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第1章*ライバルや親友や真実*

 晴れ渡ったゴールデンウィーク明けの登校日、藍澤さんが腕時計を睨み付けながら、校門の前で立っています。

 私は横目で服装チェックをしながら、通り過ぎようとしました。


 しかし


 「遥加ちゃん。依緒がまだ来てないんだけど、連絡なかった?」


 話しかけられてしまいました……。


 「依緒は週番だから、もう教室に居ると……思いますよッ」


 そう答えながら、私は耳まで真っ赤だし、鞄で顔を隠してるしで、傍から見ても藍澤さんから見ても、変な子だと思う。


 桃崎依緒は私の中学からの親友。

 一緒にこの高校のデザイン科に進んだ。

 依緒と藍澤さんは実の兄妹なんです。

 苗字が違うのは、親が離婚したからだそうです。

 藍澤さんは離れて暮らしてる分、妹想いで私にも優しく話しかけてくれます。

 くれるんですが……。

 私のトラウマを打ち砕く薬にはなってくれないみたいです。


「そう……。遥加ちゃん、教室に送って行くよ。だから……。その……」

 そう言い淀んで、私の鞄を掴み軽く傾けてから。

「俺が襲ってるみたいな態度をやめてもらえないかなぁ? みんな見てるから」

 よく見れないけど、きっと藍澤さんは困惑していたと思う。

 いつもこうなんだけど、他の男性には普通に話しているので、まるで私が藍澤さんを恐れているみたい。

 いや、実際には恐れてるんだろうけど……。


「あの。私が5歩後ろを歩いていいなら……。お願いします」

 これが精一杯の距離なので、勇気を出して言ってみる。

「じゃあ」

 そこまで言った所で、2人の間に割って入る人影が現れ、あっという間に二人の距離が開いた。


「ヒロせんぱ~い。一緒に教室行きましょ~。隣りなんだしっ」

 栗毛で両サイドにおだんごを作ったヘアスタイルの愛らしい美少女が藍澤さんを上目使いに見つめる。

 彼女は音楽科1年の阿坂真悠さん。

 学校中で『まゆたん』と呼ばれ、今年のミスコンの有力者と名高い女の子です。

 彼女も藍澤さんを狙っているらしく、そのキャラクターからか恋愛上手です。

 でも、藍澤さんとは付き合ってないみたい。

「でも今、遥加ちゃんを」

「え~! 夢川さん、ヒロせんぱいを怖がってるじゃ~ん」

「あ! あの……。これは……その……」

 私が意を決して鞄から顔を出そうとしたのですが。

「ごめんね、遥加ちゃん。無理しなくていいよ。依緒によろしく言っといて」

 そう言って、まゆたんと一緒に校舎の方へ歩き始めた。

 すれ違う瞬間、まゆたんは私の顔を見て、ニヤリとしたように見えた。

 依緒から言わせれば、私が藍澤さんを好きな事はまゆたんにはお見通しらしい。

 こんな私でもライバルだと思われてるのが嬉しいような、藍澤さんともっと一緒にいられなくて寂しいようなホッとしたような……。

 複雑です。


 まゆたんと依緒は犬猿の仲という奴なのですが、依緒曰く、生理的に無理だそうです。


 そんなこんなで藍澤さんに久しぶりに会えたのに、進展しないどころか、遠ざかった気さえします。

 こんな事でいいんでしょうか?

