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おまけ 作品設定

 作者自身が見落としがちな登場人物および用語の整理のためのおまけです。

登場人物


『主要人物』

来栖託人くるす・たくと:くいな橋高校1年男子。戦国時代に吸血鬼を追って来日したエクソシストの末裔であり、上背180cmを越える均整の取れた体格と先祖の名残で彫りの深い顔立ちをしている。だが濃い陰影を刻む顔は粗暴な言動と相まって威嚇的な凄味を相手に与えてしまっており、クラスメイトからは敬遠され、不良たちからは因縁をつけられる結果になっている。

 小学校から中学卒業まで山奥で剣気を操る修行に勤しんでいたせいか感覚が浮世離れしており、十代の若者でありながらケータイやパソコンを扱うのが苦手。無骨で硬派な人物を気取っているが、逆境や不測の事態を前にして動揺するなど現代の若者にありがちな欠点も備えている。

 小学校時代の渾名である『クーくん』と呼ばれるのを歯痒く感じているが、互いに片親という共通点を持っている丹のこと憎からず思っており、彼女に対しては不器用な思いやりを見せることもある。

来栖は祖父である先代からウワバミの役割を受け継ぎ、先祖代々の使命と両親の仇討ちという目的で紫水小路から排出され人間を襲うナレノハテの駆逐に勤しんでいる。

 この作品の主人公であるが、作品構想に挙がってきたのは主要人物の中で最も遅かった(笑)。だが来栖の登場でもともと悲喜劇な構想していた作品に、シリアスさを加えて現行の雰囲気になったので作品に対する影響力は大きい。

 ネーミングは東欧の伝説にある吸血鬼ハンター、クルースニク(十字架を背負う人)に因む。十字架を表す単語クルス→来栖、背負う→担う、任される→託す人→託人。本来敵である吸血鬼と停戦協定を結び教会の勅命に背く結果になりつつも、世の安寧のために骨を埋め多くのひとの思いを背負っていく強さを持ったキャラクターという意味を、著者は来栖託人の名前に込めている。


霧島丹きりしま・まこと:くいな橋高校1年女子。不在の母親に代わり家事に追われているせいで朝は身繕いする暇がほとんどなく、天然パーマ気味のショートヘアに寝癖を残したまま登校するほど自分の容姿に無頓着だが、丹自身はコンプレックスを感じていても長身にメリハリの利いたプロポーションをしており、きちんと身だしなみを整えればお約束の美少女。

 博愛的だが他人の助けを借りるのに躊躇しがちで悩みを自分の中に抱え込みやすく、精神的な危うさを内包した意外と向こう見ずな性格。内面の不安定さに加えてトラブルに巻き込まれやすい不幸体質であり、些細な不運が重なり続けて母親の紅子だけでなく丹自身もウツセミに転化してしまった。

 その背に烙印を刻むことでウツセミの超人的な身体能力や感覚機能を失う代わりに、ウツセミの肌には刺激が強すぎる昼間の日差しの影響を受けにくくなる副作用の恩恵で現世での暮らしに戻ることを熱望し、ウツセミでありながら日中も活動できる特異性を会得した。

 だが陽の当たる場所で暮らせるようになっても、己の内側に宿る蝕によって精気の渇きというウツセミにとって不可避な因果からは逃れられず、人間を襲うリスクを回避し丹を見守るために来栖は彼女の自宅に居候することになった。

 あまり人付き合いは得意ではなく友人の数も限られているが相手に対して正面から接するように心掛けており、その愚直さが丹本人は無自覚でも他人を惹きつけている魅力になっている。

 幼少期に母親が突然の失踪したことを除けばごく普通の女子高生だったが、進学した高校で来栖と再会を果たしてから御門市内の闇にまつわる事件に巻き込まれ、数奇な運命を辿ることになる。作品を構想する際に真っ先に思い浮かべたキャラクターであり、ヒロインに据えているものの筆者としてはむしろ狂言回し的な役割で捉えている。

