17話
まず仕掛けたのは狼華。身を低くし、強く足を踏み込みながら突っ込む。DEを構え、一気に全弾斉射。フルオートでそのまま腕を開き、前面全体に攻撃をする。
ネロはその攻撃を身を大きく後ろへ逸らして躱し、海鯱は的確に自分に飛んでくる弾をPMで撃ち落とす。
ネロはそのまま腕を大きく捻じり、懐から暗器を数本取り出し投げつけてくる。
海鯱の銃、PMの総弾数は6発。二丁あっても12発。すべて撃ち落とすのに使っているため、リロードが必要だ。
獅子怒は狼華の後ろから飛び出し、ネロの暗器を、納刀したままの天叢雲剣で払い落とす。そのまま狼華の背中を蹴り、前にさらに出ながら刀を大上段で振り下ろす。狼華は支えになり、獅子怒が離れるのを感じると、海鯱の背後へと跳躍する。空中で回転しながらマガジンを換える。
獅子怒はそのまま刀を縦横に振り続け、ネロを後退させる。狼華は二丁のDEを海鯱に向け、動かないように示す。
「……。勘違いしてもらわないように教えてあげるけど、私のPMは改造銃よ。総弾数は変更可能で、最大12発。リロードも弾を詰めるんじゃ遅いから、弾倉ごと取り換える」
「ご親切にどうもありがと。でも敵に教えるようなことじゃないわ。それに、そんなもの見ればわかる」
海鯱のネタばらしに、狼華は軽く返す。
ああそう、と海鯱は不機嫌そうに言い返し、PMを構える。
二人の目線に火花が散り、息をぴたりと合わせ、撃ち合いを始める。
拳銃から轟音が鳴り響く。
互いに飛んでくる弾を、自分の銃で撃ち落とし、隙を見つけては相手を撃つ。急所を的確に狙い、わざと別方向へ飛ばしたりと、色々と考えて撃ち合う。
しかし、海鯱の改造銃の総弾数は12発。狼華のDEは総弾数7発の.50AEを使っている。
海鯱はそれに気づいており、リロードの瞬間を狙おうと思っていた。
が、狼華はリロードをする気配がない。どころか7発撃ち終わってもまだ撃ち続ける。
(なんだ、こいつ……! 私にすら見えない速さでリロードしてんのか!?)
そう思う。実際、海鯱は12発撃ち終われば一瞬のうちにリロードをしており、どちらもリロードしていないように見える。それは海鯱のリロードが早すぎ、見えないだけなのだ。
だが、狼華は違う。動体視力で銃弾を見切る海鯱にまで見えないほど早くリロードするのは不可能だ。
ならば、考えられるものは一つ。
「超能力か!?」
答え合わせをするように、聞く。
「あったり~。あたしのこの銃、【リロードしないと撃てない】のよ。」
至極当然のことを言っているようだが、狼華に関してはまったく正反対の意味になる。
狼華の超能力、【嘘遊び】は嘘を真実に、真実を嘘に変える。この効果が、原初の超能力と呼ばれている。
狼華は【リロードしないと撃てない】といった。それが嘘だとするならば? 簡単に、単純に【リロードしなくても撃てる】だ。もちろん、ホルダーにあるマガジンから弾はなくなっていく。入れ替える動作をなくしただけなのだ。
(このままじゃ、押し負ける……!)
