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ハンオタ!  作者: 板戸翔
黒瀬と活動部と
26/37

ろくの1

「はあ……」


 俺は自分の席へと登校を果たした瞬間に机に突っ伏した。

 あーやべ、クラクラする。クラクラしてもやもやして……体が重い。

 俺の見るから体調不良に周りも若干引き気味だった。

 あーごめんよ。クラスで浮いてる奴が体調悪いなんてさぞキモかろう。

 ただ安心してほしいのは風邪ではないからうつらないぞ。

 俺がこんなんな理由……もう言わなくても分かるだろ?

 活動部だ。

 もちろん栗原から送られてくる日々のオタク用語テストメールのせいもある(はい、これまだ継続中です)。

 が。

 なぜか栗原は六月に入ってからというもの、里香に暇な時間が出来たらたとえ自分に予定があったとしても無理矢理スケジュールを空けては部活動を強行するという策を取り始めたのだ。


 『その考えは意地悪じゃねえの? お前だって里香が大丈夫でも自分がだめで活動なしの日あるじゃんか』


 この間のテスト最終日で俺が言ったことを根に持ったというのだろうか。こんなことになるなら言うんじゃなかった。

 しかも活動自体もかなり無茶苦茶なものだった。

 内容は全て栗原の独断で決められ、話し合って内容を決めるという活動部の活動内容は早くも破綻。またさっきは“里香に暇な時間が出来たら”と言ったが、俺の予定は言うまでもなく無視。逃れようとしてもラノベを盗まれてジ・エンド。

 六月に入った時は梅雨のじめじめしただるい季節になるし、テストも祝日もないから部活動日が出来るリスクが減るんじゃねえかと俺は密かに期待をしてたが、それは淡い夢だった。

 ただな。

 毎度栗原は壊れたり里香ははじけすぎたりといろいろ無茶苦茶で、かなり振り回してくる活動部だけれど、実際活動部の活動自体が直接的な原因ではない。位置的には間接的。何なら昔の里香の連れ回しと比べれば今日までの活動部の活動はかわいいもんだった。

 だからな。

 今回問題となっているのは……そのせいでまともにラノベが読めてないことなんだよおお!

 一体俺は今月何冊読めるのだろうか。予想の数が乏し過ぎて泣けてくる!

 登校中の時間も読書に当ててなんとか挽回しようとしたんだけど。

「健児ー! 今日は朝練ないから一緒に学校行こー!」

 と家出た瞬間に里香がやってきて。

「島田君! 私今日は生徒会の朝の集まりないから一緒に学校行けるわよ」

 と栗原もやってきて。

「…………」

「…………」

 二人は互いににらみ合いを始め、それさえもままならなかった。

 おいお前ら、何でいつもは仲いいのに登校の時は修羅場に突入なんだ。全く分からん。

 そういうことで結局一ページも読めずに学校へ到着。そしてとうとうラノベガソリンが切れた俺はストレスで体調を悪くしたということだ。

 いや大袈裟だと思うかもしれないが、テレビやパソコンの使用量が急激に減った生活を送ってみ?

