34 エリック先生の沙汰
「さて。私もこの後、生徒会の聴取に同席する予定だが、メーベル嬢」
……え?
伯爵令息たちに続いてレリル様まで教室から出された一連の出来事に理解が追いついていないのに、フレデリック殿下に名前を呼ばれて硬直してしまった。
じいっと不遜な眼差しで殿下を見据えたまま声が出ない。
シャーリーが肘でトンとつついてくれたお陰で、我に返ることができた。
「は、はい。殿下」
殿下に、「フッ」と笑われた気がする。
「あの日、君の家に祝い事があって、かつ、余るほどたくさんケーキを焼いてくれたお陰で、レリル嬢の真の学力が露見した。皆もこれ以上邪推することがなくなり清々したことだろう」
まあ、「祝い事が――」なんて、とってつけたような理由はバレバレだよね。
でも褒められた!
「君とシャーリー嬢の散策の件は報告を受けているよ。一組の中で、レリル嬢に関する情報を一番持っているのは君だろう。悪いが、生徒会の聴取に立ち会ってもらえないだろうか」
「はい」
王族からの命令だ。否やはない。
……それに。
正直、聴取内容も気になるので願ってもないことだ。
◇◇◇ ◇◇◇
生徒会室は、三年生の教室がある棟の一番奥にあった。
元々は貴族しか通っていなかった学園だけあって、上位貴族が使用するに相応しく、扉には豪華な装飾が施されている。
部屋の前で背の高い男子生徒が殿下を待っていた。
生徒会の役員かな?
「フレデリック殿下。この度はお手を煩わせてしまい恐縮です」
「いや、なに。貴族としての資質を疑うような行為を目の当たりにしたので、つい、でしゃばってしまったまでのこと」
「さようでございますか。かの者らはすでに中で控えております」
殿下がうなずくと、彼が扉を開けた。
私は置いていかれないように殿下に続いて部屋に入った。
私たちが入室すると、殿下を迎えるために、部屋の中にいた全員が立ち上がった。
ぼんやりしていたレリル様は、ヨハン様に引っ張られて一人遅れて立ち上がった。
なんと、エリック先生までがいる!
殿下は長テーブルの端の主賓席に着席された。
おそらく生徒会長がいつも座る席なのだろう。
案内してくれた方は、さりげなく殿下の側に控えた。
「悪いね、ティム」
「いいえ」
席を奪ってしまったお詫びかな?
あれ? ということは、この方が生徒会長?
入学式の時に挨拶を聞いたはずだけど、顔はうろ覚えだ。
――と、そんなことを考えていたのがうっかり顔に出してしまったらしい。
「メーベル嬢。こちらは生徒会長のティモシー・リューン。一年生は、あまり生徒会と接点がないので、役員たちを知らないのは無理もない」
うっ。
絶対に皮肉じゃないのに顔が引き攣ってしまう。
記憶力のよい方は覚えていると思います……。
他の生徒会の役員たちが立ったままなので、私も殿下と距離を取って壁際に寄った。
殿下がゆっくりと全員を見回して口を開いた。
「諸君。急な召集で申し訳ない。学園では身分にものを言わせた権力行使は禁じられているが、看過できない状況となったため、私の名前でこの場を設けさせてもらった」
「いいえ。本来であれば私ども生徒会が率先して動くべきところ、後手に回ったせいで殿下にご面倒をおかけしてしまい申し訳なく思います」
エリック先生ではなく、生徒会長が答えている。
生徒会室に招集された先生は、もしかして聴取される側なのかな?
生徒会長がレリル様とエリック先生を交互に見てから宣言した。
「殿下。生徒会役員諸君。生徒会の権限により、一年一組の担任である教師の、職権を濫用し学園の秩序を乱した疑いの聴取を開始する」
分かりやすく先生が動揺した。
「なっ! なんだと。だいたい、学園長はこのことをご存じなのか? 生徒会から学園側に正式に通達された上での聴取か?」
「もちろんです。ああ、もしかしたら先生はご存じないかもしれませんね。現状、学園長は不在となっているので、殿下を通じて国王陛下からの了承を得ています」
「こっ、国王陛下?!」
先生は言葉を失って顔面蒼白だ。
殿下だけでなく生徒会の役員たちも特に驚いた様子はない。
陛下の了承を得ていることを知っていたから?
