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獅子が世界を喰らうまで  作者: 水無月ミナト
第一章 華宮学園
20/76

15話

 その後、一人だけ残った代表者を狼華が撃ち抜くことで1年のクラス対抗決闘は終了した。

「あんた、その刀使えるようになったんだ」

 観戦席に戻りながら狼華が獅子怒に話しかける。

「まあな。でもさすがに連発は厳しい。擬獣化してたらいけるかもだけど、それだと不公平だろ?」

 カラカラ笑いながら言う獅子怒。

 そのまま歩いていると、放送がかかる。

『1年10組のクラス代表者は至急本部席まで来てください』

 繰り返します、と2度ほど言われる。

「あ~あ、呼び出し喰らっちまった。」

 それでも笑ってる獅子怒。学園長に教えなかったことから、予想できていたのだろう。

「悪いな、狼華。お前まで呼ばれて」

「別に私が怒られるわけじゃないからいいけど?」

 そう言い、二人は方向を本部席の方へと変える。

 本部席に着くとネロと海鯱もいた。

 今は1年の決闘が済んだため、昼食の時間だ。

「学校のトップが勢ぞろいってか。それで、何か用ですか? 俺、腹減ってんだけど」

 無関心に、獅子怒は不機嫌そうに言う。

「ふん、用なんざ決まってるだろう。その刀だ」

 学園長が単刀直入に言ってくる。

「それ、何処で手に入れた?」

「部屋にあったから持ってきただけだ」

「嘘つけ!!」

 いきなり怒鳴ってくる。

「貴様、それがどんなものか知っているだろ! 何故使った!?」

「武器は何でもいい、って言ったのはそっちだ」

「それは神代の神器。どれほど強力なものか、知らんとは言わせんぞ!」

「まあまあ、学園長落ち着いてください」

 そこでネロが苦笑しながら間に入って来る。

「百獣ちゃん、それが何か知っていて使ったの?」

 ネロにそう言われ、大きくため息を吐く。

「……会長は知らねえかもだけど、10年前に俺……たちか。教導院にいたよな。そこの院長が持ってたんだ」

 少しずつ語りだす。

「教導院がなくなる時、俺たちはそこの院生と一緒に教導者に対して、反乱を起こしたんだよ」

 過去を思い出しながら、なつかしむように。

「院長は元から教導院に対して良く思ってなかったから、俺たち院生に味方してくれた。俺たちを庇ってくれた。その最期に、愛刀だって言って、渡された」

 狼華は獅子怒の話を聞きながら俯いている。

「院長には全く使えないって言っててさ、どうせ俺にも使えない、って思って抜こうとした。そしたら発動もしてないのに【闇喰(ダークイーター)】が反応して振り抜いちゃってさ。前面にある木が全部切り倒しちゃうし、そのおかげで教導者に見つかって頭を斬られるし」

 ほら、これだよ、と額にある切り傷を示す。

 傷は深く抉られており、何年経っても塞がらない、一生残る傷跡。

「その光景を見た私が怖くなって超能力(スキル)が暴走。獅子怒と他、周りにいた人たちの記憶を嘘で塗り変えて封印しちゃったの」

 狼華が獅子怒の話に補足する。

「神代の神器って知ったのは憑宮家に入って2年後。師匠に見せたら驚いてさ。天叢雲剣の能力や歴史を教えてもらったよ」

「能力は空間切断に万物両断。今のはどっち?」

 海鯱が豹鬼から聞かされていたことを聞いてみる。

 獅子怒は海鯱の方に顔を向けて答える。

「空間切断の方だよ。振った軌跡上のものを斬る。万物両断はどんなものでも両断するけど、範囲は刃本体だけ」

 獅子怒も、豹鬼から聞いた通りに答える。

「空間切断はいい。斬れるのは、刃物で斬れるモノだけだからな」

 学園長は怒った声で続ける。

「だがな、万物両断は超能力すら、形のないモノまで斬り伏せる。それを今ここで使えばどうなるか、わかるよな?」

「そこまで馬鹿じゃない。【生死制限(ダメージカット)】に穴が開き、生徒が斬れることぐらいわかる。でも、きちんと使い分けれる。完璧にマスターしてる」

「そう言うことをいっているんじゃない! もしも貴様が万物両断を使ってしまったら取り返しがつかないんだ! 教育者としてあらゆる事態を想定しなくちゃいけないんだ!」

 学園長は怒鳴る。当然だろう。生徒の命がかかっているのだ。学園の長として、それは容認できない。

「わかったら学校でその刀を使うな!」

「怒るのは構わんが、だとしたら我が主を怒るのは筋違いだな」

 いきなり獅子怒の声が、獰猛な獣を想起させる低い声に変わる。目の色もいつの間にか燃え上がるような赤色をしている。擬獣化、ではない。牙も爪も髪も増えてはいない。意識だけ出てきているようだ。

