28 【フレデリック殿下視点】 姉上の置き土産①
父上は姉上に甘い。
時に苦言を呈することもあるが、余程のことでない限りは姉上の思うがまま自由にさせているように思う。
公務では厳しさを全面に押し出し、私に対しても息子ではなく臣下に対するような態度で接してくるのに、姉上に対しては優しい父親として接しているように思う。
まだ小さかった頃、護衛の者たちに、父上の態度が違いすぎると愚痴をこぼしたことがあったが、「将来王となられる殿下と姫殿下とは、同じ王族ですが境遇がまったく異なるのです」と、半ば諫めるようなことを言われたので、自分の理解が至らない深い理由があるのだと思っていたのだが。
姉上が王立学園に入学し、学園内で「プリンセス」という称号を授与され、何かと優遇されているという噂を聞き、父上のお考えに反するのではないかと思い、直接父上に質したが、彼の返事には失望した。
「私が何か意見を言えば、すぐさまそのように取り計らわれるだろう。それでは学園内の自治を阻害することになる――と言っても、建前を並べているようにしか聞こえんかもしれぬな。半分は本心なのだがな。今のところ、懸念していたほどには平民が不利益を被る事態にはなっていないようだ。大きな改革だったゆえ、浸透するまでには時間が必要だろう。オホン。そんな顔をするな。王女というのはお前が思うよりも辛いものなのだ。お前と違い、あの子はいずれ国のために他国に嫁いでいく。お前が王となった後も、隣国と有効な関係を維持するためにな。あとほんの数年しか自由に過ごすことができぬのだ」
「……」
まるで私のために姉上を犠牲にするかのような言い草だが、姉上の輿入れ先は慎重に検討しているはずだし、姉上が嫌がれば話そのものが流れるだろう。
それに――。
自由に過ごせないのは私とて同じではないか?
王子である今も、王となった後も、心のままに過ごすことなどできない。父上が一番よくお分かりだと思うのだが。
◆◆◆ ◆◆◆
姉上が学園を卒業され、いざ自分が入学してみると、『今年のプリンセス』という称号が学園内の秩序を乱していることがはっきりと分かった。
教師も生徒も、姉上と同じ称号を持つ者を特別扱いしている。
プリンセスに選ばれた人物の評価が芳しくないと、姉上の評価までもが下がるとでも思い込んでいるのだろうか。
教師たちが特別扱いするせいで、レリル嬢は自分が特別だと勘違いしているようだ。
大抵のことは教師や取り巻きの伯爵令息が対応してくれるのだと。
この私にまで焼き菓子を渡してきたが、しょっちゅう皆に菓子を配るのはなぜなのだろう。どういう意図があるのだ?
それにしても、公平で公正な評価ができない教師陣は害悪でしかない。
学園長は何をやっているのだ。職務怠慢にも程がある。
試験結果の発表に、「対象外」があるなど言語道断だ。
本来、試験免除とは、飛び抜けた才能で素晴らしい業績を上げるなど、試験で測るまでもない優秀な者に与えられる制度だろう。
組分けの試験でその資格がないと判断された者を強引に一組に編入させ、その経過措置として試験を免除するなど、あってはならないことだ。
そのような提言をした者は恥ずかしくないのだろうか。いや、そもそも、その者自身の常識がおかしいのだ。そうでなければできない提言だからな。
これでは真面目に努力した者たちが報われない。
学園の本来の目的を忘れている教師陣、彼らを止めなかった学園長は、その役職に相応しくない。
学業が芳しくない者を贔屓する理由に、それが「国王陛下のご意志」だと、免罪符のように言っているが、「父上の意思」を履き違えている。
平民にも公平に勉学の機会を与え、公正な評価をするべきという考えを、教育する立場の者たちがなぜ理解できないのだろう?
中でも一番許せないのが、「配慮が必要なレリル嬢は、普段の授業態度を勘案して点数をつける」と決めたことだ。
学園長と一年生を受け持つ教師たちが相談して決めたらしいが、反発した他学年の教師の誰かがが情報を漏らしたらしく、あっという間に生徒の知るところとなった。
これはおそらく後期の試験でレリル嬢が二組に落ちないよう調整することを意図しているに違いない。
レリル嬢の授業態度を思い返してみたが、彼女は授業中に一度たりとも発言していない。
そもそもどの教科でも、教師たちは一度も彼女を指名していない。
課題の発表も同じチームの伯爵令息たちが行っていた。果たして彼女は一緒に課題に取り組んでいたのか?
いったい何を持って判断するというのだ。
今の一年生を受け持つ教師陣は、姉上を担当していた者たちだ。
例のプリンセスという称号を授与するという馬鹿馬鹿しい提案をした者たち。
彼らをどうしたものか……。
レリル嬢の扱いについて生徒たちは皆、思うところがあっただろうが、さすがに正面切って学園側に抗議する者はいなかった。
甘んじて受け止めることにしたようだが、納得いかない気持ちを抑え込んで上の意見にそのまま従うような経験をこれ以上重ねてほしくない。
共に学んだ者たちが、おもねりへつらうような大人になるところを見たくない。
まさに私が動こうとしたその時だった。メーベル嬢が行動を起こしたのは。
貴族らしい見事な手腕だった。
ホールケーキを切り分けて、レリル嬢を分数の会話に誘った。
「だったら小さい方がいいわ。六分の一をもらうわ」
レリル嬢の発言には耳を疑った。
まさか分数を理解していないとは!
どうやらメーベル嬢はレリル嬢の学力について、ある程度把握していたらしい。
二組のジゼル嬢もサポートしていたので、何がしかの情報を得ていたのだろう。
レリル嬢の学力が露呈した以上、このままという訳にはいかない。
メーベル嬢たちの行動のお陰で、私が動く理由ができた。
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