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運命の番より真実の愛が欲しい

作者: サトウミ

「ゾーイ・サンチェスター様、お迎えにあがりました」


村の外れにある我が家に、龍王様の使いが私を迎えにやってきた。

この世界を統べる龍人族の王が、ど田舎に住む私になぜ使いをよこしたのか?

それは私が、龍王様のご子息──シャウロン王子の運命の番だからである。


龍人族にとって運命の番は、一目見ただけでそれだと分かるくらい特別で、一生の愛を誓う大切な存在なのだとか。


一生の愛、と聞くと真っ先に思い浮かぶのが、私の父と母だ。

辺境の冒険者だった父と侯爵家の娘だった母は、深く愛し合い、駆け落ちして、私が生まれた。

両親は今でも、暑苦しいくらいに毎日愛し合っている。


私もいつか二人のように、いつまでも愛し合える素敵な人に出会いたい。

そう考えていたから、王子殿下の運命の番だと聞かされた時は、歓喜のあまり一日中テンションがおかしかった。


ヒト族の私には運命の番を感知する能力はないが、王子殿下が断言するのであれば間違いない。


シャウロン・フーリン第三王子。

高級シルクのような艶やかな銀髪に、サファイアよりも美しい碧眼の、麗しい王子様。

そんなお方が、私の、運命の相手だなんて。

私もあのお方と、父と母のように愛し合うようになるんだ。


──あぁ。早くお会いしたい。


◆◆◆


龍王様に招かれてから、3か月が過ぎた。

にも関わらず、私は未だにシャウロン様とお話しできていない。


王族の運命の番は皆、王族に嫁いで王宮で暮らすようになる。

そのため、あの日から王宮で暮らしているのだけれど、待てど暮らせど一向に会いに来てくださらない。

かといって私から会いに行こうとしても、公務で忙しいからと会うのを断られてしまう。


「あぁ、暇だなぁ〜……」


どこへ行くにも侍女がついてくるため、気軽に出歩けない。

そのため私は、王宮でずっとロマンス小説ばかり読んで過ごしていた。


……私って、本当にシャウロン王子の運命の番なのかしら?

王子殿下と会えないからか、そんな一抹の不安を感じるようになっていた。


だけど、そんな日々もきっと今日で終わりだ。

今日はシャウロン王子の運命の番──つまり私のお披露目パーティがある。

本来は結婚式という形で運命の番をお披露目するそうだが、私がまだ結婚できる年齢ではないため、各国の王族貴族に私の存在を周知させるために開催されるのだそうだ。


流石にお披露目パーティなら、シャウロン王子とお話できるだろう。

私は侍女に衣装や髪などをセットしてもらうと、パーティ会場へと案内された。


会場はパーティが始まる前にも関わらず、新聞でしか見たことのない海外の王様の姿や、噂でしか聞いたことのない魅惑の貴族夫人など、世界各国の重鎮達が揃っていた。


その中で一人、一際異彩を放っている人がいる。

シャウロン・フーリン第三王子、その人だ。


シャウロン王子は隣国の王子や貴族令息達と楽しそうに談笑している。

遠くにいるので会話の内容は聞こえないが、無邪気な笑顔で口を動かす姿を見て、フレンドリーな性格の人なのだろうと感じた。


シャウロン王子をずっと眺めていると、彼がこちらに視線を向けた。

麗しい彼と目が合い、胸が高鳴る。

私は少し緊張しながら彼に微笑みかけたが、彼はすぐに私から視線を逸らした。

……もしかして、わざと無視された?

