追憶4
少年の勉強する教室で、
赤い花が、咲き乱れた。
少年はそれをドアの小さな隙間から見ていた。赤い花弁が、少女の頭から咲くのを。
今、少年の通う小学校は、テロの現場に変わっていた。少女は警察への見せしめとして、犯人のうちの一人が撃ち殺した。
少年は、その少女と特別に仲が良かったわけではない。だが、人が殺されるのを目の前で目撃し、心の奥底に何かが灯った。
しかし、その火はまだ微弱で、少年を動かすほどの勢いはない。
そして、犯人グループは警察をけん制している。目的はなんなのか。それはまだわからない。
「シド、早く行こう」
少年は隣にいた少女に手を引かれる。
抵抗することなく、引かれるまま歩き出す。
この二人は、事件発生直後、教室にはいなかった。昼休みだったため、図書室にいたのだが、チャイムが鳴り、教室に戻ってみると既に教室は占拠されていた。
教師や、他のクラスの子供たちは逃げたようだが、少年の教室にいた子供は逃げられなかった。
犯人の声が聞こえた。
……狼華はどこ……る!
遠くて、はっきり聞き取れなかったが、この少女を探しているのだろうか。
「ロウ、呼ばれてるよ?」
「いいのよ。あんなとこ行ったら殺されちゃう」
少女は聞く耳を持たない。
お互いのあだ名は少女が強引につけたものだ。
シーちゃんと呼ばれるといえば、かっこいい方がいいでしょ、とシドと呼ばれるようになった。
あたしのことはロウと呼んで、と言われ、拒否すると殴られた。女の子に、グーで。
「でも、行かないとおんなじクラスの子が赤くなるよ?」
「仕方ないのよ。私が行ったら、私が赤くなっちゃう。それでもいいの?」
「……いやだ」
少年にはこの少女以外に友達はいない。
勉強や運動がみんなよりできるということだけで、仲間外れにされ、先生にも見捨てられてしまっている。この少女も同じように。
歩いているうちに、昇降口が見えた。もう少しで外に出られる。
そう思い、安堵の息を同時に吐いた瞬間。
横から、思いっきり殴られた。
「ッ……!?」
殴られたのは少年だけで、少女は相手に捕まっている。
少女は腕の中でもがいて離れようとするも、子供と大人では力が全く違う。
「手間かけさせんじゃねえよ、お嬢ちゃん」
相手は、教室で花を咲かせた人と同じ服装をしている。
少年は日々鍛えているため、この程度で気絶するはずもないが、不意の攻撃で衝撃がかなり強かった。すぐに立ち上がれない。
少年は蹲ったまま少女の方を見ると、ちょうど腕に噛みつき、拘束を逃れようとしているところだった。
「このガキ……!」
相手は顔を鬼のように変え、少女を叩きつけた。
瞬間、心が荒れた。
そのまま殴りつけ、動かなくなった少女を抱え、少年の教室の方へ向かう相手は、少年に何の関心も示さない。
それが嫌だったわけじゃない。心の火は、少女が殴られるのを見るたび薪が加えられていくように大きくなっていった。今や少年を燃やし尽くすほどの劫火に変わっていた。
そして、悲劇は起きた。