確かに海鯱のリロードは見えないが、それは見えないだけであって入れ替える動作はする。それを繰り返せば、今は拮抗でも、いつかはなくなる。
だから、海鯱は一瞬で判断した。
海鯱は弾を撃つままに前へ出る。撃ち合ったまま接近戦を仕掛けたのだ。
その動きはとても速い。が、それに劣らない速さで狼華も前へ出る。
二人がぶつかり、銃を撃ちながらの体術戦が始まった。
獅子怒は狼華たちから離れたところでネロと、敵と相対する。
獅子怒は抜刀の構えを取っている。
「そんな気張らなくていいじゃない。もっとリラックスしようぜ?」
ネロが笑顔で言ってくる。だが、獅子怒は構えを解こうとしない。
「……、もしかして反則負けでも狙ってる?」
その言葉に、微妙に反応する獅子怒。
一人狙いをさせないためのものである、反則の内の一つ。複数人での決闘時、5分以上同じ相手を狙ってはいけない。
獅子怒と狼華は1年という枠組み、同様に海鯱とネロは2・3年の枠組みで戦っているので、この場合は獅子怒と狼華は一人ずつ2・3年を狙っていることになり、反則は適用されない。が、ネロと海鯱は違う。どちらも戦っているのは1年になるため、そのまま戦い続ければ反則対象となり、失格だ。
「やっぱりかー。でもそれは無理だよ」
そう言っている間に、狼華たちが戦う方から銃弾が飛んでくる。それは的確にネロの頭を撃ち抜く弾道だ。
ネロはそれを見ず、まるで分かり切っていることだったかのように、言葉を漏らす。
「【弾】を【否定】する」
呟いた瞬間、ネロを狙っていた弾の弾道が逸れる。
弾は逸れたが、自分の頭を狙っている弾を、当たれば即死の弾を見ず、顔色一つ変えずにいた。
獅子怒は相手との間に大きな差があることを自覚するが、それでも相対し続ける。
「ふうん。やはり君は面白い」
ネロが、いつもより強く笑ってくる。
そしてネロは懐に手を入れると、1本のナイフと大きめの鉄扇を取り出し、ナイフを海鯱に投げつける。海鯱はそれを銃で撃ち落とす。
「さあ、私たちも愉しく踊ろう!」
言った瞬間、ネロが獅子怒へ仕掛ける。
「――!」
鉄扇を強く開き、先端で切るように振り下ろしてくる。獅子怒はそれを防ぐため、納刀したまま刀を上段へ持っていく。
金属を打ち合う音が響く。
そのまま何度も切りつけてくる鉄扇を、すべて鞘で受けきる。
「防戦一方じゃ勝てないよ!」
「くっ……!」
獅子怒は受けきるので精一杯のようだ。それほどまでにネロの攻撃は激しい。
速さは銃弾に劣るし、動きも昨日の有角人の方が素早い。だが、ネロの一撃一撃はどれも確実に急所を狙っており、気を抜けない攻撃なのだ。
だがそれ以上に、舞を踊っているかのような動きに――魅了される。
「くっそ!」
獅子怒は何とか隙を突き、刀を納刀したまま横に薙ぐ。
その攻撃を上へ跳んで避けるネロ。着地と同時に獅子怒の腕を掴み、勢いよく回し、壁へ投げ飛ばす。
壁にぶち当たり、轟音が鳴る。
「ん? 強すぎたかな?」
ネロはそう言いながらも、飛び過ぎたことに違和感を覚えながら近づいていく。
途中、海鯱から弾丸が跳んでくるが、鉄扇で払い落し、ナイフを投げ返す。
「まだまだこんなんじゃないでしょ?」
その声に返ってくる言葉は。
「あーもう、やっぱり私じゃ敵わないわよ」
「!?」
その声と口調に驚くネロ。
「まさか君……」
その言葉に、にぃ、と笑みを浮かべる獅子怒。
「そっかそっか。だから防戦一方だったのか」
ネロは頷きながら、違和感がなんだったのかを悟り、納得する。
「君たちが何を企んでいるのかはわかんないけど、ぼろが出過ぎだよ」
そう言い、超能力を執行する。
「大神ちゃんの【嘘】を【否定】する」
ネロが何かを言ったのが聞こえた瞬間、狼華の姿がいきなり獅子怒に変わる。当然、ネロの方の獅子怒は狼華に姿を変えている。
「え? シーちゃん!?」
そのいきなりの光景に驚く海鯱。
「あっれ、もうバレちった」
軽い調子で言う獅子怒。
しかし、戦いの手はどちらも休めない。
「うっわ、大神さんすごく強いと思ってたらシーちゃんかよ!」
「残念でしたー」
舌を出しながら笑い、後ろへ跳躍し、距離を取る獅子怒。海鯱は追いかけてこない。
その状態からまた撃ち合いが始まる。
銃音が鳴り響く。
最初の状況と全く同じになり、撃ち合いを続ける。
「シド!」
そう呼ばれた瞬間、獅子怒は銃を投げ捨て、高く跳躍する。
跳んだ最高点の場所には、狼華が投げつけた天叢雲剣。
「ピンポイント!」
それを掴みとると、狼華とネロがいる方へ向き、刀を縦に振る。
海鯱が跳んで避けられない獅子怒に向かって銃を向け、発砲しようとした瞬間――、
「!?」
獅子怒が消えた。
天叢雲剣を投げた狼華に向かって、
「百獣ちゃんじゃなかったのか」
ネロは残念そうに言い、大げさに肩を落として見せる。
「残念でしたね」
その動作を見ても、悔しがる様子を見せない狼華。獅子怒の方が何もかも上であることを知っているためか。
「でも大丈夫よ。シドはいつだって私を助けてくれるから」
「おいおい、ここから百獣ちゃんの所まで何mあると思っているんだい?」
笑いながら言ってくる狼華にそう返し、笑顔で鉄扇を振りかぶる。
「私が君の首を掻く方が早い」
そして、振り切ろうとした。が、
ギィイン!!
