表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
少年Aは恋をしりたい  作者: 凛月
少年Aあるいは生徒A
3/4

第2節

 僕は部活後に、学校最寄りのファミレスでバイトをしている。ここでの僕はさながら、店員Aといったところだろう。注文やレジの対応をするだけの存在。大抵定型文で話すだけで、物語には全く関与しない脇役だ。

「いらっしゃいませー。何名様でしょうか?」

「五人です」

「あちらのお席へどうぞー」

 来店されたお客様は、矢島高校の制服を着た男女五人のグループ……これは勉強会イベントの予感がする。期末考査まで残り三日、この店を勉強場所に選ぶ生徒は少なくない。その証拠に今回来たグループを入れて、テーブル席が四つ、矢島の生徒だけで埋まっている。しかし……ファミレスで勉強会って、捗るのか……?いや、これは理屈じゃない。意味があっても無くても青春イベントの一つであることに間違いはないのだから。

「安達よーお前は勉強しなくていいのかー?」

 けだるげに話しかけてきたのは、先輩の馬場さん。僕より背が高くて、普段下ろしている長髪をお団子結びにしている。私に三十路はまだ早い、と意味の分からないことを口走る程度にいかれている二十四歳。怒らせると拳が飛んでくるタイプの僕の教育担当だ。

「僕は毎日復習してるから大丈夫です」

「偉すぎる……私なんか赤点回避でいっぱいいっぱいだったのに。ひょっとして、安達って相当頭いいのか?」

「中間は学年八位でした」

 馬場さんは眉をひそめて僕の顔をじっとりとした目で見てきた。完全に疑っている目だ。

「嘘だね。安達が私より出来る顔には見えない」

「外見で判断しないでくれます!?」

 現代社会が外見至上主義なのはわかっているけど、ここまで酷いと僕の立つ瀬がない。一応、身だしなみには気を付けてるんだけどな……。

「安達は私と同類だと思ってたのに……くそぅ、こりゃ今夜はやけ酒だあ!」

「明日のシフト、朝からなんですから、ほどほどにしてくださいね」

「生意気いいやがって、お母さんかっつの。はあ、レジ対応してくるから三番片しといて」

「わかりました」

 これじゃどっちが、教育係なんだか……。でも、仕事が出来るのは事実。さっきのけだるさはどこへやら、完璧で、自然な接客スマイルをする彼女は、まるで馬場さんじゃないかのようだ。

 僕は与えられた仕事をこなすべく、戦場へ向かう。三番テーブルは女子三人のグループが座っていた……よな?どうしてステーキのプレートが五枚もあるんだ。僕がシフトに入る前に何があった。というか、どうして下げてないんだ馬場さん!?これは自分でやるのが面倒だから僕に押し付けた感じか?仕事はできるけど、仕事をしないのは職務放棄だぞ…。これは馬場さんに対する評価を考え直す必要がありそうだ。

 三番テーブルの隣には、男女七人のグループがノートを広げて勉強会を開いていた。この世の終わりのような顔をしている生徒と、それに困った顔をしながら教えている生徒……こっちはさっきの三人組とは違って、しっかり勉強しているみたいだ。青春ラブコメの波動を感じる。

 盗み聞きは大概に、僕は悲惨な戦場を丁寧に片していく。そうしていたら、入店音と共に知った声が聞こえてきた。今回は馬場さんがそのまま接客をするみたいだから僕の出番はなさそうだ。

「一人です」

「ではこちらに」

 しかして馬場さんは、最速で最低限の接客をして、逃げるように僕の方に歩み寄ってきた。

「おい、安達。片すの私がやるからあの子の接客しろ」

「また、若さの暴力にやられたんですか……さっきの三人組は平気だったのに」

「さっきのは、若さ以上に活発さがあったから大丈夫だったんだ!今回はもう若さでつぶしにかかって来てる!」

 馬場さんは、女子高生の若さ、主に十代特有の華蓮さにあてられると、怯えて他の店員に泣きつくきらいがある。本人曰く、生命エネルギーを吸われている感覚に陥る、だとかかんとか。であるのにこんなとこでバイトしているのは、それを克服したいかららしい。

「じゃあ、注文は僕がとりますね」

「任せる」

 戦場を放置した天罰だ。このまま接客させるという罰も与えようか悩んだけど、僕は甘んじて馬場さんの頼みを聞くことにした。

 しばらくして、卓上ベルが鳴ったので、注文を受けるべく少女の元へ向かう。さて、少女はどんな顔をするのか。

「お決まりですか?」

「えっと…うーん……この期間限定生クリームたっぷりピーチパフェを一つ……って安達君?」

 店員と顔を合わせるべく、顔を上げた小暮さんは僕を見て目を丸くした。思考が停止したように動かなくなった小暮さんは、まるで有名な猫の様だ。

「いらっしゃい小暮さん。期間限定生クリームたっぷりピーチパフェがおひとつですね。以上でよろしいでしょうか?」

「あ、うん」

「少々お待ちください」

 出会ってから初めて小暮さんと目があったのが、店員と客って関係なのは少し残念ではあるけど、念願叶ったりだ。それに、いつもとは違った一面をみれたのは幸運だった。どうやら、小暮さんでも驚くことはあるらしい。……って僕は小暮さんをなんだと思ってたんだ?

