救済(SSS) (SSS)シリーズその1
自分が体験したことをヒントに書きました。
初投稿作品です。
陳腐な文章に笑ってやってくださいませ
救済(SSS)
昼休みわたしは弁当箱をぶら下げて教室を出て行った。
わたしが好きな彼がまたいじめられている。
そんな現実を見るのが嫌だった。
お弁当を食べるのは校舎の屋上、普段は立ち入り禁止だけどなぜか合鍵を持っていてわたしだけが入れる。
だから一人になれる。
どんよりと曇った空、今は梅雨の時期、だからこんな曇りの日が多い、
それはなぜかわたしの心のようだ。
お弁当を食べ終わり彼のことを考える。
今頃どんな目に逢っているのだろうか…
空から水が落ちてくる。
一滴二敵、それはやがて雨になる。
彼が流す涙のように、
彼が助けてくれと泣いているようだ。
もう我慢の限界だ。
そう結論してわたしは屋上から校舎に戻る。
その日の放課後、わたしは彼をいじめている連中を校舎の裏に呼び出した。
二人の親友を引き連れて、一人は剣道部、それにもう一人は柔道部、だからいざという時役に立つし何よりわたしの理解者だ。
それにわたしも子供の頃から合気道を学んでいる。
だからこの三人はクラスでは三女傑と呼ばれて恐れられているのだ。
「何の用だ?」
彼をいじめるリーダー格の斎藤が粋がってそう尋ねる。
わたしが呼び出した男子生徒は全部で五人、数でなら勝てると思っているみたいだ。
「増田君をいじめるのをやめてほしいの、あんなこともう見ていられない、そうお願いしに来ただけよ」
しかし斎藤は不敵に笑うと、
「いじめ?おまえ何勘違いしてんだ。あれはスキンシップて奴だよ、あいつを一人だけ仲間外れにする方がいじめだろ?」
斎藤は笑いながらそう答える。
「そうだ単なるスキンシップだ」
他の男子生徒達もそれに同意する。
「彼の教科書を読めないようにマジックで消したりお弁当に辛すぎる香辛料を振りかけるのがスキンシップなの?彼のノートの全てのページに死ねと書くのもそうなるの?」
わたしがそう指摘すると斎藤はちょっと怯んだ顔になるがすぐに元の笑い顔に戻ると、
「そうさ、それがスキンシップ、友情さ、あれであいつは喜んでいるんだぜ、なんせドM野郎だからな、そのことを先生に言ってもいいんだぜ、尋ねられてもあいつはいじめられていないと答えるだろうがな」
いじめが学校側にばれない対策はしてあるとばかりに斎藤は自信ありげにそう語る。
「彼がM?それは何よりね、でも先生には話さないわ、そんなことをしても無駄ですもんね、それよりそんな話が大好きな人に話した方が賢明よ、いいえ話すだけじゃなく画像をネットに流すだけでいい、あなた達がしていた行為、それを録画しておいたから」
わたしの二人の親友が携帯を、その画像を斎藤達に見せつける。
「これを見て世間がどう反応するか楽しみね、もちろんあなた達の名前も学校名も全て公開するわ、世間の晒し者にしてあげる。あわてふためく人達の顔が早く見たいわね」
斎藤の顔から笑みが消える。
「画像のデータはすでにPCに移植済みよ、ボタン一つで世界中に配信できるわ、もちろんわたし達もそれなりのリスクを負うことになるけどそれ以上の収穫があるから構わないわ」
「そ、そんなことをしたら名誉棄損で訴えるぞ…」
斎藤が法律を持ち出して自己弁護する。
「名誉棄損?肖像権侵害の間違いじゃないの、無断で他人の画像を流すんだから抵触する法律はそれだけよ、さて未成年者であるあなた達は勝手に裁判は起こせない、あなた達の保護者が代理人になる。でもまともな親なら裁判なんか起こさないと思うけど、恥の上塗りみたいな行為だし、それに処罰されるわたし達も未成年、さらに世間の反応はどっちが正しいかを示してくれるわ」
不名誉ないじめなんかしている癖に名誉棄損なんて聞いてあきれる。
「あいつをいじめ始めたのはおまえだろう」
「そうだ俺達は関係ない」
「悪いのは全部斎藤だ」
男子生徒達がもめ始める。
スキンシップって言ってたのにいじめと言う言葉が飛び出す。
そんな罪のなすり合いの醜い姿も隠しカメラで録画してあるのだ。
問い詰められる斎藤の胸倉を一人の男子生徒が鷲掴みにして、
「増田をいじめるのはもうやめだ。今度から斎藤、おまえをいじめてやる」
その責任を逃れるためにそんなことまで言い出す始末だ。
「さっきはスキンシップって言ってたのにいじめているって自白したわね」
親友の一人、恵似子があきれて突っ込んでしまう、
「ああ、いじめだ。それはもう認めるぜ、それに増田はもういじめない、丁度飽きていたところだからな、これからは斎藤がターゲットだ。これでもう文句はないんだろ?」
男子生徒の一人高田がそう答えてわたし達を睨む、こいつは空手をやっていたとか言って体格だけは大きいがリーダー格に成れるほど頭がよくない、
すかさずもう一人の親友の絵美がボイスレコーダーを取り出して、
「その言葉は録音させてもらったわ、動かぬ証拠よ、斎藤君をいじめる事には口は出さないけど増田君をもしいじめたら……どうなるかわかるわね?」
最後の柔道の有段者の少女のそのドスの利いた声にさすがの空手少年もたじろいで、
「嘘はつかない、約束する。だから俺達をいじめるのはもうやめてくれ!」
まるでわたし達がいじめの首謀者みたいに叫んで訴える。
まあ、別のやり方で実際いじめているのだけど……
「いいわ、それで手を打ってあげる。でももしまた増田君に手を出したら……でもそんなことはもうしないわね?」
笑顔で尋ねるわたしに斎藤以外の全ての男子生徒が頷いて答える。
斎藤の顔だけが蒼ざめたままわたし達を睨んでいる。
「これで交渉成立ね、わたしの話に付き合ってくれてありがとね、それじゃあ交渉はお開きね、ご苦労さん」
そう言いながら絵美が茂みに隠しておいた隠しカメラを回収する。
そんな物まで仕掛けていたのかと男子生徒達全員が蒼ざめる。
「バイバイ、坊や達」
最後にそう言ってわたし達はその場を離れる。
曇り空からまた水が落ちてくる。
今度は誰が流す涙か?
