夏休み編~お泊まりだぜ!つー!~
「ねえ耕ちゃん、どう思う?」
「何が?」
「公正のこと」
「大体予想はついてたよ」
「やっぱり?」
「まあな・・・」
そう言って苦笑いを浮かべる耕太と哲也は公正と、ある少女が歩いて行った方向を見つめた。
「えっと・・・。僕は遠藤さんを指名したいな・・・と」
「わ、私?」
「なんだと!?」
公正の言葉に驚きの声を上げる遠藤姉弟。
特に智は指名された紗奈本人より驚いている。
「ほぉ・・・。なるほど」
「シズ。下品だからその顔はやめなさい」
ニヤニヤと公正を見つめる静音にツッコミを入れる耕太。
「よぉし!それじゃ公正の指名も終わったし、二人には夜のデートへ行ってもらおうかな!」
「許さねえぞ!おい錦!おま・・・」
「はぁい、遠藤君は黙ってようねー」
「お、おい!何すん・・・ふがあ!」
なんとか行かせまいと声を上げる智の口を耕太が塞ぎ抑え付ける。
「さあ、行ってこい公正」
「は、はい」
智を抑えながら耕太は公正に出発を促した。
耕太の顔は慈愛に満ちていて、後輩を応援する先輩の顔になっていた。
「ふぁなふぇー!ふごおおお!」
「それにしても、公正が遠藤さんをねぇ・・・」
哲也が顎に手を当て呟く。
「別に可能性がなかったわけじゃないだろ?公正が家庭部に入ったのだってそうだろうしな」
「確かに。今考えるとそうだよね~。少しでも、思いが通じればいいけど」
「そうだな」
耕太と哲也は同時に頷く。
「ふんがぁ!ふごおおおお!」
「はいは~い。少し我慢しようね~遠藤君」
「ふがあああああ!」
椅子に縛り付けられ、口にタオルを巻かれた智に哲也が話しかける。
「ふぅ・・・。でも、大変だな~公正」
「何がだ?」
「何がって・・・。まあ、耕ちゃんだしな~」
「・・・?」
哲也は耕太に意味深な笑みを向けると、小さくため息を吐いた。
「・・・」
「・・・」
砂浜を歩く公正と紗奈の間には会話はなく、微妙な空気が漂っていた。
公正は何かを話そうと何度か口を開くがその先が出てこない。対する紗奈も何か話そうと考えているが、一向に言葉が出てくることはなかった。
「あの・・・遠藤さん」
「は、はい!」
ようやく意を決したのか公正が口を開くと、紗奈は慌てて声を出した為、声が上擦ってしまう。
「いきなり誘ってごめんなさい。驚きましたよね?」
「えっと、びっくりはしました」
「で、ですよね!はは!ははは・・・」
そしてまたもや訪れる沈黙。
公正が恥ずかしさのあまり海の方へ視線を向けると、その光景に公正は立ち止まってしまう。
「錦君・・・?あ・・・」
突然立ち止まった公正を不思議に思ったのか、紗奈も海へと視線を向ける。
「綺麗・・・」
視線の先にあったのは、空と海、どちらにも大きく輝く満月だった。
空に輝く月は月本来の輝きで地上を照らし、海に輝く月は波が起こるごとにゆらゆらと揺らめいていた。その二つの月のうち一つは実際にそこにあるものではない。しかし、どちらの月も確かにそこにあり、二人の視線を釘付けにしていた。
「遠藤さんは、どっちの月が好きですか?」
少しの静寂の後、公正が紗奈に尋ねる。
その声には先程までの緊張はなく、すんなりと質問することができた。
「私は、海に輝く方が好きです。錦君は?」
「僕は、空に輝く方ですね。どうしてかと理由を聞かれれば困りますけど、なんとなく力強い感じがするから・・・ですかね」
「力強い・・・ですか」
「はい。遠藤さんは何故海の方が?」
公正がほんの興味本位で紗奈に尋ねる。
「そうですね・・・。私も何故かと言われれば困るんですけど、優しい感じがするからですね」
「優しい感じ・・・。確かにそうかもしれないですね」
理由は分からない。しかし、そう感じるのだ。説明しろと言われてもできないが、そう感じてしまうのだ。
「・・・ちょっとだけ、昔話をしましょうか」
「昔話?」
公正はそう告げると、ゆっくりと話し始める。
「結論から言うと、僕には両親がいないんです」
「え・・・?」
突然の告白に驚きを隠せない紗奈。
「驚きますよね。僕が中学一年生の時お母さんが病気で、二年生の時にお父さんが病気で亡くなったんです。お母さんが死んでからあとを追うようにお父さんも死んでいったんです。もともと仲の良かった二人で、お母さんが死んだときのお父さんの落ち込みようは尋常じゃありませんでした。そして、どんどんやせ細って体力の落ちたお父さんも病気を発症して死んでしまったんです」
