19 生徒茶会①
王子殿下がレリル様のお菓子を受け取った事実は大きかった。
彼女は自身の行為にお墨付きをもらったと思ったのだろう。
これまで遠巻きに見ているだけで、さすがのレリル様も声をかけられずにいた公爵令嬢にまで、「よかったらどうぞ!」とお菓子を差し出すようになった。
王子殿下が受け取ったものを断れるはずがない。
これといった感情を出すことなく、公爵令嬢は受け取っている。さすが高位貴族だ。
誰も彼もが、レリル様のお菓子をすんなり受け取っていく。
それに気をよくしたのか、最近では、レリル様は二日と空けずに焼き菓子を学園に持ってくるようになった。
◇◇◇ ◇◇◇
教室に入ると、甘い香りが漂っていた。
……ああ今日もか。うんざりしてしまう。
もう慣れっこになったから顔には出ていないと思うけれど、隣の席はきつい。
「メーベル様。おはようございます。今日はサブレを持ってきたんです! どうぞ!」
「まあ、美味しそう! じゃあ、シャーリーと一緒にお昼にいただくわ」
反射的に笑顔を浮かべられるようにはなった。
「そうね! 私もメーベルと一緒にお昼にいただくわ」
つい、シャーリーと見つめあってしまう。
レリル様が教室に入って来た男子生徒の方へ駆け寄ったのを見て、シャーリーがあからさまにため息をついた。
「はぁぁ。これ――いつまで続くんだろう……」
「本当にね。私は席替えをしてほしい。隣はきついよ」
◇◇◇ ◇◇◇
「では、フレデリック殿下は貴賓として主催側には回らないので、それ以外でペアを決めるように」
入学してすぐの孤児院の慰問に続く一年生の一大イベント「生徒茶会」の開催日が正式に決まり、役割分担の前に、エリック先生からペアを決めるよう指示された。
「一組と二組で、互いにホスト役とゲスト役を入れ替わりながら行うが、これは二組の平民に茶会を経験してもらうことが主な目的だ。君たちの中で経験していない者はいないだろうから、どういう相手がいいかなど深く考えなくてよい。各テーブルにはゲストが四名なので、便宜上ペアを作るだけだ」
そんなことを言われなくても、皆、親しい者同士、簡単にペアを作れる。
「ああ、そうだ。一つだけ――『今年のプリンセス』であるレリル君には、開会の挨拶など、プリンセスとしての仕事が別にあるので、そうだな――メーベル君」
え?
「君がレリル君とペアを組んで、しっかりフォローするように」
……嘘でしょう? またなの?
どうしよう。自分でも顔が強張っているのが分かる。分かるけど、
「先生!」
「なんだ、シャーリー君?」
「レリル様はプリンセスのお役目で忙しく、実質、メーベル様はお一人で二人分の仕事をすることになるのではないでしょうか? フレデリック殿下が抜けるのであれば、一人余ってしまいます。どこかのペアが三人になるのであれば、私がレリル様とメーベル様のペアに加わりたいのですが。駄目でしょうか?」
先生は特に考えることもなく即答した。
「ふむ。そうだな。いいだろう」
ありがとう、シャーリー‼︎
先生は、もったいつけて、「開会の挨拶など」って言っていたけれど、プリンセスの役目なんて、開催の挨拶しかないでしょう?
それでも前回の孤児院の時のことを思うと、もうレリル様抜きでやっちゃいたい。
彼女に振り回されるのはごめんだ。
「メーベル様。シャーリー様。立候補してくれて嬉しいわ! よろしくね!」
立候補……。
私とシャーリーがレリル様と組みたいと立候補したみたいに見えたの?
はぁ。
余計なことは言わないで、「よろしく」とだけ簡単に挨拶をしておこう。
「レリル様。プリンセスのお仕事が大変だと思いますが、よろしくお願いしますね」
シャーリーは笑いを噛み殺したような顔で、私のセリフをそっくり真似て繰り返した。
「本当に。プリンセスのお仕事が大変だと思いますが、よろしくお願いしますね」
いや、別に嫌味で言った訳じゃないんだけど。
あれ? 嫌味っぽかったかな?
まあ、でも。レリル様はニコニコと機嫌良さそう。
本人にはそう伝わっていないみたいだから、いいか。
「二人にそんな風に言われたら照れるわ!」
……大丈夫だったみたい。
なぜか伯爵令息たちには睨まれているんですけど。
先生の指示なので、文句があるのなら先生に言ってほしい。
「レリル様に意地悪でもしようものなら黙っていないからな!」とはっきり顔に書いてあるけれど、貴族としてそんな風に感情を露わにするのはどうかと思う。
私とシャーリーはただお茶会を成功させたいだけなんだけどな。
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