夏休み編~お泊まりだぜ!すりー!~
藤崎家の別荘から公正の悲鳴と智の怒声が聞こえる中、耕太は一人砂浜へ座っていた。
「海・・・か」
海を真っ直ぐ見つめる耕太は一年前、夏美に言われた言葉を思い出していた。
「あれから一年。まだまだ先は長いな」
耕太は小さく笑みを浮かべ、海から空へと視線を移した。
「おぉ・・・。村もすごいけど、ここもすごいな」
空には満天の星が輝き、丸く大きな月と共に夏の大三角がその存在を大きく主張していた。
そして、再び目線を下に落とせば、空に浮かぶ全てのものを写す海がある。その水面に写る月や星は、空に輝くものとは違い、ゆらゆらと波を打っている。その光景は幻想的で、耕太の目線と心を釘付けにした。
「綺麗だ」
「本当ね」
「うおお!?」
背後からの聞き慣れた声に驚きを隠せず、思わず大きな声を出してしまう耕太。
「失礼ね・・・」
「いきなり声を掛けられれば驚くよ・・・。南さんも夜風にあたりに来たの?」
「ええ、そんなところね」
そう答える麗華はやはり浴衣がよく似合っていた。
思わず耕太もその姿に見とれてしまう。
「なにかしら?」
「い、いや。なんでもない・・・」
「ふふふ・・・」
目をそらす耕太の姿を見て小悪魔のような良い笑みを見せる麗華。
「それにしても、まだまだ暑いわね・・・」
「そうだね~」
夜とはいえ、現在夏真っ盛りである。その為、気温はあまり下がることないのだ。耕太と麗華の頬も少し赤くなっている。
「少しだけ海に入ってみましょうか」
「そうだね」
そう言って二人は水に足が浸かる程まで海に入った。
冷たい水が足の間を通り、少しだけ涼しいと感じることができた。
「なかなか気持ち良いわね」
「そうだね。冷たくて気持ち良いや」
パシャパシャと音を立てて足踏みをする麗華は、普段見せないような年相応の無邪気さを見せる。耕太は、その姿を可愛いと思ってしまった。
「な、何よ・・・」
「いや、そういう顔も良いなって」
「そういう顔って何よ・・・」
顔を赤くして俯いてしまう麗華。
「そうやって無邪気に遊ぶ南さんも魅力的だなって思った」
「なっ!?そ、そんなことを面と向かって言わないでいいのよ!」
「ははは・・・」
普段はむしろ言うことを推奨してくるくせにとは耕太も言えなかった。言うとどんな目に遭うか分からないからだ。少しばかりその時の反応を見てみたいと思ったのはここだけの話だ。
「私って、そんなに普段子供っぽくないかしら?」
「子供っぽいって思われたいと思う人も少ないと思うけど・・・」
「思われたいと言ったら語弊があるけれど・・・。大人っぽいが必ずしも褒め言葉になるとも限らないのよ」
「なるほど・・・」
一般的に子供と呼ばれる年齢の時から姉に負けまいと大人っぽく振舞っていた麗華には、大人っぽいと呼ばれることに少しばかりの嫌悪感があるのかもしれない。しかし、耕太は知っている。
「でも、わしは知ってる。本当は猫や犬みたいな可愛い動物とかが好きで、動物と戯れている時はとろけそうな顔をすることも、さっきみたいに無邪気に笑えることも。大人っぽい南さんも知ってるけど、わしは子供っぽい南さんも知ってる。そんな南さんも魅力的だとわしは思う」
「・・・!」
一切の恥ずかしげもなくそのような言葉を吐く耕太を見て驚きの表情を浮かべる麗華。
耕太は真っ直ぐ麗華の方を見つめ、嘘を吐いているような素振りは一切ない。ごくごく自然に先程の言葉が出ているのだ。
「どうしたの?顔が赤いけど」
「な、なんでもないわ!・・・今日は積極的ね」
言葉の最後が尻すぼみになってしまう麗華。その顔は赤く染まっていた。
「・・・?まあ、大丈夫ならいいけど。夏とはいえ、風邪は引くものだからね。無理はしちゃダメだよ?」
「ええ。気をつけるわ」
依然赤色が抜けない麗華の顔。
その頬に帯びた熱を冷ます風のように、耕太の言葉が流れていく。麗華はその瞬間を心地よく思いながら返事を返すのだった。
「そういえば、遠藤君と公正はどうなった?」
「さあ、騒がしくて出てきたのだもの、知らないわ。私が最後見たときには、姉さん達がその光景を見て爆笑していたわ」
「あの人達らしいな・・・」
「全くね」
二人はそんなことを言いながら笑い合う。
「二度目の夏ね・・・」
「ん?」
何かを懐かしむように口を開く麗華。
