追憶2
ある女性が、まだ幼い少年を連れ、広大な日本庭園のある家へ来た。
門前で女性と老人が何かを言い合っているが、少年の耳には入らない。ただ、空を見上げてじっとしている。
老人の後ろに隠れるように、少年とあまり年の離れていない少女が、怪訝そうにこちらを見ている。少年は気づいてはいるようだが、反応はしない。
やがて、話が終わったのか、女性が少年に近づいてきた。
「いいかクソガキ。ここが今日からお前の家だ」
そう言われ、ただなんとなく頷く。感情が希薄というより、知らないといったほうがあてはまりそうだ。
そんな少年の反応に、大きくため息を吐く女性。
「じゃあ頼んだぞ、ジジイ」
「わかっとるわ、ババア」
険悪な雰囲気が、二人の間に流れる。そのまま戦いになりそうでもある。
老人の後ろに隠れていた少女が出てきて、少年に近づく。
「お前、名前は?」
「……」
「今日から一緒に過ごすのか?」
「……」
「お前は私をなめてるのか?」
「……」
「……」
「……」
何も返さない少年を、少女がいきなり殴りつけた。
そのまま数メートル吹っ飛ぶ。裏家の戦闘訓練を受けているだけはあるようで、少女はさも当然のようにしている。
少年はゆっくりと起き上がるが、やはり何も返さない。
「おじいちゃん、あいつ嫌い」
少女の率直な感想。その感想に、女性も老人も笑っている。
それでもやはり、少年は何も返さなかった。