またも、金属の打ち合う音がする。
「何!?」
切れなかった原因。それは見れば理解できた。だが、何故できたかは見ても理解できなかった。
鉄扇と狼華の首の間に、刃があった。
それは先程、狼華が獅子怒に投げた天叢雲剣。
その刀を持っているのは海鯱と戦っているはずの、獅子怒。
「な、どうやって……!?」
「空間を超えて」
にぃ、と強く笑い、鉄扇を弾き返す。
そしてすぐさま納刀し、抜刀の構えを取る。
「とりあえず、喰らっとけ!」
【闇喰】を発動させる。クラス対抗決闘の時と同じ過程を経て、空間切断が使われる。
「くっ……、【壁が無い】ことを【否定】する!」
ネロが後ろに下がりながら叫んだ瞬間、床が突き立ち、壁を作る。
一瞬で攻撃を見極め、今必要なことをする。
海鯱も軌道上にいたが、こちらは【平和主義】を使い、空間切断を無効化した。
「チッ、遅かったか」
獅子怒はそう言いながら納刀する。
そして後ろを向き、狼華に手を貸す。
「ありがと。でもどうやってあの距離を?」
「んー、俺とロウの間の空間を切断して、まあ簡単に言えば瞬間移動? みたいな」
獅子怒はそう説明するが、あまりわからない。
「なるほど、上位駆動か。まさかまさか、そこまでに達していたとは」
ネロが、大げさに感心するように言う。
「空間切断と万物両断を下位駆動とするならば、その二つを合わせたもの、事象割断を上位駆動という。これは神代の神器にだけある特別なもので、さらには普通の人には使えないものだ。そして、百獣ちゃんは大神ちゃんとの間にある空間という事象を、割断した」
言葉足らずの獅子怒に代わって説明してくれるネロ。
「上位駆動を使える者は、その神器に使うことを認めさせた証拠。百獣ちゃん、君は神にでもなるつもりかい?」
そう言われる。
確かに神器に認められる者は、一番初めに使った者――天叢雲剣ならば素戔嗚尊だ――しか今までに存在しない。それを含めて言うなら、確かに神に成り得る者にしか使えないだろう。
「そんなんになるつもりはねえよ。それに、自称神はもういるだろ」
笑いながら言い、刀を構えなおす。
「俺は俺の好きなようにするだけさ」
臨戦態勢に入る獅子怒。その姿を見て、ネロが言う。
「しかし、こうなってくるとさすがに厄介だ」
なんせ神様を相手にするんだし、と。
笑顔は崩さないが、焦っているのはわかる。
「……」
それに気づき、少し考える獅子怒。
(……成程)
そして、考え付いたこと。
「おいババア、どうやら会長は俺達とやるのが一人だと怖いらしいからミコ姉とタッグにしてやれよ」
笑みを見せてそう頼む。
そして学園長の返答。
「年上には敬語を使えクソガキ。で、あんたらはそれでいいのかい?」
ネロと海鯱に確認を取る。学園長もこれは不測の事態と思っていたのだろう。
「お恥ずかしながら、そうして頂くと嬉しいです」
「私は別に一人でできるけど、会長に任せるわ」
そう頼まれる。
「なら決まりだ」
そう言い、マイクを手に持ち、観戦者たちに伝える。
『どうやらこの戦い、1年生たちを舐めていたようで、公平な戦いを行えないと判断。4人の了承のもと、2対2のタッグバトルとさせて頂きます』
そのお知らせに不満を言う観戦者はいない。全員、獅子怒たちの実力を知ったからだろう。
『それでは改めて開始します。決闘者は初めの位置へ』
そう言われ、移動を開始する4人。
「すまないね、こんなことをしてもらって」
謝ってくるネロに、獅子怒は「いえいえ」と軽く返す。
「最後に勝つのは俺たちですから」
「言ってくれるねえ」
笑い合いながら、始めの位置へ立つ。
「獅子怒は私たち以上の実力かもしれないけど、あなたはいいの?」
海鯱が狼華を心配するように言ってくれる。
「大丈夫ですよ。ずる賢い狼は、牙も爪も、考えすら隠しますから」
笑いながら言う。
「それに、危なくなったらシドが助けてくれますから」
海鯱はそう言う狼華に、羨ましく思いながらも妬ましいと思っている自分に気付いていない。
狼華は投げられていたDEを拾いに行き、それから初めの位置へ戻る。
4人が初めの位置へ戻る。
『それではこれより、1年生代表対2・3年生代表のタッグバトルを開始します』
放送が流れる。
『それでは、始め!!』