 まゆたんに取られるのが秒読みな気がして、焦燥感を感じつつの教室への道のりになってしまいました。

 でも、遠くからしかちゃんと見てないけど、今日も藍澤さんがカッコ良かったです。


 教室の自分の席に座り、ホッと一息。

 一時限目の教材を運んで、教卓に置いた依緒が肩を叩きながら私の所までやって来た。

「今日、校門でお兄に会えた?」

 そのしたり顔はわざと藍澤さんに連絡を入れずに、私とブッキングさせる気だったらしいです。

「会えたけど……」

「まだ恐怖症なのぉ。お兄なら大丈夫だって! ブリマユなんかに調子に乗らせてちゃダメ!」

 依緒の言う『ブリマユ』っていうのは、まゆたんの事で、ぶりっ子なまゆたんが『ブリマユ』だそうです。

「でも、条件反射っていうか! 気付くと顔隠して距離取っちゃうんだもん」

「お兄はけっこー気にしてるよー。『何かしたっけ?』って!」

 藍澤さんが悪い訳じゃないけど、私を惚れさせた点では何かしたに入ると思ってしまいます。

 でも、どうしてかな。

 きっとね、きっくんと似てる所があるから、怖いのかもしれないって思うのです。


「そういえば、葵一にふられて、そろそろ1年じゃない?」

「そうだよー。そりゃ忘れもしない誕生日だもん」

 そうなの。5月15日が私の誕生日。

 水曜日だから学校はあるけど、藍澤さんには依緒から告げ口してるんだと思うよ。

「葵一も急にカッコ良くなったよねー」

 依緒が教室の後ろのドアを見ながら喋っているので、変に思ってそっちを見ると、こっちに向かって歩いてくるきっくんが居た。

「遥加。ちょっと今、良いか?」

 うちの学校では私ときっくんが付き合っていた事は知られていないので、みんなビックリしてる。

 でも、別れてから気まずくて疎遠だったのに、急に教室にまで来て……。

 ゾクリと嫌な予感がします。


 そのまま、きっくんに連れられて、人気のない閉鎖された屋上への扉前まで来ました。


「1年前の遥加の誕生日に俺が言った事、覚えてるか?」


 髪型や服装は変わったけど、あの日と変わらない真剣な顔で、葵一が言った。


「忘れてる訳ないじゃない」


 そう答えはしたけど、その先を聴いてはいけないと私の心が警告音を鳴らしてる。

 でも、どうしても言葉が出てこない。

 だって、迎えも待たずに一方的に他の人を好きになった癖に、トラウマだけ残してるなんて、自分勝手過ぎるもの。


「やっと言えるよ、遥加。俺ともう一回、付き合ってくれないか? 今なら遥加にとって恥ずかしくない彼氏だと思うんだ」


 じっと私の目を見て言う葵一。

 その、まっすぐ過ぎる視線を、私は3秒と見て居る事が出来なかった。

 私は不器用だ。

 でも、不器用なりに素直な部分もあって……。

 言葉では出てこないのに、態度では嘘がつけなかった。


「俺はこの1年、遥加の為に努力してきたつもりだ。やっと自分にも自信が持てる。遥加をこんなに思ってる俺より良い男が遥加にはいるのかよ」


 何も言葉を返せなかった。

 ただ、自分のワガママさが許せなかった。

 藍澤さんへの思いを隠して付き合う事も、他に好きな人がいるとも口に出来ず、気付いたら頬を伝う雫にハッとした。

 驚いたのは葵一も同じだったみたいです。


「泣くほど嬉しいのか、それとも迷惑なのか俺には分からないんだけど」


 やっと顔を上げる事が出来た私の目に飛び込んで来たのは、今までに見た事も無い葵一だった。


 その表情でやっと私は決心出来た。


 涙を拭いて、しっかりと葵一を見つめた。


「ごめんなさい。葵一の気持ちは嬉しいけど、私はもう葵一に恋愛感情が無いの。もう1年前の気持ちには私は戻れない」


 俯いて拳を握りしめた葵一だったけど、それは少しの間だった。

「本当は分かってたんだ。ただ、何も言わずに諦められなかったんだよ。困らせてごめん」

 引きつってはいたけど、精一杯の笑顔を作って私に話す葵一。


「ねぇ。どうしてあの時、別れて欲しいって言ったの?」


 ずっと分からなかった一つの謎を葵一に投げかける。

 もしかしたら、前に進めるかも知れないから。


「遥加の事を好きなんだろうなっていう、男性が図書館に居たんだよ。遥加は気付いてなかったかも知れないけど、俺の話聞いてない時は決まって遥加はその人を見ていたんだぜ。遥加の気持ちを試したんだろうな。俺は別れたくないっていう言葉を期待してた。けど、遥加は泣きもしないで了承した。正直、悔しかったよ。だからめちゃくちゃ努力したんだけどな。ふられちゃったな」


 私は必死に思い出そうとした。

 図書館に居た人の事を。

 でも、葵一の失恋があってから思い出も忘れようと頑張ったし、図書館にも辛くて行けなかった。

 だから、どうしても思い出せなかった。


「じゃあ、話聞いてくれてありがとう。ちゃんと遥加の好きな人に告白しろよ」


 そう言って私の横を通り、階段を降りはじめる。

 踊り場に差し掛かった所で私は叫んだ。


「きっくん! いつか好きな人に気持ちを言えるように頑張るね!!」


 その言葉に手だけ振って葵一の姿が見えなくなった。

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