「おい、安達。あの子と知り合いなのか」

「はい。同じ部活です」

「……嘘だな。あんな子が安達と知り合いなわけがない」

 この人は僕をなんだと思ってるんだ。

「しかし、あんな女の子が一人でファミレス……それに、どう見てもあの馬鹿デカいパフェが入る胃袋をしてるとは到底見えない。妙だ……妙だぞ…」

「偏見が過ぎますよ。今どきの女子高生なら一人ファミレスなんて普通なんじゃないですか?……まあ、食べきれるかどうか不安ですけど」

 小暮さんは同年代の女子の中でも小柄も小柄だ。身長は聞いたことないけど、百六十一センチしかない僕がつむじをみられるくらいだから、百五十もないんじゃなかろうか。

「安達!もしかして、もしかして彼女じゃないだろうな!?わざと残させてあとで美味しくいただこうって根端か!てめえ、抜け駆けしやがったな!?」

「さっき、知り合いなわけないとか散々言っといて、どういう思考したらそうなるんですか!話も飛躍しすぎです!」

 情緒が不安定すぎるよ馬場さん……。スイッチ入ると結構めんどくさいんだよなこの人。やんちゃしてた昔の血を沸き立たせるのは僕の関しないところでやって欲しい。というか、抜け駆けって何さ。

「……冷静に考えたら、安達に彼女出来るとこ想像できねえわ。ドンマイ安達。すまんな」

 さんざん馬鹿にした挙句、自己完結しちゃったよこの人。しかも、知らない内に追い打ちかけられてるし……そんなんだから、男の一人もできないんだ、って言うのは喉奥に留めておこう。僕の顔の形が変わってしまうかもしれない。

「んで?どういう関係だ?」

「別に話が盛り上がるような関係じゃないですよ。クラスも違いますし、一日数回会話する程度です」

「なんだー?あんなかわいい子放置とか舐めてんの?可哀そうだと思わないのか」

 う、ウザがらみきたあ……。馬場さんは、高校生なら誰も彼もが色恋に現を抜かせる訳じゃないことをしらない人種だ。いや、うつつを抜かしすぎて赤点を大量生産していたのか……。

「馬場さん……僕の知る人いわく、誰も彼もが、学校生活で青春を興じたいとは限らない……らしいですよ」

「なんだそりゃ。そんなモテないからって斜に構えてそうなやつの言葉、間に受けるなよ」

 その言葉は、あなたが今可哀そうだと言った人の言葉ですよー。

「あー、まあ、そうですね。あ、パフェ出来たみたいなんで、僕いってきまーす」

 僕は注文の品を小暮さんに提供するべく、逃げるようにその場を離れた。

 小暮さんは待っている間、ずっとメニュー表を食い入るように見続けていた。もしかして、まだ頼む気か?

「お待たせしました。こちらパフェになります」

「わー思ったよりおっきい。って、商品名を略すのはどうかと思うな」

「期間限定生クリームたっぷりピーチパフェでございます」

「よろしい。学校では生徒同士だけど、ここでは主人と奴隷なんだから。そこのところはちゃんとして」

「考え方が過激すぎるよ、小暮さん」

 冗談だよと僕を手であしらう小暮さんの目は、すでにパフェに向かっていた。今度は目を見て話したかったのに残念だ。

 小暮さんは手を合わせていただきますというと、生クリームをスプーンですくい口に入れた。恍惚な表情を浮かべる彼女は、さながら小動物の様だ。もう少し見ていたい気もあるけど、食事姿をまじまじと見るのは良い行為ではない。ここは一旦引こう。

「伝票ここにいれとくから」

「んー」

 言葉にならない返事を聞き、僕は定位置へと足を向けた。なるほど、これが若さの暴力か……確かに三十路近い人間には火力が高い。馬場さんのいう事はあながち間違っていないのかもしれないな。もう少し、あの人の言葉を信用してみるのもいいかもしれない。

 小暮さんの表情を反芻しながら戻ると、馬場さんが何とも言えない表情でこっちを見ていた。

「どういう感情ですか、その顔」

「いや、どうって……安達、主人と奴隷ってなんだ……」

 ああ、この人もうだめだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