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【加筆修正版】私が間違っているのですか? 〜ピンクブロンドのあざと女子に真っ当なことを言っただけ〜  作者: もーりんもも


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31 尾行

「ごめんね、シャーリー。おもてなしいただいた上に屋敷まで送ってもらうことになっちゃって」

「何言ってんのよ。それよりも出発する前に分かってよかったわね」


 久しぶりにシャーリーの家でお茶を楽しんで帰ろうとした時、我が家の馬車が故障してしまったのだ。

 ほんと、道端で止まっていたら大変なことになっていた。


「でもいつもの馬車はお母様とお父様が使っていたから、こんな家紋なしの馬車になっちゃって……お忍びでもないのにね」

「お忍びか。そう思ったら、ちょっとワクワクしない?」

「もう、メーベル! 寄り道する訳じゃないんだから、乗り心地のいい方がいいに決まっているじゃないの」


 そんな他愛のない話をしていた時だった。

 見知った家紋の馬車とすれ違った。

 目ざといシャーリーが見逃すはずもなく。


「……! メーベル! 今すれ違ったの――レリル様の――コーエン男爵家の馬車じゃない? ねえ、あのピンクブロンドが見えたでしょ?」


 確かにレリル様らしき人が乗っていたように思う。

 シャーリーは目を見開いてそう言うと、私が返事をする前に壁を叩いて御者に指示を出した。


「さっきすれ違ったコーエン男爵家の馬車を追いかけて!」

「承知しました」


「え? シャーリー、いいの?」

「大丈夫よ。彼女がどこに行くか気になるじゃない」 


 実のところ、私も物凄く気になる。

 彼女はどこへ向かっているんだろう?



   ◇◇◇   ◇◇◇



 コーエン男爵家の馬車は孤児院の前に停まった。


「え? 嘘……」


 シャーリーが気まずそうな顔でつぶやいた。


「もしかして、レリル様って定期的に援助をしていたのかな?」

「シャーリー。何もあなたがそこまで落ち込む必要はないじゃない」


 レリル様がウィーナー辺境伯家と同じように継続して援助をしていたのなら、尊敬すべき行いだ。

 面白半分に後をつけてきたことが悔やまれる。


「メーベル、見て。お菓子を渡しているみたい」


 レリル様は馬車からは降りずに話をしている様子。

 どうやら孤児院には入るつもりはないようだ。

 馬車の窓越しに、孤児院の女性がお菓子を受け取っている。

 アーチボルト様と一緒に来た時に見かけた世話役の女性の一人だ。

 彼女の綺麗な緑色の瞳をよく覚えている。

 女性は何度も頭を下げて、レリル様の乗った馬車が見えなくなるまで見送っていた。



「あーあ、つけて来るんじゃなかった。ごめんね、メーベル」

「ん? 別に。私も驚いたけど――あら? ねえ、誰か出てきたわよ?」


 孤児院から、フードを深く被ったマント姿の女性が出てきたのだが、先ほどレリル様からお菓子を受け取っていた人だと思う。

 口元をショールで覆っているため、緑色の瞳がやけに目立つ。

 片方の腕に大きなバスケットをぶら下げている。


「ねえ、シャーリー。あの人――あの緑の瞳は――」

「あっ! さっきレリル様に会っていた人かも! よし! 今度こそお忍びで尾行をしよう!」

「え?」


 シャーリーが壁を叩き、「降りるわ」と御者に告げた。

 御者が素早くステップを準備すると、シャーリーは飛び降りるように馬車を降りて手招きした。


「何してんの、メーベル! ほら、早く! 行くわよ!」

「え? えぇぇ!」


 彼女の勢いに押されて私も慌てて降りてしまった。


 シャーリー二人並んで、フードを被った女性の後をついて行く。 

 どうしてこんなことに?




 

「ねえ、メーベル。あのカゴの中身って何だと思う?」

「それは、やっぱりお菓子なんじゃないかなぁ。さっき受け取っていたでしょう?」

「私もそう思う。でも、孤児院への寄付だよね? それをあの人が勝手に売りにでも行っているのかな?」


 そうだとするとレリル様が可哀想だ。


「あら? ねえ、メーベル。何だかみんな、あの人のことを見ていない?」

「そういえば……」


 明らかに周囲の人たちの視線が、フード姿の女性に注がれている。


「孤児院で働いている有名な人なのかな?」

「どうだろ?」

「それにしてもどこへ行くつもりなんだろう。このまま真っ直ぐ行くと……」


 シャーリーの懸念は私も感じていたものだ。

 この道を真っ直ぐ進んだ先は貧民街だ。

 私もそうだけど、シャーリーも両親から、「絶対に近づかないように」と注意されているはず。


 それでも女性は脇目も振らず歩いて行く。

 さすがにこのままついて行くのはまずいかもしれない。


「聖女様」

「聖女様だ」


 周囲の人たちが立ち止まっては彼女を見て、上擦ったような声で「聖女様」と口にしている。

 つまり、彼女が噂の『緑の瞳の聖女様』ってこと?

 だとしたらレリル様は――。

 彼女に尋ねて確かめたい。そう思って声をかけようと近づくと、大柄な男性が前に立ち塞がった。


「きゃっ」

「メーベル!」


 シャーリーと抱き合って後ずさると、「これは失礼」と、その男性が優雅なお辞儀を披露した。

 平民ではない。貴族?


「お嬢様方、どうかこちらへ」


 スッと体を引いて向きを変えた身のこなしは、騎士のようにも思えた。

 この人……いったい何者?


「驚かせてしまったようですね。申し訳ございません。差し支えがあるので私の身分は明かせませんが、ある高貴な方の命により動いております。私のことは信じられなくても、この先へは足を踏み入れるなというご両親のお言葉は信じられるのではありませんか?」


 おそらく気がつかないうちに貧民街のすぐ近くまで来てしまっていたのだろう。

 ここは素直に忠告に従うべきだ。

 チラリとシャーリーの様子を窺うと、彼女もこくりとうなずいたので、素直に従うことにする。


「ご忠告ありがとうございます。お忍びの街歩きのつもりが、少々羽を伸ばし過ぎたようですわ」

「では、この者が馬車までお送りいたします」


 私たちが馬車を降りて後をつけていたことを知っているんだ……。

 私の顔色が変わったのを見て、男性は申し訳なさそうな顔をした。そして、お詫びに秘密を打ち上げるとでも言いたいのか、


「本当はお伝えするべきではないのですが」


 と、教えてくれた。


「高貴な方から、あの孤児院の世話役の女性について調査するように命じられておりまして、我々は既にあらかた調査を終えているのです。お嬢様方が疑問に思われた答えも、そう遠くない未来に公になることでしょう」

「……え?」


 それって、レリル様との繋がりも含めての調査っていうこと?

 いつかアーチボルト様が言っていた『大人が動いている』って、このことだったの?


「メーベル」

「うん」

 

 シャーリーの言いたいことは分かる。

 私が男性に言った。


「私たちは何も聞いておりません。いえ、今日は真っ直ぐ屋敷に戻ったので、何も見ておりませんわ」 

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