 学園長はそれに少し驚くが、動揺は見せない。

「あんた、紅蓮かい?」

「ご名答。この刀が使えるのは我がいるからであり、そして使わせたのも、制御しているのもまた我である。元々この刀は我が一番初めに仕えた主の愛刀だ」

 その答えに4人全員が驚く。

 天叢雲剣を初めて使ったのは、神代の人物、素戔嗚尊(スサノオノミコト)だと言われているからである。

「その時から、この刀は我がいなければ使えぬナマクラになってしまった。故に怒るなら我であり、我が主に怒るのは筋違いだ」

「なら紅蓮、あんたに言っておくよ。万物両断はこの学校で決して使うな」

「承知」

 紅蓮は頷く。が、すぐに不敵な笑みを作る。

「だが万物両断を使わねば、この刀は使って良いのだな」

「そうじゃない……!」

 慌てて付け加えようとするが、少し遅かった。言いきる前に目の色が元に戻っている。

「……ったく、紅蓮に感謝するんだね」

 学園長は踵を返し、玄関の方へ行く。

 獅子怒は意識の中でやり取りを聞いていたのだろう。口には出さず、紅蓮に感謝する。

「よかったなシーちゃん。私も戦うなら全力で戦ってほしいよ」

「期待に応えられるように頑張りますよ」

 苦笑いしながら言う獅子怒。

「仮に万物両断が発動したとしても、私が何とかしてあげるよ」

 笑顔で言ってくれるネロに、言葉の意味が分からず首を傾げるが、とりあえずお礼を言う。

「それじゃ、そろそろ昼食にしなよ。結構時間過ぎちゃってるから急いだ方がいいよ」

 わかりました、と同時に返事し、戻っていく狼華と獅子怒。

 二人の姿が見えなくなったあたりで、海鯱はネロに向き直る。

「それよりあんた、『私がなんとかする』ってどういうこと?」

 残った海鯱が、先程のネロの言葉について質問する。

「そのまんまの意味だよ」

「あんた、まさか……」

「ようやく取り付けた。頭の固い大人も頑張れば説得に応じてくれるものなんだねえ」

 笑顔で言うが、目が笑っていない。

「真実というものは早めに見ておいた方がいい。私がなぜ、〈支配者(ドミネーター)〉と呼ばれるのか、史上最悪とはどんなものかを、ね」

 一変、ネロは笑顔を凶悪なものに変え、小さく笑う。



 獅子怒と狼華は観戦席へと戻るために闘技場の二階に上がってきた。

「おっ、一年最強が戻って来たぞー!」

 一人が叫ぶと、一斉に多くの生徒が集まってきた。

「「へ?」」

 いきなり叫ばれ、戸惑っているうちに囲まれた。さながらテレビに出てくるアイドルがファンに囲まれるように。中には烏之助や10組の生徒もいる。

 いろんなところから質問を一斉にされ、対応しきれずにいると、狼華がいなくなっていることに気付いた。

 周りを少し見渡すと、離れたところからこちらを見ていた。どうやら囲まれたのは獅子怒だけであり、狼華は弾き出されたようだ。

「獅子怒ー、先に戻ってるよー」

「え? あ、ああ」

 そう言って手を振ると、10組の観戦席に戻っていく。その後ろ姿には寂しさが感じられた。

「……」

 苦い顔をして見送ってからさっきからよく聞く質問に答えることにした。

「はいはい、ちょっと静かにしてー」

 言いながら手で制する。

「じゃあ一番簡単な質問、何故強いか、に答えるよ」

 囲んでいる生徒が不思議な顔をしている。一番簡単な質問が何故強いか、なのだから当然か。

 全員が静まったところで口を開く。

「何故強いか、それはお前らが弱すぎる」

 笑顔で言い放つ。生徒が固まる。

「お前らな、誰かをいじめたり貶したりして、強くなれるとでも思ってんのか?」

 真顔になり、いきなり悪態を吐く。

「そんなことする時間があるなら勉強しろ」

 全員、きょとんとしている。

 そんなことには構わず、自分の話を続けていく。

「あとは〈大切なもの〉を見つけろ。命懸けてでも守りたくなるような、大切なもの」

 そこで一旦、生徒を見回す。

「守らなきゃなんねえからこそ、強くなろうとする。壁に当たれば当たるほど、超えなきゃならねえって、思わずにはいられねえ。その繰り返し。たったそれだけ」

「その〈大切なもの〉が、百獣モモノ君にとっての大切なものですか?」

 一人の女子生徒が聞いてくる。