それよりも、学園長が不在ってどういうことだろう?
「つい今しがた王宮より陛下の使者がいらっしゃり、学園長の罷免を告げられました」
「ひっ、罷免?!」
先生はさっきから単語だけを叫んでいる。
「エリック先生。単刀直入に伺います。レリル・コーエン男爵令嬢に相当な便宜を図っていらっしゃいましたが、それはなぜですか?」
「べっ、便宜だなど。人聞きの悪い言い方はよしてくれ」
生徒会長は先生相手にも全く動じていない。
冷ややかな眼差しで先生を一瞥しただけで続けた。
「そういえば、かねてから問題視されていた『今年のプリンセス』という称号ですが。このような称号が、贈られた者に、自分の身分や立場が実際のものよりも価値があると勘違いさせてしまうのだと我々は考え、生徒たちにもヒアリングを実施しました。生徒のほとんどが我々と同じ考えであり、学園側の要らぬ配慮から生まれた悪しき慣行だと結論付けました」
「なっ……」
「先生、誤解しないでください。この件については聴取ではなく報告です。先生のお耳には入っていないでしょうから申し上げたまでのこと。つい先ほど、正式に廃止が決定したと聞いております。生徒を代表して生徒会が学園に廃止の申し入れを行い、学園長不在にて、国王陛下が「是」と判断されたとのことでした」
「い、いったい、いつの間に……! 使者はいつ来たのだ! 何がどうなっているんだ!? どうして私だけが――」
「先生。生徒会には、生徒を代表して学園側に改善を要求する権利や、それに付随する学園関係者への聴取、学園側と対等に交渉する権利などが与えられております。この場は、改善要求にあたっての事実確認を行うために設けられたものです。どうか正直にお話しいただきたい。そちらのレリル・コーエン男爵令嬢も」
生徒会長に名前を呼ばれたレリル様は、何を勘違いしたのか、「え? 私?」とパチパチと瞬きをして、少しだけ嬉しそうに彼を見た。
彼女は状況を理解しているのかな?
「メーベル・ディジョン子爵令嬢にもいくつか質問するので、我々はもとより、次の学園長か、あるいは国王陛下が、公平で公正な判断を下せるよう正直に答えてもらいたい。同級生と担任の先生に関することなので、言いたくないこともあるだろうが、くれぐれも君自身の判断で回答を控えるようなことはしないでもらいたい」
私の考えで、勝手に目こぼしをするなということね。
うーん。確かに本人たちを前にすると、なかなか言いづらいけど……。
「はい。聞かれたことには正直に答えます」
「では、早速――」
「待て! メーベル君の証言は信用できない。彼女はレリル君を恨んでいるのだからな!」
え?
信じられない。
エリック先生は、私のことをずっとそんな風に見ていたの?
生徒会長が、面倒くさそうに小さくため息をついた。
「先生。失礼ですが――」
「春に実施した孤児院の慰問の件で、一組のリーダーだったメーベル君には、体調を崩して休んでいたレリル君の仕事の一部を代行してもらったのだが、彼女は随分と不満だったようだ。そうだな?」
あの時、レリル様の代わりに謝罪に行くことを素直に承知しなかったからといって、わざわざ蒸し返してまで私が恨んでいたことにしたいの?
納得いかなかったことは本当だけど、恨んでいるだなんて……。
しかも彼女を恨んでいるから嘘偽りを言うかもしれないだなんて、ひどい!
「え? そうだったの? メーベル様はあの時のことをまだ根に持っていたの?」
あぁもう!
レリル様の勘違い発言のせいで、ややこしくなる!
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