いやいや、気のせいだろう。

何せ私は、運命の番なのだから。


その後、来客が揃うのを待っていると、小一時間後にいよいよパーティが始まった。


今日の主役は私とシャウロン王子だ。

私達は隣り合って、王侯貴族達に挨拶して回る。


「初めまして。よろしくお願いします」


隣にいたシャウロン王子に、挨拶する。

だけど彼はボソリと何かを呟くと、すぐに私から顔を背けた。

その姿は氷のように冷たく、先程まで楽しそうに談笑していた姿と遠くかけ離れている。


それでも私は歩み寄ろうと、ゆっくり彼の手を掴もうとした。


なのに──その手を、彼は払い除けた。


その瞬間、私の中にあったときめきが、一気に冷めた。

龍人族の言う『運命の番』とは、必ずしも『愛し合う相手』というわけではないんだ。

シャウロン王子にとって私は、たまたま運命の番だっただけの田舎娘でしかない。

運命の番だから一応結婚するけど、私のことをこれっぽっちも思ってくれていないのだろう。


あれほど運命の番に憧れていた、さっきまでの自分が馬鹿馬鹿しい。

燃えるような恋をしないまま、この人と愛のない夫婦として一生を終えるのか。

そう考えると、憂鬱で仕方がなかった。


◆◆◆


その夜。

私はベッドで横になりながら、遠い昔の記憶を思い出していた。


『じゃじゃーん! 今日はパパが狩ったアルミラージのシチューよ』

『やったー! 私、このシチュー大好き! パパ、ありがとう』

『ははは。どういたしまして』

『私、大きくなったらパパと結婚する!』

『ダメよ! パパはママのものなんだからっ!』

『えぇ〜! ずるいよママ。私もパパと結婚したい!』

『気持ちは凄く嬉しいけどな、パパの1番はママだけなんだ。ごめんな』

『その代わり、ゾーイはゾーイだけの特別な人を探せばいいわ』

『私だけの、特別な人? それって、パパみたいな人なの?』

『どうだろうなぁ? もしかしたらパパみたいに、かっこよくて男らしい奴じゃないかもしれないな』

『えー!』

『だけど、きっと誰よりもゾーイのことを大切に思っているさ』

『本当?』

『あぁ。ゾーイなら、絶対そういう相手を見つけられる。パパにとってのママみたいな相手に会えるさ』



……結局、会えなかったな。

私にとっての、運命の人。

いや、運命の人ではあるのか。

龍人族にとって、運命の番がソレなのだろう。


だけど、私は。

運命の番なんかより、真実の愛が欲しかった。

父と母のように、愛し愛される相手と結婚したかった。


気づけば目から溢れた涙が目尻をつたって耳へと流れていた。


龍王様には悪いけど、この結婚は無理だ。

冒険者だった父に教わった体術を駆使すれば、侍女を撒いて逃げられるんじゃないか?

そう考えた私は、侍女の隙をついて窓から飛び出し、王宮から脱走した。


王宮から抜け出した私は、人目につかないよう、森の中を移動する。

これから、どうやって生きていこう?

この世界で龍王様の支配下にない場所は、とても限られている。

とりあえず森の中を移動しながら国境を越えれば、少しは時間稼ぎになるだろうか?

森の中は子供の頃から駆け回っていたし、国境を越えるのなんて余裕だろう。


──と、考えていたのは昨夜までだった。


日が明けてお昼になったが、早くも心が折れそうになっている。

食べられる植物や魔物を刈りながら休み休みに進んでいるが、この森は強い魔物ばかりが出てくるから常に警戒しないといけない。

さっきは気づかれなかったものの、エレメンタルドラゴンを見つけた。

もし見つかっていたら、魔物を刈り慣れている私でも瞬殺されていただろう。


「なんでこんなに強い魔物ばかり出てくるのよ!」


愚痴を呟きながらも、私は周囲を警戒しながら森の中を進んだ。


すると、遠くの方から人の話し声が聞こえてきた。

声がした方向を見ると、そこにいたのは王宮にいた騎士達だった。


「あっ、番様だ!」


まずい。

騎士達の一人と目が合ってしまった。

急いで逃げないと!


「……ぅわぁ!!」


慌てて逃げたせいで前方を確認していなかった。

体勢を崩した私は尻餅をついて倒れ、急な斜面だったためそのまま下まで転げ落ちた。


「…痛っ……」


勢いよく転がったせいで、足を挫いて立つことができない。

どうしよう。

回復魔法は得意じゃないから、治すこともできないし……。


などと考えていると、大きな魔物の息遣いを近くに感じた。

この気配、嫌な予感がする。

恐る恐る顔を見上げると、そこには氷のような牙と炎のような翼を持ち、尻尾に電気を纏った大きなドラゴンが私を睨みつけていた。

エレメンタルドラゴンだ。


「あ……ぁ……!」


目が合った瞬間、心臓が止まりそうになった。

少しでも動いたら、殺される。

その恐怖で、私はその場から一歩も動くことができなかった。

互いに睨み合ったまま、動かない。

1秒が長く感じる。


次の瞬間、エレメンタルドラゴンは大きな口を明けて私に噛みつこうとした。


──喰われるっ!


死を覚悟したその時、エレメンタルドラゴンの頭上に、光る大きな柱が落ちてきた。

否、あれは柱じゃない。

最上級魔法である破滅閃光だ。

柱と勘違いしたソレは神々しく淡い光を放っていて、魅入ってしまいそうなくらい美しい。


破滅閃光を喰らったエレメンタルドラゴンは、跡形もなく塵と化した。


一体、何が起きたの?

目の前の出来事に戸惑っていると、破滅閃光が消え、空から何かがゆっくり降りてきた。


あれは……人?

