33 断罪②
「ふむ。どうやらないみたいだね。そうそう。本物の聖女は他にも色々と証言してくれたらしいよ。『どうして名前を言わないのか』と聞いたところ、名前を聞かれても答えなかったのは、『支援者にそう指示されたから』だそうだよ? 支援者と呼ぶのもどうかと思うけれど、コーエン男爵家の令嬢にね」
沈黙の中、「え?」と間抜けな声を上げたのは、殿下が話し始めてからずっとブルブルと震えていた伯爵令息だ。
「おや? その顔は知らなかったと見える。レリル嬢の側近のような働きをしていた君たちは、四六時中側にいて何も気づかなかったようだね」
「で、殿下。そ、側近などと――お、お戯れを」
「そ、そうです。ぼ、僕たちは、ただ、その、指導を、そう、指導をしていたのです!」
「ほ、本当です。れ、レリル嬢は、い、色々と拙くて、その――」
殿下はすうっと目を細めて、うっすら微笑を浮かべている。
「へえ。そうだったのか。指導をね。それにしては半年以上経つというのに、彼女は入学時とほとんど変わっていないように見えるけどね。それに、この僕の目が節穴だと言われたように聞こえたが、一組の生徒は全員、君たちが何一つ指導をしていないことは知っているよ? もっと言えば、何かにつけて彼女を庇い、正しい行いをさせずに済ませていたよね? 彼女が不遜な考えを抱き、下劣な行動に走ったのは、君たちが言う指導のせいかもしれないね」
伯爵令息たちは三人とも真っ青だ。
「で、殿下」
「殿下!」
「おそれながら!」
「おっと。話が逸れてしまった。君たちがいると話が進まないので教室を出て行ってもらえるかな?」
王族からの「退場せよ」は、もう二度と自分の前に顔を見せるなという意味であることは、貴族なら誰しもが知っている。
つまり、伯爵令息三人は、最低でも一組からは追い出されるということだ。
さすがに放校まではないだろうけれど、伯爵家にしてみれば青天の霹靂だろう。
伯爵令息たちは、これ以上の不敬を働かないよう互いに目配せをして、揃って教室を出て行った。
殿下は改めてレリル様の方に向き直った。
「さて。話の続きだけど。君がフード付きのマントや焼き菓子をある女性に渡して、貧民街で施しを行うよう依頼したことは知っている。フードを被ってショールで口元を覆えば、瞳しか見えない。その聖女は君と同じ緑色の瞳をしているらしいね」
「……」
「学園内で、君が本物の聖女かどうかに焦点を当てる者がいなかったのは幸運だったね。まあ、正面切って問われれば否定するだけでいい話だけどね。それでも謙遜だと受け取られ、聖女だろうと推察され、聖女の行いが君の評価となる。楽をして美味しいところだけ手にするとはね」
殿下は全てをご存じなのだ。
さすがのレリル様も何も言えないらしい。
「孤児院で、たまたま自分と同じ瞳の色を持つ女性を見つけただけで、よくもまあ、こんな手の込んだ茶番をやる気になったものだ。社交の経験もない君の手腕は大したものだ。何を狙ってそんなことをしたのか気になるところだけどね」
「……」
「貧民街の住人といえども立派な国民だ。その者たちを味方につけて何がしたかったのかな? それについては、私だけでなく王宮の方でも関心があるようだよ?」
「そ、そんな……」
王宮での取り調べを想像したのか、レリル様が顔色を失っていく。
「ち、違います! 王子様とどうこうなるためにやったんじゃないわ! わ、私はただ、一組の生徒に相応しくあろうと――そ、それだけなんです!」
あまりに無作法な言葉遣いだけど、そんなことを問題にする前に、ヨハン様がピシャリと告げた。
「レリル嬢。悪いが生徒会室に来てもらう。学園側と話す前に君に問うことがある」
「そんな……どうして……」
「立つのだ」
ヨハン様がレリル様の腕を取って立たせた。
「うぅ。うぅぅ」
静まり返った教室で、彼女の嗚咽だけが聞こえていた。
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