にの2
名指しされちゃ仕方なく俺は自分の席に戻る。あー、どんな服装なんだよ! 気になりすぎるだろ。
心の中で悶えながら起立、礼、着席をやると。
「島田落ち着け」
川瀬先生が何か悟ったような目で俺を見てきた。こうなったのお前のせいだろうが!
行き場のない怒りを地団駄にする。先生に怒られない程度で。
すると、川瀬先生はなおも俺に視線を向け続ける。あれ、先生に向けた地団駄だとバレた? でもなんかそれとは別の意味がこもった目だったような……。
川瀬先生は何か俺に残すように見つめた数秒後。
「まあいつもなら始めに今日一日の予定を言うところなんだが……」
と、どこか歯切れが悪そうに言った。
なんなんだよもう早く言えよ! 俺は一刻も早くリアスの服装を知りたいんだからさ。
俺は川瀬先生の口を無理矢理上下左右に動かす想像をしたが、先生は先を話すことなく──手にもった紙袋に手をいれた。
あれ、そういやあの人紙袋持ってたんだ。なんだ? ゴールデンウィーク終わりの抜き打ちテスト? や、でも『仏の川瀬』という二つ名で有名の先生がそんなのするはずないよなあ。
周りを見ると、生徒の何人かも先生の様子に何か不信感を抱いているようだった。
川瀬先生は紙袋のなかで何かを掴むと、何か躊躇うような仕草を見せた後。
「昨日、まあゴールデンウィーク中だが教師は学校に来なきゃならんでな。ついでに教室も覗いたんだが……」
先生は掴んだ物を取り出し──
「そしたら教室にこんなものが落ちていた」
──教卓の上に置いた。
それは……十五センチくらいの大きさがあるフィギュアだった。人形の。
きれいなほんのりと光沢がある黄色い髪に水色の瞳を持った小顔の、少女というかお姉さんの風貌ある女性。
……あれ? これって──
(──リシア!)
思わず口に出しそうになった。
そう、あれは紛れもなく『カレッジS×S』のメインヒロイン、お姉さん悪魔のリシアその人|(?)だった。
しかし、それは今まで見たことないリシアだった。柔らかなエメラルドグリーンと白が合わさったフリル付きワンピースと白のハイヒール、そしてハート型のペンダントが付いたネックレスを身に付けていて、いつものイメージとは少し違っていた。
(何なんだあの――)
――リシアは? の前に声が頭をよぎった。
『──艶やかお姉さんであるリアスのイメージとは少しずれるが──』
黒瀬……まさか……。
黒瀬に視線を送ると、あいつは意図を汲み取ったらしくコクッと一度頷く。
まじか……。
あれが──五巻の服装変更後のリアス。
うわ、あの服のリシアもアリだ。
でもやはりフィギュアはフィギュアだな。恐らくラノベの挿し絵で見たときの方が感動がでかいだろう。
……って感想思ってる場合じゃねえ! え、なんでそのリシアがこの教室に落ちてんの!?
「まあ、別に俺は責めるつもりないから、とりあえず持ち主いたら来てくれんか? 恥ずかしいなら後でもいいぞ」
先生は少しあきれたように言った。
まあ、落ちていたもんがトランプとかウノとかならまだ理由分かるけど、それがフィギュア、それも両手で抱えてちょうどいいくらいのまあまあな大きさがあるもんだもんな。
周りを見回すが、みんな「唖然」一言だった。
だろうな。リシア知ってるのはこのクラスで俺と黒瀬だけだろう。
ったく、でも誰が落としたんだよ……。
……あれ?
この展開、なんか嫌な気がするぞ。
「おい島田、あれお前のじゃねーのか?」
どっかしらから発せられた声がスイッチとなり、教室中の生徒の視線が本日二度目、今度は朝の倍増しで俺一点に集まった。
ほーら、的中。
「ちょ……ちょっと待てよ」
俺は集まる視線に一時動揺したが、とりあえず立ち上がって口を開く。黙ってたら濡れ衣着せられちまう。
「ま、待てよ。あれは俺のじゃない。だいたいこのクラスには俺以外にも持ってそうなやついるだろ?」
そう言って俺は黒瀬に向く。
そう、このクラスの正式なオタクは黒瀬だけだ。しかも「持っている」とは直接言わなかったけど口調から恐らくあいつはあのフィギュアを持っている。あれはあいつの所有物と考えるのが一番自然だ。
すると先生が黒瀬に視線を移す。
「黒瀬、これはお前のか?」
すると黒瀬はジーッと教卓の上のフィギュアを眺めた後、ふんと小さく鼻を鳴らした。
「俺は観賞用、保存用、自慢用に3つそのフィギュアを持っているが、観賞用以外は箱から出していないし、そのフィギュアと俺の観賞用とは顔つきが若干異なる。ゆえにそれは俺のではない」
「だそうだ島田」
「納得したのかよ!」
俺に向き直る先生。
なんだ顔つきが若干異なるって。同じフィギュアにそんなことがありえんのか?
随分と黒瀬は信用されてんだなあ。俺とは大違い。確かに黒瀬の様子を見るに嘘はついてなさそうだけれど。
してもこのままじゃやばいな。
「や、俺は前から言っているように、ラノベは好きだがアニメとかフィギュアとかは興味ないんだって! だから俺はオタクではないの」
「…………」
みんなの視線が鋭くなる。
あー、これ俺がオタクに偏見持ってるってまた勘違いしてやがる。この空気めちゃくちゃ居づれー!
とりあえずすぐに否定しなければと、俺は急いで口を開いた。
「お、俺はリシアのフィギュアなんて持ってねーよ! 大体そんなでかいもんどうやって落と……す……」
……あれ、なんかまずったかも。
「リシア? このフィギュアはリシアって言うのか島田」
川瀬先生が目を細めて俺を見つめる。
やばいよやばいよ! あのリアクション芸人が興奮してるサイとキスしようとしてる時より展開が危ない! なんか、なんかないものか?
……そうだ! これ確か。
「こ、これは昨日発売のもんだぞ! 世間は昨日までゴールデンウィーク。俺は昨日学校に来なかったんだよ」
……あれ、俺またまずったかも。
「これが昨日発売だって知ってたんだな島田」
先生が額に手をやった。
「違う、そのリアスの服装は原作では挿し絵にされてなくてだから今この場で知ったわけで……」
……俺って本当馬鹿なんだと、自己理解した。
「分かった分かった島田。俺は島田を責めないよ。俺はな。とりあえず放課後風紀委員のところへ行ってこい」
「……はい」
こうして、この世にまた新たな冤罪が生まれたのだった。