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ハンオタ!  作者: 板戸翔
活動部の一夜漬け
21/37

ごの2

 里香を再びイスに座らせ、泣き止むのを待つこと十数分。

「……ごめん、もう大丈夫」

 ということなので聞いてみた。

「で、何でお前ら俺んちにいるんだよ?」

 いくら同じ部活の部員同士といえど、また片方は幼なじみといえど、不法侵入してんだから話によっては警察に通報しよう。そうしよう。

 俺が言うと里香と栗原はお互いを見合い、「じゃあ私から」と里香が小さく手を挙げた。

「私今日も空手部の朝練で学校に朝早くから行ってたんだけど」

 ……朝。

 俺んちの不法侵入の理由に随分と時間が遡るんだな。

「いつもはギリギリまで練習してるから朝のホームルーム逃しちゃうんだけど、今日はたまたま早くにキリがよくなったからホームルームに間にあったんだ」

 ふむふむ。

 まあよかったなと言うべきか。

「そしたらさ、うちの担任の先生こう言ったんだよ。『明日から中間テストだ』って」

 ……うん、そうだけど。

「で?」

「私今日まで明日テストだって知らなかったんだよおおおおお!!」

 里香はダッと勢いよくイスから立ち上がり、再び目に涙を浮かばせそう叫んだ。

 響く。ああ響く。

 栗原の前にあるコップの中のオレンジジュースも微弱に振動した気がした。

「……はい?」

「だからテストって知らなかったの! だから勉強もしてないのおおおおお!」

 ……や、「おおおおお」の部分を涙声で震わされても。

「だからって何でうちに来んの?」

「冷たいよ健児ー! お前は氷か! ドライアイスか!! ドライアイか!!!」

「……このトラブルメーカーが」

 あいにく俺の目は乾燥していない。

 できればすぐにでもお帰り願いたかったが、一点非常に気になることが。

「お前毎日勉強してたんじゃねえの? 入試のときも点数よかったし、一年の時の定期テストだって教科によっては度々上位に入ってたじゃねえか」

 そうこの空手バカ。

 運動神経はいいくせに入試の点数は悠悠入れるほどの高得点を叩きだし、これまでの定期テストも申し分ない成績を残してきていた。

 しかし昔は勉強苦手女(活字が苦手なことはもうご存知だろう)であったことも知っている俺は、里香は短期集中とかじゃなくて日ごろから少しずつコツコツと努力して勉強してるもんだとばかり思ってたんだ。うん。

 なのに今、目の前でテストについて泣いている。

 一年前もこの時期にテスト受けてたはずでもあるのに。

 なぜ?

「入試の時は健児と高校が別々になりたくないと思って必死に勉強したらいい点数が出ただけ」

「…………」

 この俺依存症女。

 まさかここまでだったとは……。

 腐れ縁も里香そのものが呪いなためか?

 里香は続ける。

「それに去年までの定期テストはうちの部活の二つ上の先輩に(やま)(はり)さんていう定期テストの山を張る天才の人がいて、今まで私その人に山を聞いてただそこを勉強してただけだったんだ」

「山張さん……」

 なんだその名字と特技が合致してる人は。

「でも去年度卒業しちゃって、したら山張さんの存在が学校から消えたと同時にテストの存在も消えちゃって」

「おい」

 消すなよ。

 お前の中では山張さん=テストだったのか?

「連絡先は?」

「お互い簡単なメルアドだったから休憩中に紙に書いて交換したんだけど、いつの間にか失くしてた」

「…………」

 山張さんすいません。

 里香の中であなたの存在はテストでした。

 そして前回言ったうちの生徒は模範みたいなやつも修正だ。

 うちの風紀委員会副委員長は中間テストと山張さんを忘れる最低な奴です。

「どおおおおしよおおおおお健児ーーーーーー!」

 また俺のところに泣きつきに来た里香。

 ちなみにうちの学校も他と同じく定期テストで赤点連発の生徒には補習と追試が待っているのだが……正直俺受けたやつ見たことない。もしなったら学校中のいいさらしもんだろうな。

 でもだからって俺にどうしろっつんだよ。俺はお前のお助け便利ロボットじゃねえぞ。

 俺が必死に里香を引き剥がしにかかっていると。

「なるほどそれで里香はここにいたのね」

 視界に入るはコクコクと頷いてオレンジジュースをすする女子一名。

 そういやこいつもいたんだった。

「栗原は何でいるんだ」

 聞くと、平然とした顔で。

「活動部の部活動をしに来たのよ」

 そう言った。

 中間テスト前日に。

 生徒会副委員長が。

 部活動をしにと。

 完全なオタクに近づく活動をしにと。

 そう言った。

「終わったなうちの学校」

 風紀委員会と生徒会の各副長がこれだもん。

 で、うちの学校生徒主体でしょ?

 組織の幹部がこんなんじゃ、近々うちの学校変態で溢れかえるようになるな。

「待ちなさい。私だって考えてここに来たのよ」

 俺の変態横行学校の妄想を断ち切るかのように栗原は手をバッと前に突き出してそう言った。

「うちの学校の生徒は推薦を希望すればまず浪人することはないし、それにほとんどの生徒はそれでも勉学の努力を怠らない、模範のような人たちでしょ? だから島田君と里香もその中の二人だと思って、テストの準備が出来てると思ったのよ。だから午前授業というテスト前日の今日こそ、絶好の部活動チャンスと思ってここに来たわけ」

 あー、うちの学校の特徴を見た上での行動だったわけか。

「それでインターホン鳴らしたら健児君じゃなくてなぜか里香が出てきて『え?』ってなって」

「!」

 そうだ、まだ二人からうちに不法侵入している直接的な理由聞いてない。まあ今ので栗原の理由は分かった。

 や、里香が出てきたからって栗原もうちに入っていいという理由にはならないが、困ってる様子の里香がほっとけなかったというのもあるのだろうきっと。

 あとは里香だよ里香。

「あ、それで予想外の展開になってとりあえず落ちつこうとこの家にあったオレンジジュースを飲んでたの」

「勝手に飲むなや!」

 てか今ボケ挟むな! 明らかに栗原のターンじゃねえだろ。

 そんでだ。

「里香、お前はなんでこの家に……」

 『来たんだ』と言おうとしたところで俺は止めた。

 来た理由は分かってた。とりあえず困った展開になったから俺にすがりつきに来たんだ。

 俺は言葉を直して再び言った。

「お前、どうやってうちに入った」

 すると里香は「え?」となぜか驚いた顔をして言った。

「とっくの昔に千代子おばさんに合鍵もらってるけど」

「…………」

 お袋よ、なぜあんたはそこまでストーカーの肩を持つんだ。

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