表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハンオタ!  作者: 板戸翔
フィギュア好きのハンオタ
7/37

にの4

 翌日。時刻は七時ちょうど。

 いつもならだいたいこの時間に俺は起きるのだが、今日俺はすでに六時には完全に目を覚ましていた。

 お袋さえ起きてなかったな。というか家出るまでとうとう一回も会わなかった。

 『家出るまで』ということは俺今家にいない。

 じゃあ只今どこにいるかというと、我が高校、私立西桜高等学校の正門前。

 ……はいそうです。昨日思いついた唯一の作戦を実行しにきました。

 馬鹿だと思ってるよ。でも、それでも俺はやらなきゃいけないんだよ。普通証拠は机の中なんかに残しておかないんじゃないかとも思っちゃったけど、でも絶対真犯人を見つけるんだ。どんなことでも行動しないと。

 幸い、学校は朝練する部活もあるので簡単に入ることができた。

 ――ギギギギ。

「!」

 自分の下駄箱を開けた時の音に心臓は鼓動を速める。

 いつもなら意識しない小さな音にも、今は間近で大砲をうたれる並の威力だった。

 まあ今から俺は人の物を勝手にあさってあさってあさりまくりに行くわけで、かなり神経が敏感になっちゃってるんだな。

 俺はなるべく音を立てずにゆっくりと目指すことにした。

 それはばれないためというよりは心臓に負担をかけないために。

 ……老人か俺は。

 廊下を見渡すとやはり生徒一人いない。静寂だ。

 この静けさに安心感を覚えて階段へと踏み切った俺だったが、時間が経つにつれ逆にその静けさが俺に迫ってくる感覚がしてきて、いろいろな感情が身体の中を駆け巡った。

 はあーやりたくねー。できればやりたくねー。

 でもやらないと俺犯人だー。

 ……でもでもなんかもうどうでもよくなってきたな。やめるか。

 あ、でも里香が生徒会に睨まれちまうな。それはだめだ。

 ……何考えてんだ俺は。あいつのことなんかどうでもいいだろ。

 てかなんで昨日から俺はあいつのこと意識して……。

「――っ!」 

 なんで今俺はあいつを意識してるなんて思ったんだ。何言ってんだよ俺は。

 ……疲れてきたな。何してんだ俺。

 そんな感じでぐるぐると感情は中で混沌とし、俺の精神を追い詰める。犯罪起こす時の人間の心理ってこんな感じなのか?

 早く終わらせよう。頭おかしくなりそうだ。

 歩みを速めて数十秒、目の前にあったのは――二年四組。俺の教室だ。

 まあ容疑者は一応この学校の関係者全員となるが、フィギュアが落ちていたのはこの教室だし、まずはうちのクラスの生徒を疑うのが普通だろう。

 というかうちのクラスの奴の犯行でほぼ決まりだろう。あいつらは校内でもとくに俺に対してあんまりよく思ってない輩だからな。

 ったくみてろよ。今に俺が暴いて吊るし上げにしてやる。

 俺は強い気持ちを胸にして(人の机の中を漁るための強い気持ち……)扉を開けようとし――


 ――ガタガタガタ!


「!」

 しようとした直前、中から何かを引きずる音がした。

 なんだ?今から朝練行く奴がクラスに寄ったのか?

 しかし普通朝練の奴が行くのは更衣室でクラスに来る必要はないはず。

 俺はおそるおそる扉の窓から中をのぞくと……。

「む、誰だ……って、俺の席!?」

 そう小さく一人で疑問して一人で驚いた。

 朝日の逆光で顔が見えず、誰だか分からないが制服からとりあえず女子がなぜか俺のイスの背もたれに手を置いていた。おそらくさっきの音は俺のイスを引いた時の音だろう。

 しかし何で俺の席に……。

 ……………あ。

 確信した。

「おい、そこで何やってんだ――真犯人」

 そう言って俺はおもいっきり扉を開けた。いや、さすがにそう思った。昨日の今日だし。

 大方風紀委員から何も処分を受けなかった俺に今度こそと思って追加攻撃を加えようとしていたところだったんだろう。そうはさせるか。

 真犯人と思われしき人物は俺の姿を見てずずずと後ずさりした。顔は見えないが明らかに動揺してる様子だ。

 や、もうこれ確定だろ?

 俺は確信してゆっくりと真犯人に近寄る。

 やばい、自分が優位に立ってると思うとちょっと楽しい。ドラマとかで悪役がヒロインを追い詰めた時ゆっくりと迫っていくときの気持ちが分かった。

 いかんいかん。あくまで俺は今正義なんだ。そんなことより真犯人の確認。

「おい、お前一体誰なん……ッ!!」

 数秒前までの高揚感が、とてつもない驚愕に埋め消された。

 なぜなら逆光から外れた相手の顔が、クリっと丸いのにどこか威厳のある目とニキビ一つない透き通った肌の顔だったから。

 肩を包み込むまで伸びた黒髪と一七〇センチはあろうというモデル体型の持ち主だったから。

「……嘘だろ?」

 思わず言ってしまった。


 だって目の前のその人が、栗原清美だったから。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