こうしてわたしが好きな増田君は陰湿ないじめから解放される。
告白するってことはものすごく勇気がいることだ。
顔が赤くなり言葉がうまく浮かばない、
梅雨の晴れ間の昼休み、絵美が増田君を秘密の場所、校舎の屋上に呼び出してくれたのだ。
「こんな所に上がれるんだね、いい景色だね、ここは高台だから街中が見渡せるね」
増田君は上機嫌で辺りの景色を眺めている。
でもわたしはそれどころじゃない、今から好きだと告白するからだ。
夏前なのに日差しが強い、流れる汗はそのせいだけだろうか?
言葉が出ない、いや…言葉にできない…昨日の夜に必死で練習した言葉を忘れた。
だから手にした包みを無言で増田君に差し出す。
「えっ、これ何?」
不審そうに増田君がわたしと包みを交互に見つめて問いかける。
「すきだから……」
「えっ、なに?」
小声すぎてよく聞き取れないのか増田君が尋ねてくる。ええいもう開き直ろう!
「好きだから増田君のためにお弁当を作ってきたの!」
わたしの突然の大声に増田君は驚いたが笑顔に戻ると、
「僕のために?それにすきって…?」
増田君の顔も赤くなる。
いじめからの解放、しかし増田君はその事情を知らない、だからまだ警戒してお弁当を持ってこないで購買でパンを買っている。
「そんなパンばかり食べてたら健康に悪いと思って…ここなら誰にも邪魔されないし…」
増田君の問いを誤魔化すようにそう答える。
「いや…お弁当のことじゃなくて好きって…女の子にそんなこと言われたのは初めてだからどう返事したらいいか…」
照れたように増田君がわたしから視線を外す。
「じゃあ嫌いなの?」
増田君は視線を空に向けると、
「実は知っていたんだ。君が僕をあのいじめから解放してくれてことを、それに気付いていたよ、君がいじめられる僕を見る目がいつも悲しんでいたことも」
増田君は空からわたしに視線を戻すと、
「実は僕から言おうと思っていたんだ。好きだって、でも言うだけの勇気が出せなくて…でも君の方から言われるなんて思わなくって、ごめんね、恥ずかしいことをさせて」
そう、こんなに優しい増田君が好きなんだ。
だからあんな連中にいじめられたりしたんだけれど……
「もういいからお弁当を食べましょう、お昼休みが終わっちゃう」
日陰を探してわたし達はそこに座り込む、楽しい会食の時間が始まる。
お弁当を食べる増田君が汗を流す。
まだ本格的な夏じゃない日陰ならまだ涼しいのに、
「どう?おいしい」
わたしの問いに汗を流す増田君が苦しそうに笑いながら、
「う、うん、おいしいよ……」
そう返事して豪華そうなお弁当に箸を運んで口に入れ眉をしかめる。
おいしいはずはない、わざとまずく作ってあるのだ。
「よかった。わたしあまり料理には自信がないの、でもおいしいなら明日も作ってきてあげる」
増田君の体が硬直する。
そして苦笑になると、
「う、うん、料理に自信がなくても作り続ければ上手になるよ……」
ああ、こんなに優しい増田君が大好きなんだ。
それをいじめるなんて許せない、わたし以外がいじめるなんて許せない、彼はわたしの物なんだ。
わたしは屋上に上がる昇降口から様子をのぞき見している二人の親友にVサインを送る。
わたし達三人は女子の中でSSSと呼ばれている。
わたし柴田美由紀、
それから二人の親友、鈴木恵似子、佐倉絵美の頭文字をもじったものだがもう一つ意味がある。
三人ともどうしょうもないSなのだ。
小さい時から格闘技を学んでいたせいか相手を傷めつけたい衝動に襲われるのだ。
それも暴力で屈服させたいんじゃないから始末が悪い、そんなことにもう飽きてしまっているのだ。
飴と鞭で上手にいたぶりたいのだ。
それには包容力のある優しい男性が必要になる。
だから大好きよ、増田君、あなたもうわたしの物よ、大切にしてあげる。
空が急に曇り始める。
昼休みの終わりを告げる予鈴が鳴る。
それと同時に大粒の水が落ちてくる。
ようやくお弁当を食べ終えた増田君の手を引いてわたしは昇降口に向かって駆ける。
今度は誰が泣いているのかな?
おしまい
いろんな人の協力で短編ですが書きあげることができました。
これでなろう作者の一人となったとは思いませんが短編を書くのが得意だと気付きました。
また短編を書いて投稿します。
読んでくださってありがとうございました。
自分では信じられないぐらい好評だったので{SSS」をシリーズ化しようと思います。
次回作を執筆中です。
また読んで下さいね(^_-)-☆