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獅子が世界を喰らうまで  作者: 水無月ミナト
第一章 華宮学園
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6話

 アリスと別れ、少しの間門前でじっとしていたが、やがて月宮家へと入っていく。

 庭を回り、月宮家の和風の方にある道場に入ると、一人の老人がいた。

「おお、来たか餓鬼。待ちわびたぞ」

 そう言ってくるのは和服の老人、憑宮豹鬼。しかし声は張っているし、耳もよく聞こえ、姿勢も正しいので、老人と判断するには顔のしわを見るしかない。

「待ちわびないでくださいよ、師匠。しかも何気に戦闘服ですし、殺る気満々じゃないですか……」

そう言いながら肩を落とす彼。

「何を言っている。この服はちょうど仕事が終わったからで着替える暇がなかっただけだ」

 そう言い、服の一か所を指してくる。そこには血が飛び散っている跡が見える。

「それに、貴様を殺るのは海鯱であろうが」

 言われた瞬間、後ろに殺気を感じ、即座に裏拳を与える。

 鋭い一撃だが、それでも相手に手を取られてしまい、引っ張られ、叩き倒される。

「痛ってて……」

「まったく、シーちゃんがウチに来なくなって1か月。たったのこれだけでなんでここまで弱くなれるかなあ」

 そこに凛としたが響く。

「やはり今日は地獄メニューだ。歩いて帰れると思うなよ」

「へっ、やだね。今日の晩飯当番俺だから早く帰ってご飯作らねえと妹たちがうるさいんでね」

 立ち上がりながら、笑いながらそう言う彼に対して海鯱はただ臨戦態勢に入る。

「そうか。なら3倍速の地獄メニューの始まりだ」



 ようやく修業が終わり、時刻は7時前を示す。

「な、んでこれで……3倍速言えるんだよ……」

 彼は床に仰向けに倒れたまま力なく言う。体中傷だらけ、血だらけだ。その血は全部彼のものだが。

 修業とは言っても、ただ彼が海鯱に技をかけられ続けるだけなのだが。普通なら技と技の間に1分程度の間があるが、今日はそれがなく、ただただ延々と休みなく、大体30の技をかけられ続けた。

「お前のいいところは早すぎる学習能力だ。ただ技をかけられるだけで体力がつき、体を鍛えられ、技を覚えられるなんて一石二鳥、いや、三鳥か」

「そういう問題じゃねえ!!」

 そう言い、いきなり立ち上がる。

「もう帰るからな!!」

 と、怒鳴るように言い残して帰って行く。

「……シーちゃんは回復力も普通じゃないよね。だってその足の骨、折ってるのに」

「なんだ、もう帰っちまったのか」

 奥から今まで退出していた豹鬼が、菓子と飲み物を持って道場へと入ってきた。

「今日はご飯作る当番なんだって」

「せっかく用意したのに。で、あの餓鬼の中身スレイブはまだ起きてこなかったのか?」

「うん、全然。起きる気配すらない」

 そんな会話をする。

「あの餓鬼の中身が中学一年で餓鬼を乗っ取り、1か月前にようやく餓鬼に明け渡したが、中身はそのまま熟睡中」

「どれだけ危機的状況になっても起きる気配はなし」

「まったく。あのばあさんに頼まれることはロクなことがないな」

 だから虚月とは仲良くしたくないんだよ、とぼやく。

「学園長って、虚月の当主ですよね。おじいちゃんと同い年と聞いてるけど、全く見えませんよ」

「色欲だからなあ。秘術があるんだとさ」

 ウチも負けないくらいの技あるがな! と対抗するように言う。

「餓鬼の中身を起こせと言われても、具体的にできることがないからなあ」

「それにしても、ここまで無反応だと逆に危険じゃない? 能力者スキルホルダーが死ねば中身も死ぬため、普通なら危機的状況になると何かしらの反応があるのに」

「ライオンだからな。普通が通じねえ相手だし、それに前例がないわけでもない」

 そう言い、少し目を閉じる。海鯱も同じようにする。

 対話を始めたようだ。中身と会話するという行為を、二人して。

 そのまま数分過ぎ、目をゆっくり開ける。

「だーめだ。同じ中身でもわからねえとは、もう手詰まりだな」

「私もダメ。でも、クロが言うには中身の気持ち次第ですぐにできるって」

 海鯱の中身、シャチのクロは何かを話したようだ。

「イコールでシーちゃんの気持ち次第、か」

「結局、儂らには何もできんか」

 そう言い、二人で家の方へと帰っていく。

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