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農業高校は毎日が戦争だぜ  作者: りょうさん
耕太の過去編、現状編
10/110

耕太の過去編、現状編~死に対する涙の有無~

過去編、現状編に入ります

「いってきます」

そういって家を出た耕太がたどり着いた先は。


「いらっしゃい、耕太」

笑顔で迎えてくれたのは幼なじみである三島だった。

「ああ、親父さんは?」

「もう厩舎にいるよ」

「わかった、じゃあおばさんによろしく伝えといてくれ」

「うん・・・ねえ耕太」

「なんだ?」

「まだ一人暮らし続けるの?お父さんは引き取ってもいいって言ってるよ?」

顔をしかめ心配そうに言う三島。

「その気持ちは嬉しいよ、だけどそういうわけにもいかないんだ。親父さんには申し訳ないけど、引き取ってもらうつもりはないよ」

「・・・わかった、じゃあがんばって」

「ああ、ありがとうシズ」


場面は変わり厩舎。

三島の家は村でも大きな牧場なのだ。

現在は三島の父、三島三郎(みしまさぶろう)が切り盛りしている。

次代は、今は大学の農学部にかよっているシズの兄に任せると決まっている。

兄本人も了承しているようだ。

「親父さん、お疲れ様です」

「おお、耕太くんか、おつかれさん」

「それじゃあ、今日もお願いします」

「ああ、よろしくな」

「はい」

耕太は厩舎の掃除、家畜である牛への餌やりなど様々なことを行った。


時刻は夜の10時。

「お疲れ様でした親父さん」

「ああ、気をつけてな、これ、今日の分な」

「ありがとうございます、それでは」

「・・・耕太君」

「はい?」

一息ついて耕太を呼び止める三郎。

「本当にうちに来る気はないのかい?」

「・・・お気持ちは嬉しいです、ですがこればっかりは考えを改めるつもりはありませんので」

「・・・でもな、両親を亡くして一人暮らしなんて厳しいんじゃないのかい?」

「確かに厳しいですが、わしはあの家を守らなければいけないので」

「そうか・・・まあ、いつでも相談してくれ」

「はい・・・それでは」

「ああ」

耕太は我が家へと帰らず、墓へと向かった。

そこには二人の名前のものと、もう一つ墓があった。


十三年前、耕太が三歳の時だ。

「おかーさん!バッタ!バッタ!」

バッタを見つけ走り回る耕太。

「ふふ、そうね、バッタね」

それを微笑ましく見つめるのは耕太の母、川島雅子(かわしままさこ)であった。

「あはは!バッタさん!こっちこっち~」

「耕太~あんまり走ると危ないわよ~?」

「だいじょうぶだよ~」


ずてん!