 俺の場合だいたいそれと一緒だから。むしろそれよりひどい。

 あー何もやる気出ねえ。保健室で寝てこようかな。

 そう思いしかし立つことも面倒になっていた俺はどうしようかとダラダラ考えていると。

「島田」

 男子特有の、しかしその平均よりも比較的低い声がすぐ横から聞こえた。

 のっそりとダルく俺が顔を上に向けると、ツンツンと尖った髪型に少しつり気味の目、そして一八〇センチ越えの高い身長。

「どうした、黒瀬?」

 目の前に黒瀬誠也くろせせいやがいた。

 栗原ほどではないものの、運動神経抜群で成績優秀のオールマイティーさを備え、何より今活動部が目指している完全なオタクさんだ。

 しかし、黒瀬が自分から声をかけにくるなんて珍しい。こいつは自分が興味を持たない限り自ら行動することはまずない。

 まさか……。

「お前、俺を心配して来てくれたのか?」

 ちょっとばかしそんなことを思って言ってみたが。

「…………」

 黒瀬は俺を見つめながら無視してきた。

 あ、違うのね。まあ期待してはなかったけど……せめて視線合わしてんなら何か言え。

 興味があるとないで本当に分かりやすい奴だが、でも見つめられて無視されると結構つらい。特に今の体には。

「じゃあどうしたんだ?」

「……昨日発売した『カレッジS×S』の新巻はもう読んだか?」

「…………」

 え、新巻? 待てよ、えっと……。

「忘れてたああああああああ!」

 俺はガス欠を忘れおもいっきり頭を起こして両腕でそれを抱えた。

 そうだ、昨日発売したよ! 一ヶ月前にラノベの発売日を一斉記載するサイトでちゃんと確認してたのに。

「……珍しいな。島田がラノベの発売日を忘れるなんて」

 黒瀬はほんの少し目を開いた。

 や、本当、島田健児一生の不覚です。

 くそう……全部活動部のせいだ。

「いや、実はいろいろあ……」

 流れで俺は原因を話そうとしたが、すぐに途切った。

 それはまず里香や栗原の存在をちらつかせてしまうことにある。

 すでに俺と里香と栗原の三人が部活動を始めていることに関しては学校内でかなり知られちまってるしな。

 それもあったし、プラス――黒瀬がすでに携帯を取りだしていたから。

 こいつ……俺が自分の興味のない話をしようとしてることを予知してやがった。

 むう。一旦は止めてしまったものの、こうされるとなんか逆に聞かせたくなってきたな。

 さてどうしたものか。ポンポンポン、チーン。

 じゃあこうしてみよう。

「黒瀬、この間面白そうなあらすじのラノベ見かけて今それ読んでんだけどさ」

「どんなのだ?」

 黒瀬が携帯からサッと顔を上げた。やはり食いついたか。

「ある主人公の男の子が女の子二人の秘密を立て続けに知ってしまうんだけど、なんとその女子二人の秘密は共通していてしかも主人公も彼女たちの秘密に関連があったから、そこから三人で秘密にまつわる変わった活動を行う部活動を始める物語」

 これを言ってすぐに気が付いただろうか。

 そう、俺が今言ったことはラノベではない。実際に起こっていることである。

 しかしそれをあえてフィクションとして伝えることで里香と栗原の存在を出さず、かつ黒瀬に聞いてもらえるという一石二鳥の効果を発揮する。

 自分を主人公だなんて何とも厚かましいが、まあそれは物語をより伝えやすくするための一つと理解していただきたい。

 俺の説明を聞くと黒瀬はふむふむと二回頷いて考える間もなく。

「なるほどドタバタ系か。するととりあえず主人公は女二人に振り回されてるだろうな」

「…………」

 見事に的中していた。

 でも確かにラノベとして考えてみればその通りだ。主人公が男で周りが複数の女で始まるドタバタ系ラノベをいくつか知っているが、ほとんどの主人公はいい思いをしていない。

 うわまじかよ。俺あんだけラノベ読んどきながらありがちの不幸ルートを気付かず辿っていたのか。

「詳しく聞かせてくれ。どこまで読んでんだ?」

 少しずつ声が大きくなってきた黒瀬。

 興味を持ってくれたことは大変ありがたいが、だんだん顔が近付いてきてます……。

「主人公が二人の秘密を知って、そんで活動を二回やったとこまで。まあ章的(・・)には第五章とか、六章とか」

「章的には……?」

「うぉうぉうぉうぉう!」

 俺は盛大に首を振った。

「第五章を終えて六章に入ったところ」

 きっぱりそう言い直すと黒瀬はなるほどなと小さくいくらか頷いた。

「となると一冊で一つの話を通したストーリーではなく、一回一回くだりを挟みながら進むタイプか。まあそうだろうな。主人公が振り回されるドタバタ系は一巻、二巻では大抵そういう進み方をする。ジャンル的に今の時代の王道だ」

「王道……」

 俺の人生、王道か。はは。

 そう言われ少し虚しく、でも言われてもおかしくないとも思った。黒瀬にハンオタ関連は言ってないが、オタクが関係するラノベも何冊か有名なものが出ているため、今や一つのジャンルになりつつさえある。それがもともとジャンルとして確立している部活動ものと合わさったのだから、ここから考えてもいかに自分がラノベ的にベタな設定の中を生きているかがそこからうかがえた。

 俺が自分の近況を客観的に分析していると、「そうすると」という黒瀬の声。どうやらまだ終わっていないらしい。

「その先はおそらくあと二回程部活動のくだりを挟んでその後『波乱』ありの、クライマックス突入といったところか」

 なんか先まで予想し始めた! え、『波乱』? クライマックス?

 何それ、そんなの今のところ俺がついに限界値迎えて結果過労死することしか思いつかない。あまりにラノベが読めな過ぎてストレス抱えまくってね。

 俺が「さあ、どうなるんだろうな」と、とぼけた感じで、しかしあながち間違ってなさそうだったことに口元に作った笑みを震わせていた、その時。

 ――タラリランララン♪

 着信音が俺のポケットから。

 あー授業始まるまでには電源切っとかねえとと思いながら携帯を開くと。

「…………」

 俺はフリーズした。


 【FROM】栗原清美

 【件名】ライトノベル☆

 【内容】放課後和室に来てね。

 

 そしてその下に『蒼弾のレチタティーボ』十巻の画像が――ピースサインする栗原が背景で添付されていた。

 あー、そうか。なるほど。

 黒瀬、順調に物語は進んでるみたい。

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