは見えんがのう」
現在耕太達は村長の自宅へとやって来ていた。
短い期間とはいえ、一年この地に住んでいたのだ、村長とも交流がある。村長と山方家は再会を嬉しそうな表情で喜んでいた。
「東京はどうじゃ?」
「都会ですし、人も多いですからね~。門下生も大分増えてきましたし」
「そうかそうか、順調そうじゃのう」
「まあ、それだけ管理が難しいというのもありますけどね・・・。人数が多いと全部を見るというのも難しいですから」
「ふむ、大変なところもあるようじゃの」
「はい」
人数が多いことは喜ばしいことではある。しかし、多すぎるというのは逆に効率を悪くしてしまうこともあるのだ。
「花ちゃんは畑農には慣れたかの?」
「はい!いい人ばっかで楽しいです!」
「そうかそうか、それはよかった。部活の方も頑張っとるかい?」
「頑張ってますよ!それに、楽しいです!」
「うんうん。花ちゃんは笑顔がいいのう・・・。のう耕坊よ」
「はい。花ちゃんの笑顔は明るくて素敵です」
花はよく笑う。どちらかといえば可愛いというよりも美人の類に分類される花は、それとは逆に幼い性格をしている。時折見せる面倒見の良いところも彼女の魅力ではあるが、その美形な顔をクシャっとさせ笑う姿は、多くの男性及び女性の心を射抜く。笑顔こそ、花最大の魅力であった。
「えへへ・・・。照れるよ・・・」
耕太の嘘偽りのない言葉を聞いて花は頬を赤らめる。
普段は元気な性格をしている花が頬を赤らめる姿は、それはそれで魅力的だった。美人が頬を赤らめる姿は非常に絵になっていた。
「根よ、これからはどうするんじゃ?」
「今日から耕太君の家に泊まります。何かあったら言ってください」
「わかった。みんなにも挨拶してくるといい。お前達のことを心配していた者もおったみたいじゃしのう」
「わかりました。四日間お世話になります」
「うむ」
村長の自宅をあとにした耕太達は、ひとまず耕太の自宅へと帰宅した。
「変わってないんだな・・・」
「特に変えてませんからね。掃除はしてますけど」
「主婦みたいだな」
「していることは主婦と変わりませんから」
そんな笑い話をしながら耕太達は家を眺める。
よく花と耕太と静音が走り回っていた庭。それを親が暖かい目で眺めていた縁側。時々一緒に食事をした居間。そのどれもが、昔とさほど変わっていない。その場所で行われたことを思い出し、懐かしむように耕太達は笑みを浮かべた。
「さて、荷物を置いたら行きましょうか」
「そうだな」
耕太達は荷物を置くと、ある場所へと向かった。
「やあ雅子さん、久しぶりだね」
「何年ぶりかしらね」
根と葉月は墓石の前にしゃがみ話しかけている。
まるで、そこに雅子がいるかのように。
「あの時の別れが本当の別れになるとはね・・・」
根と葉月は黙り込んでしまう。
耕太も花も話しかけることはしない。ただただ後ろからその様子を眺めているだけだった。
「・・・でも、雅子さんが残してくれたものは大きく育っているよ。雅子さんの宝物は立派に育っている。そして、強く生きている。俺達だって、できるだけのことはする。だから、そこで見守っていてくれ。頼んだよ」
どれほど黙っていただろうか。一秒、十秒、一分かもしれない。その短くも長い時間を経て言葉を紡ぐ根の表情は晴れやかだった。葉月も涙を目に浮かべながらも、笑っていた。
それは、耕太が望んだことであり、雅子が望むであろうこと。そして、根達自身が望んだことだった。
根達が耕太と出会った時、川島家には耕太と雅子しかいなかった。二人という状況の中でも耕太と雅子の間に絶えないものがあった。それが笑顔だ。根達はその光景を羨ましいと思った。そして同時に、絶やしてはいけないものだと思った。それは今も同じだ。前には雅子が、後ろには耕太がいる。ならば笑顔を絶やしてはいけない。根達はそう考えたのだ。
「耕太君」
「はい」
根は耕太を呼び寄せる。
「あとは任せろ」
そして、耕太の頭を思い切り撫でながら、雅子へと笑顔を向けた。
「美味い!おかわり!」
「ウチもウチも!」
「はいはい」
自宅へと帰宅した耕太達は夕飯を食べていた。もちろん耕太が作ったものである。
「ごめんね耕太君、わざわざ作ってもらって」
「いいんですよ。お客様ですから」
葉月の言葉に笑顔で返す耕太。
二人が話している間にも、花と根は一心不乱に食べている。
「明日は三人でお出かけですよね?」
「そうね。耕太君も付いてくればいいのに」
「いえいえ、三人の時間も大切ですよ。楽しんできてください」
「ええ、わかったわ」
「おかわり!」
「俺も!」
こうして夜は更けていった。
続く
どうもりょうさんでございます!
「どうも川島耕太です!」
皆様、寒い日が続いておりますが風邪など引かれてはいないでしょうか?十分にお気をつけくださいね。
「健康第一です!」
さて、本編では本格的に山方家との交流が始まりましたね。
「久しぶりなので、楽しみたいです!」
次回は、山方家は三人でお出かけのため、あまり絡みはないかもしれません。三人がお出かけ中、耕太は学校へ行きます。
「夏休み中でも仕事はありますからね」
それでは次回をお楽しみに!
「ブックマーク、感想待ってますね!」
ツイッターもよろしくです! @ngxpt280 で検索です!