「いや違う。あいつもだけど、俺の〈大切なもの〉は俺の〈繋がり〉だよ。だからこうやって俺の下らねえ話を聞いてくれてるお前らも俺の〈大切なもの〉だよ」

 その言葉を、笑顔で言う。

「俺はもっと強くなる。今はまだ小さいこの手で、この世界を全て丸ごと守れるように」

 強い意志を持って、壮大過ぎる夢を、臆せず、自信満々に、平手をグッと握りながら。

 だが何故か、獅子怒が言えば笑おうとも、茶化そうとも思う者はいない。

 その顔を見ていると、もしかすると……、と思わせてくる。それほどまでに、自信満々に言ってきたから。

「お前らが強くなって、俺にリベンジを果たそうとしてくれるならうれしい。その闘いで俺はまた強くなれるから」

 そう言い、囲いの中から出ていく。

 昼休みの時間も限られている。残り10分といったところだ。

 獅子怒の言葉を聞き、頑張ろうと思う者はごく少数か、全くいないかだろう。ほとんどの者が綺麗事を並べただけの薄っぺらいものと思う。本人も実際の所、かなり恥ずかしかった。それでも構わなかった。獅子怒は言いたいことだけを言ったに過ぎない。それをどう評価しようが大事なのは己がどう思うか、また、実行できるかだけなのだ。


 世の中は結果がすべてだ。その背景に何があっても気にする者はほとんどいない。


『やはり我が主は面白い。あんな大見得を切るものなどそうそういまい』

「ああ、そうですねー。俺は今にも恥ずか死しそうですよー」

 さっきの雰囲気とは全く違い、顔を赤くしながら言う。

「ったく、ババアに呼び出されるわ、生徒に囲まれるわで時間がほとんどねえじゃん。どうすんだよ。この後、ミコ姉と勝負だよ」

 などと愚痴りながら観戦席に戻る。

 10組の観戦席に入る通路に段ボールが置いてあり、その中に一つだけ残った弁当を取り出し、自分の席に行く。

「お疲れ様ー。お茶でも飲む?」

 席に座ると、隣のアリスがペットボトルを差し出してくれる。

「ん、ありがと」

 それを受け取りながら辺りを見てみる。

「大神さんなら外に行くって言ってたよ?」

「あ、そうなの。……聞いたの?」

 ちょっとね、と照れ笑いしながら言ってくる。

「どうせ百獣君の事だから大神さんを心配するだろうなあ、って思ったから」

「はは、お見通しですか」

 そう笑いながら弁当を食べ始める。

「今の決闘すごかったね。あんな武器初めて見たよ」

「男の子は強くないといけないからね」

 などと笑いながら話し、弁当を食べていく。

 獅子怒は食べるのが早い。普段は大食いではないが、食べるのだけは早い。

 ものの1分でコンビニに売っている量の弁当を平らげる。

「うわ、食べるの早っ」

「腹減ってたからねえ」

 言いながらペットボトルのお茶を飲む。500mlのお茶を10秒で空にする。

「っはぁ。後は2・3年のクラス対抗決闘だけか」

「その後には全学年の決勝戦、つまり百獣君の出番だね。でも……」

 そこでアリスが少し不安げに言ってくる。

「総隊長も会長も、他の生徒が足元にも及ばないほどの強さだ、ってみんな言ってるよ」

 ふうん、と獅子怒は軽く受け流す。

「ふうんって、軽いね……?」

「そりゃだって、生まれが1年2年も違うんだ。1年ありゃ猫も虎になる。だから、強いのは仕方ないし、格上だってのも理解してる。そんなことを心配されても困る」

 自信満々だね……、と苦笑いで言ってくる。

 そこで午後1時になるとチャイムが鳴り、昼休みの終了を告げる。

 そして5分後には2年生の各クラス代表が入場してくる。中には当然、K(キング)・月宮海鯱がいる。他にも手練れだと一目見てわかるものもいるが、転校初日に学園長の言っていた通り、男子は一人としていない。

「あっ、ちょうどいいタイミングね」

 そう言いながら獅子怒の隣に、戻ってきた狼華が座る。

「ああ、ちょうど始まる。ちゃんと見とけよ。あれのどれかと戦うんだから」

 獅子怒はそう狼華に告げる。

『それではこれより第二学年によるクラス対抗決闘を開始する』

 学園長の声が響く。

『それでは、始め!!』

 そして、2年の代表が一斉に動き出す。

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