にの1
「やー、今思っても四巻のあそこでリシアがまた別の服装変更するとは思わなかった」
「ああ。俺もあの展開は予想できてなかった。でもあの展開は俺的にアリだ」
女子四人が去ってくれたおかげで俺はやっと黒瀬とラノベ談義ができた。今は『カレッジS×S』のリシアがやる、瞬時に服装を変えて強くなる技『服装変更』についてだ。
やー、それにしてもこいつ本当にこっち方面好きなんだな。
今も服装変更後のリシアを想像してるのか顔が弛みまくってる。こんな顔見せられるとこっちも会話しがいがあるわ。
「あ、でも俺一つ気になるのはさ、五巻の服装変更の場面で新しい服着たリシアの挿し絵がなかったんだよな。あの瞬間こそ挿し絵を入れるタイミングだったと思うけどな」
ラノベの挿し絵は水着姿や体育着姿など、女子キャラがいつもとは違う姿になる時にそれが描かれる場合が多い。それは見た目や生地は伝えられても、その服装の魅力までは文章だと限界があるし、なにより読者がその姿を見たいと望むからな。
リシアは『カレッジS×S』のメインヒロインであり、いろいろ服装を変える服装変更を使うのでよく挿し絵の対象になるのだが、なぜか五巻の服装変更は挿し絵にならなかった。あのシーンを読んだ瞬間は、普段活字に重点を置く俺もさすがにイラスト担当の人に抗議文を送ってやろうと思った。
確かに特に重要なシーンではなく、次のシーンへの繋ぎみたいなところだったけど、『カレッジS×S』において服装変更の挿し絵は欠かせないものとなってるからな。
これには黒瀬も賛同するだろうと顔を見たが、表情はノーマルの無愛想な顔つきだった。
あれ、外したか? と思ったら……。
「ああ、それなら前からカレッジファン中から声が上がっててな。解決策としてその服装したリシアのフィギュアが発売したぞ。昨日」
という俺にとっての爆弾発言を放った。
フィ……ギュア?
俺が呆然としている中。
「いやー、あれはよかった。活字では服装を『柔らかな術を放つための服装』と書いていたが、その言葉をかなりきれいに再現されていた。艶やかお姉さんであるリシアのイメージとは少しずれるが、でもしっかりとリシアはそこにいて……ふふ」
そう言って黒瀬はにへらーと今日一の弛み顔を発動。
「な……な……」
なぜだー!
世に出すなら後々の巻で挿し絵にすればいいじゃないか! こういうことは原作で解決すべきなんだ。
それを……おもちゃ会社の外道な下心で作られたものに譲るとは。
原作者、あんたにプライドはないのか!
…………。
くそう! めちゃくちゃ気になるじゃねえか!
せめて服装がどんなのかだけでも聞こうかな。
「あのさ黒瀬、そのリシアってどんな服装──」
──キーンコーンカーンコーン──
「おーい、ホームルーム始めるぞー」
鐘の音と同時に入ってきたのは担任であるおじいちゃん先生川瀬昭彦。
「ほら島田。早く席に座りなさい」
入るなりなぜか俺を名指しした。
ねえ、あんたいつも鐘鳴ってから五分くらいしないと来ないよな?
俺、先生嫌いになったよ。