29 【フレデリック殿下視点】 姉上の置き土産②
「陛下。お忙しい中、お時間をお取りくださいまして恐縮です」
親子とはいえ、国王陛下としての裁可が必要な案件の相談をしたいので、正式に謁見を申し入れて時間をいただいた。
「ふむ。珍しいな。公式な場での謁見を望むとは穏やかではないの」
「はい。内々に済ませるには少しばかり事が大き過ぎまして」
「ほう?」
前置きは不要だろう。ここは親子という血に甘えさせてもらおう。
「王立学園の内情はどの程度お耳に入っているのでしょう?」
「ん? なんだ。学園の話か」
数年前に姉上のことで苦言を呈したことを思い出されたようで、陛下は一瞬で興味をなくされ、少し面倒臭そうな顔をなさった。
それでも辛抱強く待っていると、「……そうだの」と答えてくださった。
「お前が『プリンス』の称号を断ったとか、そんな報告が上がっておったの」
それは入学前の話だ。
つまり誰からも何も聞かされていないということだ。
まあ、そうだろうとは予想していた。
陛下の耳に入れることができる高位貴族たちが、一男爵令嬢に関する噂を取り上げるはずがない。
「そもそも、その『プリンス』だの『プリンセス』だのという称号を生徒に与えるのはどうかと思いますが」
「学園内のリーダーというくらいの意味ではないか。目くじらを立てるほどのことではなかろう」
「ですが、今ではその称号を持つ者を教師たちが、いえ、学園が公式に贔屓をしております」
「なんだと?」
「今年のプリンセスは男爵令嬢に与えられたのですが、学園側の不公平な決定に意を唱えることは陛下のご意志に反することだというような空気になっているのです」
陛下の表情が真剣なものに変わった。
「意味が分からぬ。そもそも不公平な決定とはどのようなものなのだ?」
「はい。組分け試験で一組に入れなかったその男爵令嬢を、学園の裁量で一組に編入させたばかりか、一部の試験を免除して、成績を皆の順位と比較することなく、対象外としたのです」
「は?」
「しかも、その男爵令嬢はいまだに分数すら理解していない学力なのです」
「……‼︎」
「彼女は『プリンセス』という称号をもらい、まるで自分が本物のプリンセスになるのだと勘違いしているような行動を取っています。上位貴族が彼女のことを少しでも批判すれば、『身分をかさにきていじめている』とか、『弱者に配慮せよという陛下のご意志に逆らうのか』と言われてしまうのです」
陛下が拳をきつく握られ、わなわなと震えていらっしゃる。
「何をどう解釈したらそうなるのだ! 平民に生まれたというだけで学ぶ機会を与えられなかった者たちにその機会を与え、学園においても差別することなく貴族と分け隔てなく扱うようにと、私はしかとそう申し伝えたぞ?」
「私もそのように理解しております。ですが学園長をはじめ一部の教師たちは陛下のご意志を履き違えております」
「おのれっ! どうしてくれようか」
「陛下。陛下からのお達しという形で強制的に物事が変わってしまっては、生徒たちも常に緊張を強いられ、のびのびと学園生活を送れなくなります。生徒会も、その存在意義を失うことになりかねません。幸い私が学園におります。教育者としてふさわしくない者たちを排除していただければ、あとは私がうまくまとめてみせます」
「ほほう。そうか。それにしても、生徒らは学園に不信感しかないのだろうな」
「はい。学園側がこのまま不公正な対応を続けていけは、いつか不満が爆発してしまうかもしれません」
「そうか。ならば早く手を打たねばな。学園長は公爵家の人間だからの。誰も不適格だとは言えぬわな」
「では……」
「ああ。私が直接申し伝える」
「ありがとうございます。後任ですが、僭越ながら私が推薦してもよいでしょうか?」
「ああ。構わぬ」
幼少の頃、学ぶ楽しさを教えてくれた家庭教師の顔が浮かんだ。
少しばかり癖があるが、彼が適任だろう。
「ではお前の働きを見せてもらおうか」
「はい。それともう一つだけ」
「何だ?」
「宮殿の人員を少々お借りしたいのですが」
「ふうむ。いいだろう。好きに使うとよい」
「ありがとうございます」
これで好きに動ける。
糾弾するにしても証拠が必要だからな。
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