1話
4月 28日
〈永人族〉の国。私立華宮学園、ある少年の初登校日。
「……」
栢野家の2階にて、今日から華宮学園に通う高校1年が眠っていた。
時間は7時ちょうど。目覚ましが鳴り響く。いつも通りの普通の朝。
目覚ましの音に、少しだけ目を開ける。
「兄貴――!!」
「おっきろ――!!」
その時、ドアを勢いよく蹴破って入ってきたのは、中学3年になった双子の妹の火燐と水蓮。
そのまま二人はベッドに跳び、彼の腹目掛けて膝から着地。
「ぐッはァ!!?」
彼は思わず跳ね起き、そのまま妹たちをベッドに叩きつける。
「テメエら、起こすときは普通にしろと何度言った!?」
毎朝のことながら彼は怒る。
「「まぁそうかっかせずに」」
妹たちがきれいにハモって言い返してくる。
「ったく。いいか、今日からもう起こさなくていい。学校が20分もかからんからな」
起こしに来ることを断っておく。が、
「兄貴時々スゲー調子で道に迷うから今日くらいは早く起こしてやろうという妹の優しさを知れい」
「そうだよ。あんまり他人に迷惑かけちゃだめだよ、今日ぐらいは」
「……」
何も言い返せない兄貴はそのまま二人を連れて下のリビングに移動する。
下に降りると、少し冷めた朝食が既に出来ていた。
「あれ、今日マホなんか用事あったけ?」
妹に聞いてみる。
「あったんじゃない?」
「あたしたちが起きた時に玄関が閉まる音が聞こえたから」
真帆は小学5年になった一番下の妹。といっても義理である。親がいきなり連れてきた、捨て子らしい。詳しいことはあまり教えてくれなかったが、毎度のことなので諦めている。
「んじゃまあ、とりあえず食うか」
「「いっただっきまーす」」
3人の声が静かな家に響き渡る。
☆
朝食を終えると、彼は顔を洗いに洗面所へ移動した。
水道から冷水を出し、手に水を溜めて一気に顔にかける。
それを2,3回すると、寝癖を梳こうと鏡を見る。
「……」
寝相が悪いために前髪が全部上に上がってしまっている。普段は前髪に隠れている額の傷跡も丸見えだ。
櫛で寝かしつけるが、くせ毛のためなかなかまとまらない。前髪は伸ばしているため特に直りにくい。クルクルと指に巻きつけては離しの繰り返しで何とか収める。
妹には前髪を切れと散々言われたが、傷跡を見られたくないため伸ばし続けている。おかげで目が少し隠れるまで伸びている。
寝かしつけた前髪を少し上げ、傷跡をなぞってみる。傷は結構深く、医者には一生消えないと言われた。それがいつできたのか問われたが、彼には全く思い出せなかった。今も謎のままだ。
「ま、いっか」
彼は手で強引に、上げた前髪をまた寝かしつけ、洗面所を後にする。
部屋からバッグを取って来ると、すでに妹たちが玄関前で待っていた。
いつものことなので気に留めない。待たなくていいといっても聞かないのは経験済みだ。
「んじゃ、行ってきます」
「「いってきまーす」」
3人揃って家を出る、いつもの光景。
こうして始まった4月24日。
これまで続いた日常が少しずつ、だが確実に変わっていく特別な日。
そして、変わっていく日常の先にあるものは――。