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獅子が世界を喰らうまで  作者: 水無月ミナト
第一章 華宮学園
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9話

 着いた場所は町外れにある廃工場。雑草が生い茂り、建物は老朽化して所々に穴が開いている、いかにも人が寄り付きそうにない場所。

 着いたときにはすでに日が傾いており、町全体が赤く照らされている。こんなに時間がかかったのは【探索終了】がいたるところでぶつかり、いろんな場所で寄り道をしたからだ。生き返っても子供は子供だった。

 何とか【探索終了】が消える前にたどり着けたが、時間がかかり過ぎた。

 今すぐにでも入りたい彼と、中の様子を見てからという海鯱とネロ。

「時間がかかり過ぎたんだから、早くしなきゃいけなんじゃねえの?」

「だからって突撃して罠だったらどうするの?大体、まだここにいるってことは何かを待っているはずよ」

 彼は急かすが、海鯱は許さない。

「月宮ちゃんの言うとおり。とりあえず中を窺おうか」

 そう言い、敷地内に入っていくネロ。彼と海鯱もそれに続く。

 壁に開いた、少し大きめの穴から三人で中を覗き込む。

 中にいたのは、大柄の亜人族が大勢と縛られ、意識を失っているような烏之助と狼華。

「なんで烏之助まで縛られてんだ?」

「用済み、だろうね」

 彼の疑問にネロが静かに返す。

「それにしても亜人族が多いわね。逆に気持ち悪いわ、どいつもこいつも赤褐色で」

 亜人族の特徴の一つ、肌が褐色なのだが、古くから戦闘系の亜人族は赤褐色の者が多い。そして亜人族の中のボスのような奴は、長椅子に座り、大柄で角が生えている。

「ボスは有角人か。ちょっと、この数を一気に相手するのはきついかな」

 ネロはそういう。

「怖いんじゃないの? 私がやってあげるわよ」

 海鯱はネロの言葉にそう返す。

「いや、あいつは俺がやる。悪いけど、ミコ姉と会長は周りを倒してくれね?」

 彼は海鯱の言葉にそう返す。

 ネロも海鯱もこれには少し驚く。

「シーちゃん、相手との力量の差が分からなくなったの?」

「いくらなんでも一人じゃきついよ、栢野ちゃん」

 二人が心配そうに言ってくる。

 しかし、彼は譲らない。

「おいおい、俺をそんなに舐めんなって。有角人ぐらい相手したことあるよ」

 そう言うがまだ了解してくれない。

「俺はミコ姉や会長よりも戦闘経験は少ないだろうけど、あいつは俺がやる。じゃねえとクラスの奴に示しがつかねえ」

 頑として譲らない彼に、ネロも海鯱も最後には折れた。

「そこまで言うなら任せるよ。でも、無茶はしても無理は絶対しないでね」

 海鯱に言われるが、どう違うんだよ、と返す。

「危なくなったら、みっともなく泣き叫べば助けに行くよ」

 ネロに笑顔で言われ、泣かねえよ、という。

「じゃ、そろそろ始めようか。雑魚は任せといて。栢野ちゃんは裏の方に行っといて」

「ちょい待って。はい、シーちゃん」

 海鯱は改造制服の懐からピエロの仮面を彼に差し出す。

「あれ? それって、時々話題になる〈悪正義者(ノットヒーロー)〉の仮面じゃない?」

「え、なんでミコ姉持ってんの? てか、正体ばれたじゃん!?」

 確かに、それは昨日のクラスの話題にもなった〈悪正義者〉の仮面。運よく一枚だけ撮られた〈悪正義者〉の写真がつけていたもの。

「ちょ、なんで持ってんの!?」

「あんまり大きな声出さない」

 そう言われ、彼はあわてて口を塞ぐ。

「いやー、今朝轟鬼さんが来た時にシーちゃんの部屋にいっぱいあったからあげるって言われて」

 海鯱はそう言うと、真剣な表情になって言う。

「ほんとはこんなもの渡したくないんだよ。また〈悪正義者〉になられるのは嫌だし。でも、今日の相手は亜人族。どうせ不法侵入者だから返すけど」

 海鯱は仮面を渡しながら、約束して、という。

「今日でそんなことはもう一切しないって。ストレス溜まってるなら私がいつでもどれだけだって相手になってあげるから」

「……、わかったよ」

 彼も真剣な声で言う。

「でも、ミコ姉相手じゃ勝てそうにないからストレス溜まりそうだな」

 彼は仮面を顔にあてながらさっそくお道化けてみる。

「でもなんでピエロなの? 趣味悪いよ」

 ネロが直球で聞いてくる。

「シーちゃんがウチに来た時につけてたものなの」

「他にもあるけどな。狐とか般若とか天狗とか。でも、なんかこれがいいっていうかさ」

 うまく言葉にできねえわ、といって笑う。が、仮面をつけているのでよくわからない。

「ふぅん。まあいいや。じゃ、そろそろ始めようか。栢野ちゃんは裏の方に回って」

 そう言い、ネロと海鯱は入口の方へ歩いていく。彼は言われた通り工場の裏へと回る。

 そして工場の入り口前に立ち、ネロが少し大きめの石を拾い上げると、中の一人に向かってぶん投げる。

 その石が見事に命中。中の亜人族は何事かと外に出ていく。

「おお、わらわら出てきたね」

 ネロが動じずに言う。

「うわ、鳥肌たっちゃったわ」

 海鯱もいつものように言う。

「テメエら、オレたちが誰だか分かんねえわけ、ねえよな?」