 ネーミングの由来は封建時代にキリスト教徒を指した切支丹きりしたんによることと、代永氏族の女性のウツセミの名前には赤系の色を表す単語という共通点を持たせるため丹の字を当てた。個人的には女性的で綺麗な名前だと思うので、読み間違いを防ぐために何度もルビを振って対処した。



『霧島家』

紅子べにこ:丹の産みの母親にして彼女をウツセミに転化させた人物。肩にかかる黒髪は軽く外側に膨らんでおり、柔和な表情やブラウスにロングスカートなどの清楚な出で立ちをしていて優しげな印象を受ける。

 源司の手でウツセミに転化させられ若々しい美貌を保っているものの、客商売には向かない天然でおっとりした性格なので『林檎の樹』などの風俗店の店員ではなく、紫水小路に住むウツセミ全般の庶務を担当する政所に勤務することになった。

 紅子自身には過失がないとは言え、夫と娘たちの下から離れてしまったことに罪悪感を抱いており、丹と再会した当初は娘のことを拒んだ。しかし自身の手で娘をウツセミに転化させることを懇願し、その後も昏睡の続く娘の身を案じるなどかつてと変わらない愛情を抱いている。最愛の夫斎がウワバミの来栖に連れられて紫水小路にやってきたことで約10年ぶりに再会を果たし、互いに姿は変わっても変わらぬ愛を抱いていたことを確認する。

 ヒロイン丹の母親役だが、著者の個人的な感覚では中盤までのメインヒロインのような扱いをしている。外見だけでなく性格的にも丹は紅子に似ており、ウツセミになって加齢の止まった紅子と丹が並ぶと歳の離れた姉妹に見える設定。


いつき:丹と葵姉妹の父親で、妻紅子を失った悲しみを10年近く経った今も引き摺っている。厳格な性格で妻の分まで躾にうるさくしているが、反抗期を迎えた次女には手を焼き、炊事洗濯掃除などを長女に頼りきっている不甲斐ない面もある。しかし娘姉妹に対する愛情は深く、丹が行方不明になった際には非常に取り乱して来栖に八つ当たりをしてしまった。

 若い頃から真面目実直な人格であり色恋には疎遠だったが、斎が二十代後半の時に短大を卒業して入社してきた紅子と職場で出会い結婚した。結果的には見れば美人の嫁さんに可愛い娘2人を持つリア充である。

 重くなりがちな展開の中で霧島家の日常は貴重なコメディーパートとして重宝した。やもめの父親が娘の育児に苦労する姿はきっと子どもの頃好きだったアメリカのホームドラマから影響を受けたものと自己分析。


あおい:丹の妹で中学生、引っ込み思案な姉とは対照的に活発で自信家、流行にも敏感な性格。丹のことを軽んじているような言動が目立つが、内心ではいなくなった母親に代わる甘えられる対象として依存しているツンデレ気質。

 性格だけでなく体型も姉の丹と対照的で、身長が低く起伏に乏しいボディラインがコンプレックスになっており、スタイルをよくするために牛乳を愛飲している。

 顔の造作は丹や母親の紅子と似ているが、2人に比べて攻撃的な性格をしている分きつめの印象を受ける。髪の色は茶色がかっているが脱色や染色している訳ではなく天然で、毎朝家事を丹に押し付けてヘアセットを念入りに行っている。

 コメディーリリーフとしての役割が強い霧島一家の中でも、特に滑稽さが目立つように描写した。性格や体型だけでなく名前さえも葵→青いと姉の丹とコントラストをなすように設定してあるが、12話目の締めを飾る役目を担わせた。



『代永氏族』紫水小路を支配する実業的かつ営利的な傾向が強い氏族。

代永源司よなが・げんじ:代永氏族の族長を務めるウツセミ。一見すると仕立てのいいスーツを粋に着崩したホスト風の格好をした男女とも魅了する端正な顔立ちの優男であり、人間の寿命を遥かに越えた時を生きている吸血鬼には見えない現代的な人物。