「今はどうしてるんですか?」
紗奈は最初は驚きの表情を見せいていたものの、現在は真剣に公正の話を聞いていた。
「今は妹二人と一緒にばあちゃんと一緒に暮らしてます」
「そうですか・・・」
「それで、お父さんとお母さんが共通して好きなものがあったんです」
「共通?」
「はい」
そう言うと、公正は空を見上げ笑顔を浮かべた。
「それは、空です」
「空?」
「はい。二人は重度の空マニアで、よく休日に二人で各地の空を写真に収めに出かけていたんです。今も家に何枚もの空の写真があるんです」
公正はそう語りつつ尚空を見上げ、笑みを強くする。
「二人はいつも僕に言っていました。空は良い、美しくて自由で広くて何より途切れることがない、どこまでも繋がっている。そして、他の物と合わさることでより美しくなる。と」
「他の物と合わさる・・・」
「今のこの景色だってそうですしね。実際、こういう景色の写真も家にありました。そして、お父さん達は僕にいつも言っていました。空のようになれ、他の物と合わさって美しくなれと」
「お父さんとお母さんは、その他の物がお父さんとお母さんだったんですね」
紗奈は柔らかい笑みを浮かべそう言った。
「確かにそうかもしれないですね」
「そして、いつしかそこに錦君達が加わった」
「そうだと良いんですけどね」
公正は苦笑いを浮かべ、恥ずかしそうにする。
「そうですよ。でも、辛くはないんですか?」
「そりゃ、両親がいないっていうのは辛いですよ。他の人にいる人達が僕にはいないんですから。でも、あれだけ空が好きな二人です。今もどこかの空から僕達を見ていてくれますよ。この途切れることのない空のどこかで」
その時の公正の表情は臆病で引っ込み思案な公正のものではなかった。
小さく笑みを浮かべ、真っ直ぐに空を見上げる。その姿は見違える程にたくましく見えた。
「だから、僕は前を向かなきゃいけないんです。いつまでもウジウジしてちゃダメなんです。でも、僕は臆病で引っ込み思案だから、自分を変えたいと思った。いつまでもこのままじゃ、二人に笑われちゃいますからね!」
「そうですね。・・・錦君」
「はい?」
「そろそろ敬語やめません?」
「え?」
公正は驚きのあまり声をあげてしまう。
「私達、友達でしょ?」
「・・・」
公正は紗奈の笑顔に言葉を失ってしまう。
「あの・・・。やっぱり違いますか?」
その様子を見た紗奈が不安そうに公正を見上げる。
「い、いえ!友達です!はい!」
「良かったぁ・・・。それじゃ、お互い敬語なしで良いですよね!」
「は、はい!もちろんです!」
一気に笑顔へと戻った紗奈にドキッとする公正。
「これからもよろしくね錦君!」
「は・・・じゃなくて。うん!よろしく!遠藤さん!」
「今度、お父さん達の写真見せてくれる?」
「もちろん!いつでも見せるよ!」
「ありがとう」
「いえいえ、どういたしまして」
こうして、友達という言葉に少しばかり胸の引っかかりを覚えたが、公正と紗奈の距離は小さく、本当に小さく近づいた。しかし、これは公正にとっては大きな一歩であり、公正も今は満足していた。
「そういえば、なんで私を指名してくれたの?」
「そ、それは!あはは・・・」
「・・・?」
ここでも、少し抜けたところを発揮する紗奈。
しかし、公正は自分が追い込まれていたとしても、こんな紗奈を可愛いと思ってしまう。
そう、錦公正は遠藤紗奈のことを好きなのだから。
「にしきぃぃぃぃ!」
「わああ!遠藤君!たんま!あああああああ!」
その後、公正が智に一晩中追い掛け回されたのは、また別の話である。
続く
どうもりょうさんでございます!
「どうも川島耕太です!」
さてさて、今回は公正と紗奈のデート回でした!
「なんだか衝撃的な事実を知った気がするんだが?」
気のせいです!(あとで耕太の記憶消しときますね!)
「お、おい!なんか物騒なこと考えてないか!?」
気のせいです!
さて、次回はお泊まり会も最後かな?
「最後までハチャメチャなんだろうな」
それがこの作品ですから!
「はぁ・・・」
それではまた次回お会いしましょうね!
「さようなら!」