盛大に転んだ耕太。

「耕太!?」

慌てて耕太に駆け寄る雅子。

「あははは!まて~バッタさん~!」

「・・・心配ないみたいね」

転んでも、ものともしない耕太を苦笑を浮かべ見る雅子。

「お~い耕太~雅子~」

耕太と雅子を呼ぶ男の声。

「おとうさん!」

耕太はその男に駆け寄り抱きつく。

「お~耕太、元気だな!」

「元気だよ!おとうさん!バッタがいたよ!」

「そうかそうか!よぉし!おとうさんが捕まえてやろう!」

「わーい!バッタバッタ!」

元気にかけていく耕太と男。

この男こそ耕太の父、川島大輔(かわしまだいすけ)である。

「おとうさんあっち!」

「よーし任せろ!」

「お母さんも混ぜて~」

実に仲の良い家族だった。


「こうたくん、あそぼー!」

「うん!いいよ!シズちゃん!」

三島3歳である。

三島家と川島家は昔から親交があり、必然的にいつも一緒にいた。

それを遠くから見つめる四人の男女。

「耕太くんも大きくなったなぁ~」

「昔はずっと泣いてたのにねぇ」

耕太を見ていうのは三島の両親である、三島三郎と皐月(さつき)だ。

「それを言うなら静音ちゃんだって可愛くなったじゃない」

「そうだな、静音ちゃんはもっと可愛くなると思うぞ?」

そういうのは、川島夫妻。

「耕太くんと結婚したりしてな!がはは!」

「耕太くんなら安心ね」

「うちも静音ちゃんなら大歓迎なんだけどな」

「そうね、知らない仲でもないし、静音ちゃんはいい子だしね」

早くも子の将来を語る親たちである。

「そういえば、大輔、仕事の方はどうなんだ?」

「ああ、だいぶ軌道に乗ってきたよ、社員も増えてきたしな」

耕太の父である大輔は、一年前、耕太が二歳の時会社を開いた。

着物などの衣類を扱う会社である。

「まさか、大輔さんが会社を開くなんて思わなかったわね」

皐月が言う。

「そうね、いろいろ大変だったけど大輔くんがやりたいって言ったことだったから」

最近では仕事も軌道に乗り、部下とも信頼関係を築くことができたようだ。

「まあ、ここからさ、耕太が立派に成長するまでにもっと大きくしとかないとな」

「はは!随分な親バカだな!」

「お前に言われたくないよ三郎」

「言えてるわね」

「ふふ、そうね」

笑い合う両夫妻。

「なんかたのしそうだね~おとうさんたち」

「そうだね~こうたくん、アリさんだよ」

「ほんとだー!アリさん!」

こちらはこちらで楽しそうな二人。


場面はある村。

大輔の実家である。

「おじいちゃ~ん!」

「おおおううう!!耕太ぁぁぁ!!まっとたぞぉぉぉ!!」

「おじいちゃんくすぐったいってば!」

「あらあら、じいさんも嬉しいのね~」

耕太に頬ずりするのは、耕太の祖父川島吉蔵(かわしまよしぞう)、それを笑顔で見つめるのは耕太の祖母川島ヨシコである。

「ご無沙汰しております、お義母さんお義父さん」

「おお!雅子さんか!元気そうでなによりじゃ!」

「はい、おかげさまで」

「大輔が迷惑かけてないかい?」

「はいお義母さん、大丈夫ですよ。母の葬儀ではお世話になりました」

「いいんだよ、お父さんに続いてお母さんまで亡くしたんだ、気にすることないよ」

「ありがとうございます」

雅子の父は耕太が一歳の時亡くなっている。

そしてその数ヶ月後、母が亡くなったばっかだった。

そのため、耕太は大輔の両親である、吉蔵とヨシコしか知らないのである。

「よし!耕太!じいちゃんと川へ行こう!」

「いく!!」

「よし!大輔!ついてこい!」

「お、俺もか!?」

「当たり前じゃ!ほら行くぞ!」

「いくぞー!」

「わかったよ、じゃあ雅子、母さん行ってくるよ」

「「いってらっしゃい」」

三人は元気に川へと向かっていった。


「おじいちゃん!おさかながいる!」

「よぉし!じいちゃんに任せろ!・・・ほれ!」

「わぁ!おじいちゃんすごい!」

吉蔵は素手で魚を捕って見せた。

「よぉし!おれも!・・・おりゃ!」

「がはは!取れとらんぞ大輔!」

「おとうさんとれてなーい!」

「くっそおおお!!」

大輔の手には何も掴まれてはいなかった。


「耕太、山や川は好きか?」

「うーん?だいすき!」

三人は川岸で座って喋っていた。