 口八丁手八丁を駆使し族長として一族を統率する手腕は確か。だが一方で丹にウツセミのことや彼女の実母である紅子がウツセミに転化してしまったことを公表してしまったり、丹が紫水小路へ入れるはずがないとタカをくくってその見通しが外れたりと至らない点も見える人物である。

 紅子を現世から紫水小路に連れ込んだ張本人で、当初の構想では源司の気まぐれが全ての発端となっていた。しかし話を進めていく中で飄々として掴み所のない面はあっても、仲間に対する思いやりや族長としての責任を自覚している人物として造詣するようになり、同胞たちの平穏を脅かす仇敵の情報を持っているかもしれない紅子を救うためにやむを得ず誘拐したという現行の流れに書き換えた。

 ネーミングは代永姓は夜長から、源司は初期の女性に節操なく手を出すイメージを稀代のプレイボーイ光源氏に因んだもの。


朱美あけみ:代永氏族の先代族長、齢400歳近くになる古参のウツセミで紫水小路の中では最長老。族長の座を源司に譲った現在も同胞から敬われており、管轄している部局の名前にちなんで政所まんどころ様という尊称も持つ。

 朱美自身は重んじられる境遇に不満を抱いていて、自分の素性を知らない丹と接触し対等の立場で接してくれる友達となった。

 来栖の祖父である先代のウワバミが往年の頃に族長を務めていて浅からぬ縁で結ばれており、20年ほど前、独り身になった先代と暮らそうとしてその背に烙印を刻んだ。しかし強力なウツセミだった朱美でさえ烙印の消耗は激しく先代の剣気で傷口を焼いて塞ぎ一命を取り留めるが、衰弱した体を癒すために環境のやむなく紫水小路へ帰還する。

 成人の姿をしているものが多いウツセミであるのに丹よりも年下に見える着物姿の少女の姿をしているのは、大量の妖気を失って肉体の維持に必要なエネルギー効率を高めるためである。声のトーンは若いものの口調は老人のものであり、族長の経験があるため必要があればロリババアの貫禄を見せる。


あかね:人身売買を含めた紫水小路における商取引の執行を担う置屋の女主人を務める代永氏族の中堅のウツセミ。置屋の運営に辣腕を振るっている通り、気風のいい女傑で相手を圧倒するような攻撃的な印象を受ける美貌の持ち主。妙齢の美女の姿をしているがウツセミになって100年以上の年月を経ているため、服装は古風なドレスを愛用している。

 商売においてがめついところもあり、ウツセミにとっての栄養源である人間には容赦ないが、同胞には思いやりを見せる姉御肌をしているため緋奈を始め彼女を慕うものも多い。またウツセミ内部における規範を遵守する生真面目さも持っており、族長でありながら掟を何度も破っている源司に苦言を呈することもある。そのため源司がしきたりを破って同胞に加えた紅子とその娘である丹にはあまりいい感情を持っていない。

 初期の構想では緋奈の容姿とポジションで性格は茜のものをしたキャラクターを考えていたが、構想を煮詰めているうちにお局的な役割の茜と能天気な若手の緋奈に分割した経緯がある。その結果、茜は丹をウツセミに転化させる流れで非常に役立った。


忠将ただまさ:代永氏族の中堅のウツセミで源司のよき相談相手。奔放な源司に振り回されつつ彼の度量を認めている。面倒見のいい歓楽街の支配人で、源司とは対照的に落ち着いた色合いのスーツと着込んでネクタイも愛用している。

 代永氏族では族長に次ぐナンバー2のポジションに置いてはいるが、出番を上手く作れなかった……


緋奈ひな:代永氏族の若手のウツセミで『林檎の樹』のキャスト。肉感的な肢体を惜しみなく強調する派手な衣装を愛用しており、明るい(営業用の)スマイルで店に来た男たちを虜にする。

 ウツセミに転化してまだ数年しか経っていないため、現代的な即物的でドライな考え方をしており、髪も角度によっては金髪にも見える薄い茶色に染まっている。

 年上の紅子や茜には甘えるが年下の丹には姉貴風を吹かせる。良くも悪くも単純な性格で流されやすいが根は善人。ネンネちゃんと丹のことを呼ぶのは茜の口真似であり、悪意はない。