何を思い出しているのだろうか。今日のことか、去年の夏のことか、それともこの高校生活か。いや、その全てだろう。ふと思い出す思い出。楽しいことも、辛いことも、仲直りも。その全てが麗華の中を駆け巡っていた。
「いろいろあったわね」
「・・・確かにね。最初はどうなることかと思ったけど」
そう言って苦笑いをこぼす耕太の中にも多くの思い出が駆け巡る。
「まさかこんなに楽しい時間を過ごせるとは思わなかったよ」
「私もよ」
辛いことの方が多かった耕太の人生。その人生を少しだけ変えてくれたのは、別荘にいる友人達の存在であり、畑農という居場所であり、そして隣にいる麗華という存在だ。
「思えばあの時、南さんに殴られたところからわしの人生は変わり始めたのかもしれないね」
「あら、私は知らないうちに川島君のきっかけになれていたのね」
「はは、そうかもしれないね。拠り所であり、隣に並び共に歩いてくれる存在。そんな人達があそこにはいた。こうやって振り返る度に感謝の言葉が出てくる。かけがえのない存在だ」
耕太が畑農へ入学した日、あの時はこのように冗談を言い合える仲になるとは思っていなかった。しかし耕太は、関わりあっていくうちにそこに居る存在をかけがえのない存在と言えるようになった。耕太にとってそのことは大きな変化であったのだ。
「少々女性が多い気がするのが不愉快だけれど。そうね、確かにかけがえのない存在だわ」
「不愉快って何!?それに緑地の連中はほとんど男子だから!結構男子率大きいから!」
「ふふ、冗談よ」
「勘弁してくれ・・・」
「ふふ・・・。さて、そろそろ騒がしいのが来るわね」
「騒がしいの・・・?」
立ち上がり呟く麗華の言葉に耕太は首をかしげる。
「二人の時間はここまで。もう少し欲しかったところだけれど、予定より早いみたいね」
「え?え?」
「今度は二人で海に来ましょう?」
そう言うと麗華は後ろを向いて小さく笑みを浮かべる。
「ちょ、南さん?」
「花火じゃあああああ!」
「錦に当てちゃるぅぅ!覚悟しろおおお!」
「ちょっと!?それ洒落にならないから!」
「あははは!面白いなー!」
「・・・え?」
一際騒がしい集団がこちらへと歩いてくる。
もちろん全て知っている顔だ。この砂浜は藤崎家のプライベートビーチであり、他の者は入ってこれないこともあり、誰かは分かる。何故、昼間ここで泳がなかったのかはいろいろと理由があるのだが、それを今語る必要はないだろう。
「あ!耕ちゃんみっけ!」
「哲也?どうしたんだ?」
「花火だよ!夏といえば花火でしょう!ぱんぱーんだよ!」
各々の手には花火が入った袋が握られている。その数は尋常ではない。
「私が別荘を出る前、下永君達が話していたのよ。花火をしようって。私は夜風に当たるついでにこちらに来るのを待っていたのよ」
「なるほどね。教えてくれれば良かったのに」
「忘れていたわ」
「ははは!まあまあ、そういう御託はなしにして!いっちょみんなで花火大会と行きましょうか!」
「「「「「「おおおおおおおおおおお!」」」」」」
哲也の煽りに答える皆。
各々好きな花火に火を点けて行く。様々な色で燃える花火は鮮やかで、暗かった砂浜を一気に明るく染めた。
「耕ちゃん!打ち上げ花火のセット手伝って!」
「おうよ!任せとけ!」
「よし!いくよー!」
「おう!」
高い音を発しながら上がっていく花火。
やがて、夏祭りの打ち上げ花火程ではないが大きな音を立てて弾ける。これまた夏祭りの打ち上げ花火程ではないが、鮮やかな模様が空に描かれる。その模様は海へも描かれ、一瞬のうちに消えていった。なんとも儚いものだ、しかし耕太達の心にはその風景が焼きついていた。
続く
「錦ぃぃぃぃ!」
「勘弁してくれえええええ!」
おい、終わらせろや。
続く
うおおおおおおおおおおおお!
「な、なんだ!?」
祝・卒業!うおおおおおおお!
「あ、そうか。この度作者は卒業しました。何をとは言いません。察してください」
はい、というわけでお久しぶりの投稿です。
「遅れてしまって誠にすいません。完全に作者がサボってました」
サボってないよ!戦略的休憩だよ!
「それをサボりって言うんだよ!」
あ、はい・・・すみません。
気を取り直しまして・・・本編の方は話をして花火をしました。
「ざっくりですな・・・」
最近、麗華とのお話が多いですね。これはもしや?なーんて!耕太にその気はありません!たぶん!
「おい!」
それではまた次回お会いしましょうね!
「おいおいおい!さようなら!」