9 秘密のお茶会①
自宅に帰ると、孤児院慰問イベントで交流のあった、二組のサブリーダーだったジゼル様から手紙が届いていた。
『メーベル・ディジョン様
突然のお便りをお許しくださいませ。
件のイベントの準備では、連絡事項を伝えるのみで、メーベル様とは私的な会話がほとんどできず残念に思っておりました。それでも、メーベル様と面識を得られたことは私にとっては何よりの収穫で、大変嬉しく思っております。
そこで、せっかくのご縁ですので、厚かましいとは存じますが、メーベル様と親睦を深めたく、我が家にお招きしたいと考えております。
メーベル様のご都合に合わせますので、前向きにご検討いただけますと嬉しく存じます。
ジゼル・メラノ』
私的なお茶会への招待状だ。
学校では話せないことも気軽に話すことができる。
私もレリル様のことで聞きたいことがあったので、これは渡りに船というもの。
その日のうちに、「喜んでお伺いします」と返事を書いた。
◇◇◇ ◇◇◇
メラノ子爵家への訪問は、「単に友人を訪ねて行くだけ」と言って両親の許可を得た。
両親は、一緒に勉強をしたりおしゃべりをしたりすると思ったようだ。
そのため侍女を伴わない一人での訪問だ。先方にも事前にそう伝えてある。
「ようこそいらっしゃいました。メーベル様」
ジゼル様が、わざわざ玄関の前で待っていてくれた。
使用人の姿はない。ひとりで来た私に気を遣ってくれたんだと思う。何だか、彼女とは仲良くなれそうな気がする。
「お招きいただきありがとうございます。ジゼル様」
「堅苦しいのは苦手なので、メーベル様の方から二人きりでお話ししたいとおっしゃってくださり助かりました。さあ、どうぞお入りになって」
ジゼル様が応接室まで案内してくれた。
部屋に入るまで誰ともすれ違わなかった。その徹底ぶりに彼女が二組の代表に選ばれた理由が分かった気がした。
◇◇◇ ◇◇◇
「ジゼル様。いきなり本題に入ってもよろしいですか?」
本来ならばいいはずがない。
気心の知れたシャーリーならいざ知らず、面識があるだけでほとんど話したことのない相手なのだから。
でもジゼル様のここまでの対応をみて、この人はこちらが率直に話したいと言えば、快く受けてくれるのではないかと思ったのだ。
「もちろんです。私もそのつもりでした」
やっぱり!
「……あの日。孤児院への慰問の日、出発前にメーベル様がレリル様に絡まれた際、助力できず申し訳ございません。二組のサブリーダーとして、メーベル様には謝罪したいとずっと思っておりました」
「……あ」
「いつもの体調不良でレリル様は不参加と聞いておりましたので、まさかあんな風にわざわざ駆けつけて、ご丁寧に自作した物だと自慢しながらお菓子を配るとは夢にも思いませんでした」
ははは。ジゼル様はなかなか辛辣だ。でも嬉しい。
「教室で余った大量のミルクの配送先を話し合っていた私たちのところにも、騒ぎについては一報が入ったのですが、せいぜいいつもの男子生徒へのアピールだろうと放っておいたのです。まさかメーベル様が悪く言われているとは――。メーベル様は、ただ事実を突きつけて注意されただけですのに」
「あの時は、私も少し感情的になってしまいました。貴族令嬢としては失格ですわ。相手に言葉尻を取られてしまい窮地に陥ったのです。いい勉強になりました」
「いいえ。冷静に判断できる生徒ならば、あの場での出来事を客観的に判断して、メーベル様を支持するはずです。ただ、あの時もそうなのですが、レリル様の周囲には彼女に心酔している男子が常に周りを取り囲んでいるのです。まるで高位貴族が引き連れている取り巻きのようですわ。入学した頃が嘘のように、今では二組にいる男子はほとんどが彼女を盲信してします。信じられないことに、女子の中にもレリル様に憧れのようなものを抱いている方がいらっしゃいますわ。とても珍しいピンクブロンドの髪と、あのいじらしい言動に女子同士なのに庇護欲を掻き立てられるそうですわ。平民の生徒は割とまともなのですが、彼らは声をあげることすらままなりませんし」
なるほど。
想像以上に二組は大変なことになっていたようだ。
「そうだったのですね……。それで……その――。レリル様が一組に編入されて、私の隣の席になったのですが、私はまだ上手く対応できずにおりまして。二組がそうなった経緯と言いますか、レリル様を取り巻く状況が変化していった理由をお伺いしても? 私たちは、二組の一部の生徒とレリル様との間に軋轢が生じたとしか聞かされていないのです」
「ええ、もちろんです。実は、この先一組でも、私たちが経験したことと同じことが起こるのではないかと危惧しております。特にレリル様と因縁のあるメーベル様は、知っておかれた方がよろしいかと思います」
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