『その他の人物』

安倍真理亜あべ・まりあ:教会を母体とし、人間を脅かす魔性の存在を一掃して地上に楽園を創造するという理念を掲げる組織ハライソに所属する女子高生。魅惑的な肢体と縦ロールの髪に縁取られた高貴な印象を受ける美しい顔、そして資産家の令嬢ということから通学している芳志社女学院の中等部および高等部の学生たちの羨望の的となっている。

 ナレノハテの生態や来栖の家の歴史、そして来栖が裏で忌むべき存在である吸血鬼と結託していることまで把握している情報通で、弁も非常に立つことから来栖は真理亜に苦手意識を抱いている。

 吸血鬼に対抗する立場にいながら来栖とは異なる、もっと狂信的な思想を持つキャラクターとして造詣すると同時に、サブヒロインとして来栖を巡り丹との対立を深めていく…予定だったが、ナレノハテや来栖の家庭事情などの説明役としての動きしか描けずに話が終わってしまった消化不良のキャラクター(汗)。

 ネーミングはキリスト教の聖母を讃える言葉から、あまりにも捻りのないベタなネーミングで逆にゴーサインが出しづらかった(笑)。現状では立ち位置や思想などいろんな意味で残念な美人としか言えない……


先代/来栖護通くるす・もりみち:先代のウワバミで来栖の母方の祖父。孫よりは一回り小さいものの老齢を迎えても鍛えられた体格をしており、全身から覇気を雄々しく漲らせている。顔に刻まれた皺の奥から鋭い眼差しをぎらつかせるが、先代の禿頭が自分に遺伝しているかどうかと来栖は自身の将来に戦々恐々としている(笑)

 現在は好々爺を気取っているが、若い頃は強力なウツセミである源司や忠将が畏敬の念を抱くほど凄腕の刺客だった。来栖に役目を譲って隠居した現在は御門市の北部に聳える鞍田山に暮らしている。シャバの暮らしが長いため孫よりも世事に詳しい。


天満てんまカンナ:くいな橋高校1年女子、丹の友人。雪人という名前の彼氏がおり、丹に頻繁にノロケ話を語る。丹よりも楽天的な性格をしているが、毒舌家でもあり番外編でやりたい放題ゲストをイジって遊んでいる。

 トレードマークの縁の大きな眼鏡は野暮ったくも見えるが、女性的なふくよかさを持つ肢体は滑らかな色白の肌で覆われており非常に魅力的で、ウツセミになった直後の丹の食指をそそった。


盛田もりた:通称ゴリ田と呼ばれるラグビー部顧問の体育教師。素行不良を繰り返す来栖を何かと目の仇にしている。単発のネタキャラの割には出番が多かった。




用語解説


精気せいき:全ての生物が持つ生体エネルギー。吸血鬼であるウツセミは精気を自分で発生させられないため、他の生物から奪うことで精気の不足を補っている。

 新鮮な血液には多くの精気が含まれており、吸血鬼が血を啜るのは血液を介して精気を自分の中に取り込むためである。血液はウツセミを酩酊させる効果があり嗜好品としても飲まれているが、精気の摂取方法として血を飲むことは非効率なやり方であり、ある程度齢を重ねたウツセミは自分の内側にある蝕を局所的に外部に具現化させて直接精気のみを吸い出す術を会得する。


剣気けんき:精気を攻撃用に転換し操作、発散する技術およびその技術で発した青白く発光するエネルギーの呼称。真理亜の所属する組織ハライソでは剣気のことを聖火と呼んでいる。気功とほぼ同義のものだが物理的な現状は引き起こさず、対象となった相手の精神面に影響を与えるだけである。

 剣気の操作には二種類の方法があり、精気から転換した剣気を凝縮せずに発することで速射が可能なはつは剣気を波紋状に空間に展開する。通常は動き回るナレノハテの足止めに使うが、蝕が小さいものならば撥でも倒せる。

