30 生徒たちの反応
「聞きまして? 例の校門で焼き菓子を配っていた方、とうとう殿下にまで手渡されたそうですわ!」
「まあ、なんですって! そんなことが許されるとでも?」
「『今年のプリンセス』に選ばれた男爵令嬢だそうですわ。一年生に従姉妹がいる方がおっしゃっていましたの」
「まあ! それって、あの、試験結果が『対象外』の方ではありませんの?」
「ええ、そうらしいですわ。対象外なんてあり得ないですが、その方、試験まで免除されたらしいですわ!」
「信じられません!」
「今年の一年生は風紀が乱れていると、どなたかがおっしゃっていましたけれど、学園側もどうかしているわ!」
◆◆◆ ◆◆◆
「そういえば、アーチボルト。お前、一年に幼馴染がいたよな? 今話題の一組か?」
「ああ。そう、一組。今話題のねぇ。うーん。例のプリンセスはなかなか悩ましい存在らしくてね。ストレスを抱えて悶々としいなきゃいいんだけど」
「でも父上の話じゃ、殿下が騎士や事務官を使って何やら動いているらしいぞ」
「へえ。そうか。殿下がねえ……」
◆◆◆ ◆◆◆
「メーベル。従姉妹の話じゃ、一年生だけじゃなく、二年生も三年生もあのレリル様の『対象外』はおかしいって、かなり騒ぎになっているらしいわ」
「やっぱり? 全員がはっきり見たものね!」
レリル様の試験結果が順位の『対象外』になっていたことで、学園内が騒がしいのは感じていた。
全生徒が、これまで一度としてなかった表示を見たのだから、それぞれ少なからず思うことはあっただろう。
二組の生徒たちの間では――きっとジゼル様が声を上げてくれたんだと思うけど――学園に対する信頼が急降下していて、レリル様擁護派だった人たちからもさすがに納得できないという声が上がっていると聞いた。
我が一組はレリル様本人がいるせいか、ほとんどの生徒が態度保留といった感じ。
意外だったのは、二年生や三年生からも、「学園の配慮は度を越している」とか、「そもそも一組への編入自体が誤りだ」などといった意見が出ているらしいことだ。
そんな情報を教えてくれたのは、もちろん――。
「でも、アーチボルト様。生徒間の会話でそういう意見が散見されたからといって、学園側が今後方針を転換したりするでしょうか?」
授業が終わって教室を出たところでアーチボルト様と出くわしたのだ。
シャーリーは、「バイバイ」と手を振って、あっという間に早足で去ってしまったので、私とアーチボルト様の二人だけで正門まで歩くことになった。
「このまま生徒の声が大きくなると、生徒会が動き出すかもしれないからね。学園側と生徒会との協議が行われると議事録が残るし、何より彼らの両親の口を通して社交の場で話題に上る可能性が出てくるからね。さすがに慎重な対応を取らざるを得ない」
そうなんだ。生徒の声も集まれば学園側に影響を及ぼすことができるんだ……。
「それに、普通なら男爵令嬢のことなど気にかけない高位貴族の間でも、レリル嬢が暗黙の了解を破って、フレデリック殿下に焼き菓子をプレゼントしたことが問題視されている」
「え? 暗黙の了解って……」
「ははは。それはまあ、王子妃争いをしている家同士での話だから、メーベルが知らないのも無理はないね。そもそもそこに男爵家の令嬢が割って入った格好になった訳だから、公爵家や侯爵家からしたら怒り心頭だろうね。ことによってはコーエン男爵家に様々な圧力をかける家も出てくるかもしれない」
そうか。相手は王族だもんね。家同士の争いに発展するのも分かる気がする。
きっとそうなったとしても、レリル様は、「そんなことになるとは想像もしていなかった」って悲しそうな顔をするだけなんだろうなぁ。
「メーベルは人がいいなあ」
「え?」
「レリル嬢が本当に他意もなく、貴族としての最低限の振る舞いも忘れて、ただ無邪気に殿下に焼き菓子をプレゼントしてしまったのなら、まあ、今後は絶対に近づかないと謝罪して済むかもしれないけれど」
「どういう意味ですか?」
アーチボルト様はそうじゃないと確信しているみたいな話し方……。
「市井の噂をいちいち調査したりはしないけれど、さすがに殿下に触手を伸ばしたとなると、話は変わってくるからね。殿下もご自身で――というか、その指示のもと、大人たちが色々と動いているみたいだよ」
大人たち……って、どういう人たちのことを言っているんだろ?
「ははは。気になる言い方をしちゃったけれど、まあ、そうだな。メーベルは心配しなくて大丈夫ってことさ」
「え?」
「メーベルも含めて、殿下の学友となる一組の生徒たちは、入学前に一通り調査されているんだよ? 大人たちは知っていることだけどね。レリル嬢の編入については学園側が王宮に事前承諾を得ることなく決めてしまって、ちょっと揉めたらしいけどね。その際の調査とは比べ物にならないくらいの大々的な調査が、彼女に関してなされているということさ」
他人事だけど、反逆罪の疑いでもかけられているみたいで、なんだか怖い。
「あはは。そんな顔をしないでくれよ。メーベルには関係ない話さ。レリル嬢とは付かず離れずでいいんだから。これまで通りに接していて問題ない。殿下にも積極的に関わったりしていないだろ?」
「はい」
確かに私は殿下とは距離を保っているので大丈夫だと思うけれど、やっぱり王族に対しては慎重になり過ぎるくらいでちょうどいいのかも。
まあ、アーチボルト様が、「これまで通りでいい」と言ってくれたんだから、レリル様のことは必要以上に気にかけず、今までのように当たり障りのない関係でいよう。
「はい! もう他人のことをあれこれ考えるのはやめにします」
「そうそう。後期の試験はもう特別扱いはないだろうから、メーベルも頑張れ」
「はい!」
私にとって、アーチボルト様は魔法使いのような人。
彼とお喋りするだけで不思議と心が軽くなる。
この時からとても楽な気持ちで学園生活を送れるようになった。
『ブックマーク追加』と下にある☆☆☆☆☆評価をよろしくお願いします。




