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獅子が世界を喰らうまで  作者: 水無月ミナト
第三章 神の国〈アイラギ〉
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3話

 合戦当日。戦場は国が管理する四方3㎞の平原で行われる。

 周りは林に囲まれ、それぞれ100m以上離れた場所に陣幕を設置する。これは大将戦独特の規則である。ほかには、無双戦や盗取戦などがある。

 今回の大将戦の勝敗を決めるのは至極簡単。敵が立てた大将を討てば勝ち。討たれれば負け。

 これは今まで数回しか行われていない合戦形式。その理由として、つまらないから。

 大将を討てば終わり。だから誰もが大将を狙い、先手必勝で駆けてゆく。

 合戦と言えど、【生死制限ダメージカット】を使うため人が死ぬことはない。故に合戦とは、お偉方の余興へと成り下がってしまっている。

 中には八百長もあるし、無気力もある。

 合戦とは、自軍の勝利や名誉、野望のために行われていたものだが、今ではすっかりそんな高尚なものではなくなってしまった。

 戦場も区切られ、武器も制限される。そんな、ぬるい合戦。

「ま、それでも負ければ名誉はなくなり、相手の言いなりになってしまうんだけどね。最近じゃ、死なないことをいいことに、特攻兵を使ったりと泥沼の試合も少なくない」

「へえ。でも、今回は必要最低限の戦力で充分ですけどね」

 ネロの説明に適当に返し、張られた陣幕の中で胡坐をかいて座る。

「開戦まであと10分。上手くいけば合戦時間は大体5分かな」

「なかなかの自信だね。戦わない私としては気楽でいいもんだけどね」

「でも大将になったから、負けるときは一切の抵抗はなしですよね?」

「何言ってんのさ。死に物狂いで逃げ回るさ」

 カラカラと笑うネロに、微妙な笑顔を浮かべる獅子怒。

 普段は冷静な生徒会長の死に物狂いを見てみたい、とでも思っているのだろう。

「そうならないように期待してるよ」

 笑いを一瞬で止め、しかし顔は笑顔のまま真剣な声音で伝えてくる。

 獅子怒はそれに口端をつり上げて返す。

 ――任せてください、と。

『随分と楽しそうだな、我が主よ』

 いきなりの中身(スレイブ)の声に、多少驚きながらも平静を保つ。

「ああ、楽しいぜ。なんたって久しぶりの、殺し合いだからな」

 低い声で言う。その言葉に、中身の紅蓮は嬉しそうに笑う。

『殺し合い、か。死人の出ぬ殺し合いのどこに楽しさがあるというのか』

「分かってるくせに。死なないからこそ、手加減無用だろ?」

『甘いな。敵となったときから、手加減などと言っているようでは足元をすくわれるぞ』

「カッ。手加減無しだからすくわれねえよ」

『精々負けぬことだな、我が主よ』

「負けると思ってんなら悲しいな」

 二人同時に低く笑う。その様子は完全に悪役のようだ。

 獅子怒は一人、陣幕の外で、ある人を待っていた。

 今回の獅子怒が思いついた作戦の要となる人物。

 開戦時刻まですでに2分を切った。そろそろ来ないかと、周りをきょろきょろと窺う。

 すると、彼の眼に1人の女子生徒が映った。

 その女子生徒は彼を見つけると小走りに近づいてくる。

「もー、わかりにくい場所を指定しないでよ」

「ごめんごめん。あんま相手に見られてもいいモンじゃねえからさ」

「それはわかるけど。でも、本当にいいの……?」

 不安そうに見つめてくる女子生徒に笑いかける。

「いいよ。ていうか、この作戦ってどうしてもアリスの超能力(スキル)が必要だから」

 獅子怒のチームメイトであり、リーダーのアリス。

 彼女の超能力は【空間制御(スペーストレード)】と言い、指定した2つの空間を入れ替えることが出来る。指定した場所に人や物などの物質があれば、その物質ごと入れ替える。

 彼はその超能力によって、星犀が突撃した後の敵軍のど真ん中に移送してもらうという事を考えていた。

「で、でも、確かに学校でやった時は成功したけど、今日もできるか不安だよ……」

「大丈夫。失敗しても死ぬの俺だし」

「そういうことじゃなくって!」

 顔を赤くしながら反抗してくるアリスに、なだめるように言う。

「失敗はしないよ。アリスを信じてる」

「う、う~……。その言い方はなんかずるい……」

 獅子怒は笑いながら開戦と作戦開始の時間を待った。

 互いの前線にて、何人もの生徒が牽制し合うように睨み合っている。

 開戦時刻まですでに10秒を切っている。

 互いの学園の1年生のほとんどが、この合戦が初めてである。緊張や不安といった思いで一杯の表情をした学生が何人も見られる。

 華宮学園側では、一人の男子生徒を中心に置き、周りはほとんどが速さに自信がある生徒たちで埋め尽くされている。

 桜ヶ丘学園側では、肉の壁と言っても過言ではないほどの量の学生が、張られた陣幕まで厚く広げられている。人数に任せた人海戦術だ。

 学生の差に百単位で差のある両者。どんな大番狂わせがあるかを待ちわびるように、国のトップである帝が画面越しに見ていた。

 国の代表校を維持し続けるか、それともここにきて他に代表校の座を奪われるか。

 華宮学園は有能な人材だけを集めることによってその座を守り続けてきた。しかし、人数に劣るためにいつ負けてもおかしくはない。

 だが、華宮学園には決して崩せぬ双璧が、現在あることをどの学園も承知している。しかし、今回はその双璧が全く機能しない。この状況で、どう戦うのか見物だった。

 故に帝の他に、国の重鎮たちが食い入るようにして画面を見つめている。

 そして、開戦の合図を放つ音が鳴り響いた。

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