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ハンオタ!  作者: 板戸翔
活動部の一夜漬け
20/37

ごの1

 オタク用語|勉強(事件)から数日が経過し、時は五月の下旬に差しかかった。

 この数日間、活動部の活動といえば、ゼロだ。あの朝の登校の修羅場なやつも数日前の一回きり。

 これは栗原の言った通りになった。俺たちは各々の活動が忙しかったのだ。あ、ちなみに俺はラノベな。

 だからこの数日は実に平和ないつもの日常に──ならなかったんだな。

 翌日からこんなメールが俺に毎日届くようになったんだ。


 【FROM】栗原清美

 【件名】テスト

 【本文】問一、コミケット用語で傾向が似たサークルの集まりのことを?

    問二、萌えは何年にユーキャン流行語大賞に選出された?

    問三、ロリコンの一ジャンル的なものであり、八~十二歳程度の女の子に萌えること、または萌えてる人のことを?

    問四――


 こんな感じのが問二十まである。

 どうやら用語の勉強は数日前ので終わったわけではないらしい。

 てか栗原、俺はお前とメルアドを交換した記憶がないんだが……。

 これが来た時は毎回無視をしたい衝動にかられるのだが、まあ無視をしても俺に幸運が回ってくるとはとても思えなかったのでネットで調べて送る。

 すると。


 【FROM】栗原清美

 【件名】Re:テスト

 【本文】問五、十、十二、十七不正解。

    調べてその程度とか、あんたヴァカァ?(アスカ風)


 こんな感じのが返ってくる。

 ムカつく。お前も所詮にわかだろうが。

 そしてたまに栗原は過去に出した問題を混ぜてくるのだが、それを間違えるともっとひどい。


 【FROM】栗原清美

 【件名】Re:テスト

 【本文】え? 何? どういうこと? え、何で間違えちゃったの? 島田君が間違えた問題って、私が前に出した問題だったんだけど……。あ、携帯が文字化けしちゃってたとか? そういうのなら全然いいのよ。うん。ただもし体調壊しちゃってたりしてるなら言ってね。いつでもそっちに行くから。


 本気で心配してくる。

 無論返信はしない。

 もししても返ってくるのはイライラが膨れる文面だろう。

 そしてこんなメールたちのせいで俺のラノベ読書時間の約半分が削られているのだから怒りが加速する。

 ああくそ、今も怒りの情動が!

 ――ガタン!

 俺が勢いよくクラスの扉を開くと、クラス内の生徒たちはこちらに視線を集中。

「……悪い」

 ああ、またやっちまった。しかも前と同じく登校時。

 しかし前回と違く、俺が言うと皆はすぐに机の上に広げた教科書やノートに目を戻した。

 今は朝八時ちょうどくらいだが、すでに生徒のほとんどがクラスに着いている。

 はあ、本当、今はオタク用語を勉強してる時じゃないんだよ。


「えー、そうしたら朝のホームルームをはじめるが……」

 三十分後。いつものようにチャイムが鳴ってから五分後くらいに川瀬先生はやってきてホームルームを始めた。

 まあだいたい今日話すことは分かるから別にやらなくてもいいんだが。

「えーと今日は、明日から一学期中間試験が始まるから授業は四限で終わるぞ」

 当たった。まあ賭けにもならないな。

 そう、明日からうちの学校はテストが始まる。

 近年二期制にする学校が増えているようだが、うちは私立ゆえか相変わらずの三期制が続いており、夏休み前に中間、期末を両方行う。

 なので二期制の中間試験が六月の下旬から七月の上旬なのに対し、うちは五月の下旬からもう始まってしまうのだ。

 さらには二期制は中間を終えれば夏やすみなのに対し、うちは中間を終えても期末を終えない限り夏休みはやってこない。

 まったく、なんたってうちは時代遅れなんだ。

 ……っと、そんな感じで普通の学生っぽく嘆いてみたり。

「だから、まあ、明日からがんばれ」

 川瀬先生もそう短く終えた。

 うん、まあうちでのテストの存在ってそんなもんだ。

 それはうちが西桜大学の付属高の一つであるためで、付属高推薦がもらえれば簡単に西桜大学に進むことができるためだ。

 しかも付属高のなかでも偏差値最高、日本の高校全体の平均と比べてもまあまあ上の位置にあるこの私立西桜高等学校の生徒なら、推薦入学を志望すれば一人残らず全員行けると言っても過言ではない。

 だから定期試験で本当に必死になるのは今から指定校推薦や他大学受験を狙ってる奴らくらいだ。

 そのためうちの学校でテストはそこまで重要なものでもないんだが、それでも平均よりも偏差値がいい学校の生徒たちのためか、すでにゴールデンウィーク明けからどこのクラスでも半分以上の生徒が朝早く来てノートを開いていた。

 いやー頑張んなくても大学いけるのにそれでも勉強するとか、なんてうちの学校の生徒は模範的なんだろうか。当然うちの学校に成績不良で補習を受ける生徒はいない。

 と、そんなことを言ってる俺自身もここの生徒であり、計画的に勉強してきました。偉いだろ? ただラノベ読んでるだけでもないんだよ。まあ俺の場合は元が馬鹿だかたらその分努力しないといけないということもあるんだが。

 だからこそ栗原メールの時間が毎日あったことに憤り。

 ったくあいつ。ここ最近は毎日二冊どころか一冊目も読破できねえ!

 だがしかーし、さすがのあいつもテスト前日にメールを送ってきたりはしないだろう。今日は久しい活動部が完全に絡まない平和な一日を過ごせそうだ。


 ……過ごせそうだ……ったのに。


 それは四限が終わって午前中に学校を出て家に着き、玄関に入った瞬間に始まった。

 まだお袋は旅から帰っていないが、さすがに西条家でずっと暮らすわけにもいかず、三食世話になるだけで後は自分の家に帰って生活していた。

 だからただ今俺は一人暮らし中。ということは俺が帰るまで家の中には誰もいないはずなのに。

 ローファーがね、二足ね、あるんだよ玄関に。

 うちの学校は制服の規定でローファーをはかなければならないが、俺が持っているのは一足。しかもそれは今はいている。

 だからどう考えてもおかしな現象なんだよね。

 それでも何も考えず、無理矢理思い過ごしだと自分に言い聞かせてリビングのドアを開けてみたんだ。

「あ、遅かったわね」

 イスに座ってオレンジジュースを飲む栗原がいた。

「…………」

 うん、まあ普通ならここで栗原を怒鳴ってドタバタ劇が始まるところだ。

 そう、普通ならね。

 だけど俺は怒鳴らなかった。

 や、できれば始めたかったんだけど、もう一つの問題が視界に入ったんだ。

「健児ー! どうしようー!!」

 俺の姿を見るや里香はイスから倒れるように俺に抱きついてきた。

 泣きながら。

 いっろいろわけが分からんがとりあえず。

「……どうしようはこっちのセリフだ」

 どうしよう、不法侵入者が二人いる。

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