 もう一方の手段であるれんは剣気を束状に凝縮してエネルギー効率を高め、一極集中的に剣気を相手に叩きつけることである。剣気を凝縮する際のイメージに来栖は西洋の騎士が携える手槍を浮かべており、斂を撃ち出すと青白い光の槍がナレノハテに突き刺さるような光景が描かれる。

 精気の真空地帯である蝕自体が変換された精気である剣気を自然に吸い寄せるため、来栖は特に狙いを定めなくても剣気は蝕へとぶつかっていく。しかしぶつけられた剣気のエネルギーが蝕の吸引力よりも小さいと相手にエネルギーを寄与するだけの結果になってしまうので、発散する剣気の威力を加減して使用することは滅多にない。


赤霧(せきむ≒責務)血に似た匂いと赤黒い煙を発する煙草。これを愛飲する吸血鬼がおり、その性質を利用してナレノハテを誘き寄せている。しかし来栖は未成年であり法律的に問題がある上、通常の煙草よりも健康への影響が大きく剣気の使い手が早世する一因になっている。


ウワバミ:吸血鬼であるウツセミたちを監視する天敵であり、ウツセミと人間の社会の均衡を保つ守護者の役割を担う剣気を駆使する人間のこと。代々来栖の一族がその任に就いている。

 宣教師の伝来に前後してヨーロッパからエクソシストたちがその討伐のため日本に派遣されてきたが、当時激しい内乱状態にあった日本ではその任務を遂行することは困難であった。更にキリスト教を禁止して鎖国の体制を江戸幕府が敷くとますますエクソシストたちの任務は難しくなり、志半ばでやむなく帰国の途につくことになる。しかし派遣されてきたエクソシストの一人であった来栖の遠い先祖は日本に留まり、初志貫徹のため任務を忠実に遂行してきた。独り日本に残ったそのエクソシストは現地で妻を娶り子を設け、その子もまたその子孫も人知れず吸血鬼たちとの暗闘を繰り広げていたが、如何に腕が立とうとも多勢に無勢では劣勢を強いられるしかなかった。

 そして江戸時代初期に来栖の先祖が排除する対象であった吸血鬼と和約を結び、ウツセミと称する吸血鬼たちが現世を離れ異空間『紫水小路』に隠遁することがその責務を担うようになった契機とされている。人間と吸血鬼両者の関係に関する事情は清濁問わず聞き入れ、調停に尽力していく姿から伝承上のあらゆるものを飲み込む大蛇に因んでウワバミと呼ぶようになった。


ウツセミ:紫水小路に住まう吸血鬼の総称、室町時代にキリスト教の伝来と共に日本に流入してきた吸血鬼を始祖としている。魂のない人の抜け殻という自虐的な意味と確かに実体を持ち存在しているものという自負の両方の意味をその名称にかけている。

 基本的に人間だった時と容姿に差はないが、強い光を受けると瞳孔が猫みたいに細くなる。人間という獲物を狩る捕食者として身体能力の向上や五感が鋭敏化されて幾分攻撃性が強まってしまう。ただし人間の時とは異なり体内で精気が発生しなくなるので、外部から精気を取り込む必要があり、この精気を欲する本能的な衝動を渇きと呼んでいる。

 渇きを満たすためには精気を摂取すればよいので必ずしも血を啜る必要はないが、血は吸血鬼となったものにとってはこの上なく美味に思えるものであり、人間にとってのアルコールと同様の効果をもたらすので嗜好品として飲むことが多い。吸血への欲求はウツセミにとって本能的なものであり、性的な快感が絶頂に達した時に愛撫している人間に噛み付くこともある。


ナレノハテ:精気の渇きが限度を越えて自我を失った吸血鬼の末路。姿形は人間とそう大差ないが、海老茶色の肌をした顔面は崩れ表情や顔の造作が失われてしまっている。ナレノハテは紫水小路に置ける異物として空間の外に排除されてしまい、外界で人間を襲う。代々ウワバミはウツセミが取り交わした盟約を遵守し紫水小路から現世に出ないことを条件にナレノハテの始末を請け負っている。現在学生の来栖は、ウツセミから依頼されるナレノハテの始末料が生活費の資金源となっている。

