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獅子が世界を喰らうまで  作者: 水無月ミナト
第一章 華宮学園
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10話

 その頃、外の海鯱とネロは相手と戦っているが、違和感がある。

 それが何か考えていると、携帯が鳴る。敵を警戒しながら海鯱は携帯を取り出す。発信者には『アホ会長』と表示されている。

 海鯱は警戒を怠らずに電話にでる。

「戦闘中に何の用よ、アホ会長」

『言葉に棘がある気がするのは気のせいでいいかな?』

 確認されても困る。実際、他の生徒会役員も言っていることだから。

「で、なに?」

『いやいや、ちょっと気になってさ。だってこいつら電話してても攻撃してこないんだもん』

 ネロはそういう。

 確かに、敵は隙を窺うような仕草をするが、攻撃をしてこない。

「そうだったとして、普通電話する?」

『まあ、とりあえず私の仮説を聞いてくれないかい?』

 ネロは少し真剣な声音で言ってくる。

 海鯱は「手短に」と返事をする。

『どうも。んじゃ、まずはこいつら、わざと攻撃を受けに来てないか?』

 海鯱は少し考える。

「そうかもしれないけど、それが? 避けれないだけじゃないの?」

『もうちょっと考えようよ……』

 ネロはため息を吐き、『聞いたことない?』と言ってくる。

『〈アキレマ〉が、超能力に対抗する機械を完成させたって』

「その話は結構有名だけど、ガセじゃないの?」

 〈アキレマ〉はよく、~~に対抗するためのものを開発した、と言い触らすことはある。が、そのほとんどが偽情報だ。

『確かにね。でも、本当だったら?』

 ネロは真剣に言ってくる。

『超能力に対抗するものは無理だろう。でも、轟鬼さんに対抗するものならできないことはない。実際、私は外交で〈アキレマ〉を訪れた際、あることをきいてきた』

「それって……」

 海鯱はそれが何かに思い当たる。

「でも、それは中止させたんだろ?」

『おいおい、相手は〈アキレマ〉だぜ? こっちの警告なんて聞くわけないじゃん』

 ヘラヘラ笑いながら言ってくる。

 ネロの態度に憤りを覚えるが、どうしようもないので無視する。

『ま、気休めを言えばこれはまだ試作段階だ。範囲がまだまだ狭い』

「でも、これ完成してるよな」

『ああ、【被害狂想(ダメージアタッカー)】は完成している。これは実戦で使えるかどうかの試験だ』

 まったく厄介なものだね、とネロは言う。

『でも、これは完全に異能だ。だったら勝機はあるだろう?』

「なるほど。あんたは使えないから、私にさっさと終わらせてこっち来い、と」

 そゆこと、とネロが軽快に言う。

 海鯱は携帯を切ると、有角人の手下に向かう。

「はあ、まったく。悪いが、長引かせるわけにはいかなくなった。さっさと倒させてもらうぞ」

 海鯱はそう言い、持っている銃に意識を集中する。

「私は平和主義だ。このラインに入らなければ、攻撃はしない」

 引き金を引く。撃たれた場所を中心に、海鯱を取り込み、これもドーム状の光が出来上がる。

「【平和主義(ピースキーパー)】の能力範囲に入れば、存分に殴ってやるぞ?」

 海鯱は笑みを浮かべ、言い放つ



 彼は立ち上がろうと足に力を入れる。

 攻撃が見えないほどに速く、重い。

「お、よく飛ぶねえ。この調子じゃ、外の奴もいい感じにやられてるね」

「……っげほ、ハッ」

 彼はよろよろと、息を荒くしながら立ち上がる。

 普通なら彼が、憑宮家の者が力で吹っ飛ばされることはほとんどない。

 なぜなら憑宮流の戦闘術は相手の力の向きを見切り、カウンターを与えるもの。例えば、相手の攻撃をギリギリで躱し、相手の向かってくる方向に攻撃を加えれば、相手の突進の力を自分の攻撃に加えること

ができる。

 そして彼はそれを改良し、相手の力をそのまま利用して攻撃を与える。例えば、相手の直線の攻撃を受けるとき、手で受け、そのまま向きに流されるように攻撃をすることによって、相手の攻撃の威力を自分の攻撃に加えられるように。

 彼の方法だと、カウンターに縛られずに攻撃を派生できる。

 そのために、憑宮流はまずあらゆる攻撃を与え、見切れるまで何度だって繰り返す。彼はそれをすべて受け流すことができるまでやり続けた。

「躱そうが、受けようが関係ねえ。躱せない速さで、受けきれない強さで殴ればいいだけのことだ」

 有角人は、簡単そうに言ってくる。

「この機械は、この光の中の奴がダメージを受けた時、そのダメージを特定の人物に力として与えるものだ」

 有角人は言う。

「今、この光の広さは確か、半径20メートル。お前の仲間もその範囲で戦ってくれてるから外の奴が受けたダメージも、オレに力を与えてくれるのさ」

 もっとも、

「まだ研究の余地はあるな。最初に登録した奴にしかダメージが還元できないからな」

 彼は、何とか立ち上がり有人角を睨む。

「そんな睨むなって。こいつらはそんな簡単に倒れねえよ」

 有角人はそう言い、倒れた部下に視線を向ける。

 視線を彼に戻せば、逆に彼を睨み返す。

「それより、あと1発で終わりなわけねえよな? 仲間が受けたもんはこんなんじゃすまねえんだぞ」

 そして、また走りだす。

 彼は必死に防ごうとするが、有角人のラッシュに簡単に崩される。

「ははは!! まだまだこんなんじゃねえぞ!!」

 何度も殴り続ける。防御もできず、ただ受け続けるしかできない。

 顔にも入り、仮面が割れていく。

 仮面の割れ目に拳が直撃し、仮面が落ちたところで1度ラッシュが止まる。

「なんだ、どんなオッサンがコスプレしてんのかと思えば、まだ青臭いガキだったとは」

 情けねえなあ、と大声で言う。

「全員こんなガキにいいようにやられるなんてなあ!!」

 倒れこむ彼の襟首を掴み、引っ張り上げる。

「でしゃばっていいことしようなんざ思うんじゃなかったんだな。ほら、こんなにボロボロになっても、どれだけ余所者を排除しようと、オレ達は何度だってこの国にくるんだもんなあ」