 出てきた亜人族の一人が凄みをもって言ってくる。

 ネロと海鯱は同時に顔を見合わせる。

「「こんばんは、気持ち悪いおっさん達」」

 声をそろえて言う。

「君たちをこれから、」

「ミンチにしてあげるわ。」

 二人が言う。

「……ぶっ殺せえ!!」

 それに切れた亜人族の一人が出てきた全員に言う。

「「「うおおおおお!!」」」

 全員が一気に襲いかかる。

「見たとこ、20ちょっとか。中に4人ほど残ったね」

「ま、シーちゃんなら何とかなるでしょ」

 二人は何もかまえない。

「じゃ、ノルマは10人か。さっさと終わらせて助けてあげるよ」

「余計なお世話は命とりよ」

 二人は言い終えると、拳を叩きあい、左右に分かれて走り出す。

「ああ!? 威勢の割に逃げ腰だな!!」

 亜人族も二手に分かれてそれぞれを追う。

(随分と単純思考ね)

 海鯱はそう思いながら走り続ける。

 ネロも同じことを思い、二人が別々の開けた場所まで来ると立ち止り振り返る。

 亜人族は全員手に鉄パイプやこん棒といったその場に落ちている武器を携えてある。

「まるで不良だわ。か弱い女の子にそんなもの持って襲ってこないでよ」

 海鯱は笑顔で言う。

「か弱い女の子はこんな場所に来ねえよ」

「それより、結構いい女だぜ。愉しめそうだな」

 亜人族から笑いが巻き起こる。

「そういう下衆いことは倒してからに言いなさい」

 海鯱はそう言い、二丁の銃を取り出す。

「でも私、シーちゃん以外に負ける気ないから」

 低い声でそういう。

 そして、ネロの行った方から亜人族の大声が聞こえると海鯱の前にいる亜人族も全員同じタイミングで襲いかかってくる。

「「さーて、お掃除の時間だ」」



 彼は仮面をつけ、入口へと向かう。

 入口は全開状態。そのまま中へと入っていく。

「今度は誰だ!!」

 有角人の右隣の男が、怒鳴ってくる。

「……」

 彼は答えない。ただ、前へと歩くだけ。

「……、ようやく来てくれたか」

 有角人が言う。

「お初にお目にかかるな、ピエロさん。来てくれると思ってたぜ」

 有角人が静かに言ってくる。

「しかし、あんたに仲間がいたとは初めて聞く……いや、見た、か」

「……」

 それでも、彼は何も言わない。ただ歩く。

「何も言わぬか。まあ別にそれで構わんがな」

「ボス、さっさとやっちゃいましょうよ!」

 今度は左隣の男が言う。

「そう慌てるな。オレにはこいつがちゃんと使えるかも確かめなきゃいけねえんだ」

 有角人はそう言いながら、足元の機械を足で叩き示す。

 それは、ただの鉄でできた長さ10センチ程度の棒。

そして有角人はその機械を持ち、立ち上がる。

「と言っても、こいつは戦わなきゃ使えんのだが」

 その機械を眺めながら言ってくる。

 そして十分眺めた後、出て行かなかった残りの5人に向かって言う。

「ほら、仲間の仇の分までしっかり遊んでやって来い」

 そう言うと、5人同時に叫びながら突っ込んでくる。

「……」

 それでも彼は何も言わず立ち止り、敵を待つ。

 そして一人目が拳を突きこんでくる。

 彼はその手を顔面ギリギリで横によけ、腕を掴み、後ろへ投げ飛ばす。

 続けざまに二人目も同じように突いてくる。しかし、さっきと違い彼は後ろ向きだ。

 彼は下にしゃがみ、その攻撃を避け、そのまま手を地面につけ蹴り上げる。

 その蹴りは顎に当たり、脳震盪をおこし、二人とも倒れる。

 三人目は横から鉄パイプをスイングしてくる。

 彼は逆立ちのまま、腕を曲げ、体を丸め込む。スイングを躱し、足払いを使う。

 倒れてくる相手に対し、上へ向け膝を蹴り上げる。

 鳩尾に入り、三人目もダウンする。

 その戦闘を見ていた残りの二人は怖気づく。

「どうした? まさか、怖いわけねえよな?」

 有角人が低い声で言う。

「……! う、うおお!」

 その声に恐怖を覚え、一人が突っ込む。二人目は回り込みながら攻撃してくる。

 彼は一人目の攻撃の軌道を二人目の方向へと変える。

「――!」

 そのまま激突し、へたり込んだ二人の頭を蹴り飛ばす。

「ヒュ~、すごいね」

 有角人が喜ぶように言ってくる。

「……」

 何も答えない。

「だが、その強さが仇となる」

 有角人が低く笑ってくる。

 いつの間にか、有角人が持っていた機械が、傘のように開き、廃工場の敷地内全体を覆うようなドーム状の光を放っている。

 彼はその機械を見つめる。

「ん? ああ、こいつが気になるか?」

 有角人が上機嫌に言ってくる。

「こいつはウチの国でようやく開発された機械でな。ウチはこの国みてえに技術力が乏しくて開発に何十年もかかったらしいが」

 そう言いながらその機械を持ち上げる。

「名前を確か……、いけねえな、この国の超能力みてえな名前だったから忘れちまった」

 もっと分かりやすくしてくれりゃいいのに、と呟く。

「効果はちゃんと覚えてるよ。教えてやる」

 そういい、有角人は彼に突っ込んでくる。

 彼は振り上げられた拳を受けとめようと構える。が、

「――!!」

 気付けば吹っ飛んでいた。

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