「そうかそうか!じゃあ楽しんで帰れよ!」

「うん!おじいちゃんもだいすき!」

「こ、耕太!!!(ひし)」

「うわ!おじいちゃん!くるしいよ!」

涙しながら耕太に抱きつく吉蔵。

「よし、遊んでこい!あまり遠くに行くなよ!」

「うん!」

耕太を送り出した吉蔵は真面目な顔になり

「大輔よ」

「なんだい、父さん」

「幸せに暮らせよ」

「ああ、わかってるさ」

「元気でな」

「なにいってんだ、一生の別れじゃあるまいし」

「はは、そうだな」

「そうだよ」


「ま、また来いよぉぉ!耕太ぁぁぁ!」

「うん!またくるよおじいちゃん!」

「耕太ぁぁぁぁぁ!!」

「じいさん、いい加減離したらどうだい」

「う、うむ・・・それではの耕太」

「うん!」

つくづく孫バカである吉蔵であった。

「お世話になりました、お義父さんお義母さん」

「じゃあな、父さん母さん」

「ああ、また来な」

二日後耕太たちは村へと帰っていった。

その一週間後、吉蔵とヨシコは天へと旅立っていった。

葬儀では

「おとうさん、なんでおじいちゃんとおばあちゃんは、おねんねしてるの?」

「・・・」

「?おじいちゃん~こうただよ~おきて~おばあちゃん~・・・おきてよぉ・・・」

耕太を泣きながら抱きしめる二人であった。


それから2ヶ月。

「耕太、川へ行こうか」

「いく!」

大輔と耕太は川へ来ていた。

「耕太、じいちゃんは好きか?」

「だいすき!」

「そうか、じいちゃんとばあちゃんはな、もう帰ってこないんだ」

「なんで?とおくにいっちゃったの?」

「そうだ、お空の上に行ったんだ」

「おそら?」

「そう、お空だ」

「もう、あえないの?」

空を見ながら聞く耕太。

「ああ、もうあえない」

「・・・ほんとに?」

「ほんとだ」

泣くか?そう思った大輔だったが耕太はこういった。

「そっか、もうあえないんだ」

悲しげにそう言うだけだった。

「泣かないのか?」

大輔はそう聞いてしまった、聞くべきではなかったのに。

「ぼくなかないよ、おじいちゃんいってた、もしじいちゃんにあえなくなっても、なくんじゃないぞって。ないたらおとうさんやおかあさんがこまるからって」

今にも泣きそうな震えた声で語る耕太。

「わしは、おとうさんやおかあさんをこまらせたくないから、なかない」

「!!!」

大輔はその小さな体を抱いた、強く、離さないとばかりに。


それから大輔は働いた、一生懸命、愛するわが子の笑顔のため。


それは、自分の身を滅ぼしていった。

無理をしすぎたのだ。


キキーーー!!ドゴォォン!


大輔の乗った車は大破した。

原因は大輔の寝不足による、注意散漫。

自ら壁にぶつかっていった。

大輔は、両親の後を追ってしまった。


「おとうさん、おとうさんもおそらにいっちゃったの?」

動かない父の前に座る耕太。

「おとうさんはなくなっていわなかったよね・・・ないても・・・いいんだよね?」

それを後ろから抱きしめる雅子。

「う・・・うう・・・うわああああああああああああああ!!!」

祖父や祖母、父の分全てを吐き出すように泣く耕太。

その後ろで耕太を抱きながら静かに涙を流す雅子。

その光景に誰も割って入ることはできなかった。


三年後。

耕太が六歳のときだ。

「はじめまして耕太君」

「だれ?」

耕太に話しかける男。

何度か見たことがある、父の会社でよく見た。

大輔の跡を継いで社長になった雅子のそばによくいた男。

「あなたの新しいお父さんよ」

頬を染める雅子。

そんな顔をされては耕太はこう言うしかない。

「おめでとう、母さん」

耕太は祝福した、母の嬉しそうな顔、それを見て男を受け入れた。

男が嫌いなわけではない、名前を川島明人(かわしまあきと)、亡き父の弟だ。


続く


どうもりょうさんです!耕太の過去編、現状編~死に対する涙の有無~をお送りしました。

耕太の過去の一部分がわかっていただけたかと。

次回では、新しいお父さんが出来てからの過去編になります。

シリアスが続くかと思いますが、見ていただけると幸いです。

それではまた次回お会い致しましょう。


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