 悪びれもせず言ってくる。

「さーて、ここで問題です」

 楽しそうに、

「オレ達は、いったい何がしたいんでしょうか?」

 笑いながら、心底楽しそうに。

「……、知らないし…知りたくもない……」

 彼は答える。

「そっかー、でも、大サービスだ。冥土の土産に持ってけ」

 有角人は彼を狼華の方へ投げる。

 抗えず、そのまま狼華の脇に落ちる。

「オレ達の国は今、お前らの超能力スキルにご執心なんだな」

 近づきながら、言ってくる。

「そして、お前の隣にいる女。そいつがお前らの超能力を解析するのに、ちょうどいい超能力なんだとさ。オレの国では原初はじまりの超能力なんて呼ばれてる」

 だから、

「その女を連れてこいって言われたのさ。でも、せっかくだから、オレ達の仲間を何人も送り返してきたピエロ君を殴っていこうかと待ってたんだよ」

 軽く言ってくる。

「だから君を朝から待ってたんだけど、来てくれたのが夕暮れってどういうことよ」

 待ちくたびれてそっちの男の方で遊び過ぎちゃったよ、と言ってくる。

 烏之助の方を見れば、体中に傷が見られる。

「これは全部、君が急がなかったせいだ。オレ達は悪くないんだよ」

 笑いながら言ってくる。

「オラ、お前らいつまで寝てんだ。とっとと起きろ」

 倒れている部下に声をかける。

 すると、ゆっくりとだが、立ち上がってくる。

 そのまま有角人は「しっかり持っとけよ」と部下に彼を強引に立たせる。

 彼には、もうそれを振りほどく力はない。ただなすがままにされる。

「さて、これから逝ってくれるまで殴り続ける」

 そう言い、振りかぶる。

 思いっきり殴りつけられ、激痛が走る。

「カ…ハッ……!!」

 殴られ、少し後ろへ飛ぶ。しかし、立ち上がれない。

 あまりの衝撃に部下の方が耐え切れず、手を放してしまった。

「おい、ちゃんともっとけつったろ」

 イラついた声で、部下に言う。

「ひっ……! す、すいません!!」

 慌てて謝る部下。

「……、う…ん……?」

 その時、狼華が目を覚ます。

「あれ、ここは……?」

 状況が分からず、上半身を持ち上げながら周りを見回す。

 それに気づいた有角人。

「はは、お姫様のお目覚めだな!よくこんなに寝てられたモンだ。」

 笑いながら言う。

「え……、えっ?」

 少しずつ、飲み込んでいく狼華。

 左に縛られた烏之助、右に血だらけの彼。

「いいこと教えてあげようか。これは、お前の招いた惨劇だ」

  有角人は凶悪な笑顔で、おもちゃを壊すように、言う。

「……ちげえだろ……!」

 弱々しい声が発せられた。

 彼が力を振り絞り、少しずつ立ち上がる。

「これは、俺が招いたんだろう……?」

 弱々しい声だが、それでも言う。

「俺が遅かったんだろう……?」

「かっけ。でも、女の前だからって、そんなに頑張る必要はないんだよ?」

 笑い続けている。

「頑張ってなんかねえよ。ただ、自分の不始末は自分で片づける……!!」

 それだけだ、と言い、立ち上がり突っ込む。

「そんな体で何ができるんだっつの。」

 カウンターを当て、彼を殴り、吹っ飛ばす。

「やめてよ……!」

 狼華が消え入りそうな声で言う。

「なんで、私のために傷つくの……?」

「くはっ、無様だなぁ……」

 彼は自嘲する。己の姿が、どれだけ無様かもすべて理解したうえで。

「でも、これだけは譲れねえ……!」

 ないはずの記憶に何かが引っかかっている。

 だから、立ち上がり、突っ込む。

「だーかーらー、さっさと寝ろ!」

 また吹っ飛ばされる。

「カッコいいこと言って、正義の味方ごっこですかあ?」

「いいや、善の押しつけさ」

 無理に笑い、口元に血をつけて。

 突っ込んで、吹っ飛ばされる。

「いい加減にしろよ。手が痛くなってきたぞ」

「ああ、そうかよ」

 それでも、立ち上がる。

 何度も吹っ飛ばされ、何度も立ち上がる。

 それも長くは続かない。いつのまにか、指一本動かせなくなる。

「ようやく沈んだか……」

 有角人も息切れを起こしている。

(くっそ、もっと強くならなきゃいけねえのかよ)

 立ち上がれず、自分の不甲斐なさを悔いる。

 目を薄く開き、それでも前を、敵を見ようとする。

(今だけ、あいつだけでも倒せる力が……)

 そう願う。だが、奇跡など起きるはずがない。それでも、願う。

(もっと、もっと力が……!!)

『無様だな、我が主よ。』

 誰かの、何かの声が突然、直接頭に聞こえた気がした。

 そのまま、彼は自分の闇に呑まれるように意識をなくした。

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