よく見たらそれは、見覚えのある人物だった。

艶やかな銀髪と美しい碧眼の、容姿端麗な男性。


シャウロン王子だ。


天から降りてくる姿があまりにも神秘的で、『助けてくれたのか?』とか『見つかったから逃げよう』といった考えを巡らせることができず、ただただ呆然とその姿を眺めていた。


シャウロン王子は私の目の前に降りてくるや否や、ぐしゃぐしゃに歪んだ顔で私を強く抱きしめた。


「良かった! 本当に、無事で良かった!」


声も、私を抱きしめる腕も震えている。

シャウロン様の胸元に耳が当たっているせいで、彼の鼓動が伝わってくる。

私のことを愛していないと分かっていても、強く抱きしめられると勘違いしてしまいそうだ。


「すみません、離してくださいませんか?」

「え? ……あっ?!」


するとシャウロン王子は慌てて私を離すと、のぼせているかのように顔を真っ赤にしながら狼狽え始めた。


「ぅわぁっ! ご、ご、ごめんなさい! やましい気持ちでやったわけじゃないんだ! いや、全くないわけじゃないけど君に危害を加えるつもりはなくて、さっきのはつい、カッとなってやってしまったというか……あ、でも普段はちゃんと自制心を持って行動できているから誤解しないで!」

「はい。十分承知しております」


お披露目パーティの時の印象と180度違う今の彼に、若干の戸惑いを感じる。


「それと、君に聞きたいことが……」

「はい、何でしょうか」


何を聞きたい……もとい問い詰めたいかは分かっている。

私が逃げ出した理由だろう。

運命の番とはいえ王宮から勝手に抜け出したのだから、それなりの処罰が下されぞうだ。

だけど、エレメンタルドラゴンを瞬殺できるほどのお力を持つシャウロン王子から逃げ切れるとも思えないし、ここは素直に従うしかない。


「それは……」

「それは?」


シャウロン王子は私の目をじっと見つめてくる。

口を鯉のようにパクパクと動かすだけで言葉が出ない。


「あの……その……」

「シャウロン殿下、ご用件は何ですか?」


痺れを切らして催促するようにもう一度尋ねると、シャウロン王子は背筋がピンと伸びた。


「あの、ジョーイは森が好きなの?」

「えっ?」


想像していた内容と大きくかけ離れていたため、肩透かしを喰らった気分になる。

するとシャウロン王子は唐突に頭を抱えて顔を逸らした。


「うわっ、噛んだ! 最悪っ! というか質問も失敗した!」


呟く声が鮮明に聞こえてくる。

心の声がダダ漏れですよ、シャウロン王子。


「ごめん! さっきの質問は忘れてください! 名前も噛んだだけでちゃんと覚えているから!」

「はい、分かりました。ところで殿下、少し挙動不審のように感じられるのですが、どうされたのでしょうか?」

「えっ?! 挙動不審?」


その一言でシャウロン王子は、一気に凍りついた。


「それに顔も凄く赤いですが、どこか体調でも悪いのでしょうか?」

「か、か、か、顔が?!」


するとシャウロン王子はしゃがんで、その場で丸まった。


「うわぁ……恥ずかしい……死にたい……」


相当重症だ。

私はしゃがんで、シャウロン王子が顔を上げるのを待つ。

それから数十秒後にようやく顔を上げたと思ったら、顔を合わせた瞬間にシャウロン王子は変な声をあげて尻餅をついた。

相変わらず、顔が赤い。


「もしかして、私に照れて緊張しているのでしょうか?」


自分で言っておいて何だが、流石にそれはないだろう。

視線をわざと逸らされたり、手を払いのけられたりしたのに、私相手に照れるわけがない。


だけど……あれ?

シャウロン王子はいつのまにか、耳の先まで真っ赤にしていた。

それに否定もしない。


「い、い、いつもは、こうじゃないんだ。ちゃんと、喋れるんだ。変にテンパっちゃうのは今だけで、いつもは普通に喋れるから! そのうち普通に喋れるようになるから! だから幻滅しないで! というか、お願いだから今の僕は忘れて」


声を震わせて必死にお願いする姿は、お披露目パーティの時の彼からは想像できない姿だ。


「つかぬことを伺いますが、お披露目パーティの際、私と目を逸らしたり、手を払いのけたりされた理由は何故でしょうか?」


「ご、ごめん! 緊張して、つい。今後はちゃんと、目を合わせたり、手を握れるようになるから! お願いだから、嫌いにならないでください」


そういうことだったの?

じゃあ今まで会いに来なかったのは、緊張して会いに行けなかったから、ってこと?


「……フフフ」


なんだ。

最初から、私の勘違いだったんだ。

シャウロン王子は私を愛してない?

いいえ。

むしろ、その逆。

好きで、好きで、目の前にいると緊張してしまうくらい愛していたんだ。


「安心してください、殿下。嫌いになんか、なりませんよ」

「本当?」

「はい。むしろ、大好きになっちゃいました」

「えっ!」


──ねぇ、お父さん。

私の大好きな人はお父さんの言う通り、カッコよくも、男らしい人でもなかった。

だけどお父さんの言う通り、誰よりも私のことを思ってくれる人だったよ。


「シャウロン殿下。殿下は、私のことが好きですか?」

「え? あ、えと」


殿下はうまく声を出せない代わりに、小さく頭を縦に動かす。


「ちゃんと言葉で教えてください」

「っ?!」


テンパった殿下は微かに揺れながら、大きく深呼吸をして心を落ち着かせた。


「す、きです!」


ぎこちない返答だけど、その気持ちが何よりも嬉しい。


「良かった。 これからも、よろしくお願いしますね。シャウロン殿下」


──私の、運命の番様!

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