 ウツセミはナレノハテを発生させないように相互扶助の関係にあって、茜が担っている置屋の人身売買も解決策の一つ。仲間同士の支えあいにより紫水小路にいる限り基本的にナレノハテは発生しない。しかし環境に馴染めないものも存在し稀にナレノハテになってしまうこともあるが、それでもナレノハテの出現は多くて年に数回という頻度だった。


しょく:吸血鬼の本質である虚ろで精気を貪るだけの魂およびその精気の真空地帯を掌など局所的に外部に具現化して触れた箇所から精気を搾り取る術のこと。力のあるウツセミが蝕を制御することで吸引力次第では攻撃に使われた剣気すら吸収して自分の養分にしまうことが可能となる。

 蝕はウツセミとして過ごす歳月を重ねるごとに膨張し吸引力が強まるが、その分具現化した際には制御が難しくなる。吸血鬼が存在し続ける限り蝕は膨張し続け、究極的には膨大になった蝕に吸血鬼は飲み込まれて自滅する。


妖気:吸血鬼の魂である蝕は実体のない精気の真空地帯であり、その空白を埋めようと絶えず精気を引き込む力を発生させている。蝕が発する吸引力のエネルギーが変換されたものが吸血鬼の活力となる妖気であり、蝕が巨大になるほど妖気も増大していく相関関係にある。

 若いウツセミでは身体能力や感覚機能の向上と、蝕を局所的に具現化させて外部から直接精気を吸収することの制御しか妖気を利用できないが、齢を重ねたものでは変身能力や千里眼など超常的な能力を行使する媒介として利用できるようにある。


紫水小路しすいこうじ:ウツセミたちの本所、この世とあの世の狭間にある異世界で精神を病んだ人間でなければ足を踏み入れられない。通り全体を瘴気が漂っているため生身の人間は紫水小路で長生きできないが、その瘴気に惹かれて迷う込む人間は多い。住んでいるウツセミの感覚を反映してか、現世よりも数十年古風な雰囲気の街並みをしている。

 常に黄昏の空に覆われており日が暮れることもないが朝が訪れることもない世界で、吸血鬼のアメニティとなっている。しかしどうしても閉鎖的な空間に馴染むことができず外の世界へ未練を残すもの、あるいは餌となる人間を惹きつけられずに飢えてしまうものも存在しており、そういったものが紫水小路の外に活路を求め、紫水小路に自分の居場所がない事に絶望しナレノハテへと堕ちていく。

 心に闇を抱いている人間の誰もが紫水小路に入れる訳ではなく、招き入れられる人間の過半数は整った容姿をした比較的若い人間である。しかし3人に1人くらいの割合で、金蔓と強欲な魂を見込んで年配者を引き込むこともある。

 迷い込んだ人間は小路の外へ戻れることもあるが、その理由は紫水小路の内部で大勢の人間を養うのが面倒なため。新鮮な精気を得るためには餌の人間に健康維持をしてもらう必要があり、現世と紫水小路を出入りする人間は少なくない。

 ネーミングの由来は血吸い→ちすい→しすい→紫水と訛ったこと。ウツセミは初期設定では本拠地に因んで紫水の民≒血吸いの民という名称だった。


現世:人間たちが日常生活を送る現実の世界の呼称。


魔剣まけん:銀で刃が出来たナイフの呼び名。銀は伝承の通り吸血鬼が苦手とする金属であり、族長など年季を重ねたウツセミはその携行が許されている。

 魔剣を人間の心臓に打ち込み体内に妖気を流し込むことで蝕を発生させ、その人間を吸血鬼に転化させられる。塗られた血の吸血鬼が転化した吸血鬼の「親」となり、強固な服従関係が結ばれる。


置屋おきや:代永氏族が管理し現在は茜が責任者を務める、主に富士見氏族のウツセミに召人として供給する人間を一時的に住まわせる館およびその組織の名称。置屋の主は富士見の館に出向いて用命がないかを訊いて回り、需要があれば人材を斡旋する。幽閉されているのは紫水小路に迷い込んだ行き場の無い少年、少女など。

 置屋に幽閉する人間を懐柔するためそれなりに丁重に扱うので経費が馬鹿にならず、茜は余計な経費を削減するために足繁く営業活動に勤しんでいる。以前は朱美が管轄していた。政所の長官が隠居した族長なら置屋の長官は次代を担う若頭格のウツセミが勤めることが多い。商取引の管理。レンガ造りの高層ビルを現在は事務所に使用している。


召人めしうど:ウツセミが抱える召使の人間の呼び名。置屋を介して得ることもあれば自己調達することもある。入手方法に違いはあっても、身も心も主のウツセミの虜になってしまうため外界に出入りさせても脱走するリスクは皆無。


政所まんどころ:代永氏族が管理しているがスタッフに富士見氏族のウツセミもいる、戸籍や会計管理からクリーニングなどの雑用まで手広く請け負う庶務係。

 隠居した族長が余命のあるうちにその長官に就く名誉職で現在は朱美が鎮座している。真面目で事務的な性格のウツセミが多いため精気の補給のために置屋から召人を買うこともある。政所のウツセミは買出しを担当しており、朱印符を用いて紫水小路からの出入りが許可されている。


朱印符しゅいんふ:人の血を割札に塗布し、一方は紫水小路に残し、他方は現世に設置しておくことで現世と紫水小路の出入りが出来るようにする仕組みの通行証となる割札。2つの割札を合わせると他方へとワープする。

 非常に有用な道具であるが故、政所において厳重な管理がされており、私用で貸与することはご法度とされている。


林檎の樹:忠将が支配人を務めるキャバクラ。若手のウツセミの女性がキャストとして働いている。


烙印らくいん:規律を乱したウツセミに科せられる刑罰の一つ、および罰を受けたウツセミの背中に刻まれている十字型の傷の呼称。

 烙印の判決を受けたウツセミは銀製の刃である魔剣で背中を十字に斬られ、傷口からウツセミの活動エネルギーである妖気が常に漏れ続ける。ウツセミの魂の源である精気の真空地帯の蝕の吸引力が転じて妖気になっており、妖気が漏れ続けることは蝕の吸引力も弱まってウツセミとしての力をつけられないこととなる。

 活力源である妖気を失う烙印を刻まれたウツセミの身体能力や感覚機能は並の人間と同等にまで低下してしまい、力任せに人間を襲うことは困難になってしまうため、上手いこと人間を篭絡しなければ精気を摂取できなくなってしまうことから烙印は厳罰という認識を持たれている。

 しかし烙印を刻まれることで日光に対しても過敏な反応を示せなくなるため、通常であれば紫外線に過剰な反応を示し、肌を焦がしてしまうウツセミも日中の活動が可能になる。長袖や帽子などの対策を行い、長時間直射日光に曝されるようなことをしなければ陽光で致命的なダメージを負う心配はない。丹は自分の日常を取り戻すため、敢えて烙印を背中に負う決意を固めた。


御門みかど市:来栖や丹たちの家があり、彼らの通う高校もある街。市内の中心部には全国有数の歓楽街を持ち、ウツセミたちの餌となる人間が夜な夜な飲み明かしている。その一方で高名な学者を何人も輩出している難関大学を筆頭に多数の教育機関が存在する学研都市でもある。

 来栖の祖父が隠居している鞍田山くらたやまなどの山々に四方を囲まれた盆地にあり、文化財に指定されている寺社が多数存在し、日本家屋が立ち並ぶ古の趣を色濃く残す観光都市。市街地の東側には鱧川はもがわという河川が南北に流れ、市民の憩いの場となっており川岸で愛を語らう恋人たちが等間隔に並んでいる。

 ここまで書けば分かる通り、モデルは京都市。鞍田山は天狗伝説のある鞍馬山、鱧川は作中の設定と同様に市街地を流れる鴨川をもじったもの。また来栖たちの在籍している高校に使われている地名、くいな橋は京都の地下鉄の駅名にも使われている。

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