第14食目 命の弁当― 最後の四天王 ―
空が割れた。
第14食目 命の弁当― 最後の四天王 ―雲の渦の中心に、魔王の城が浮かび上がる。
だがその前に、最後の壁が立ちはだかっていた。
「……来たな、人の子らよ」
地を這うような声が響く。
黒紫の鱗に覆われた巨躯、
四天王最後の一人――《ヴォルザーク》。
食を忌み嫌い、命そのものを“無に還す”異形の魔族だった。
「お前たちの“食”は、世界の歪み。命の循環を狂わせる毒だ」
「違う!」ミカ=エルが叫ぶ。
「食は、生きる証! 命を奪うものじゃない、つなぐものよ!」
味男もフライパンを構える。
「そうだ。メシ食って生きるのが罪なら、俺たちは喜んで罪人になってやる!」
大地が震えた。
ヴォルザークの腕が地を叩き、無数の黒い“幻影虫”が地面から這い出す。
「食を拒絶せよ。飢えを忘れろ。空虚こそが完全なる静寂……!」
「だったら、お前に食わせてやる!」
味男が屋台を展開する。
戦場のど真ん中に、炊き釜が並ぶ。
仲間たちが一斉に背中を預け合う。
「ラファ、前衛! サリ、風の結界を! ガブ、祈りの支援!」
「了解!」
声が重なる。
火を灯す。
炊き釜から上がる湯気が、闇の中に淡い光を生んだ。
それは、かすかな命の灯。
「命喰い」 vs 「命を作る者」
ヴォルザークが吐き出した漆黒の瘴気が、すべてを腐食させていく。
草も、岩も、空気までもが消えていく。
「まずい、空間そのものが食われてる!」ラファが叫ぶ。
味男は振り返らずに、フライパンを握り直した。
「だったら――作り直せばいい!」
フライパンを振る音が響く。
振るたびに、失われた命の記憶が蘇るように、釜の火が揺れる。
ミカ=エルがその湯気の前に立ち、聖剣を構えた。
「味男さん、あの時のように!」
「おうよ! 《魂のステーキ弁当》、仕上げだ!」
味男がフライパンを振り上げ、炎を走らせる。
「――命を焦がせ、魂のステーキ弁当!」
香りが爆ぜる。
その匂いが、戦場を覆う死の気配を押し返していく。
「馬鹿な……食の力が、我を押している……!?」
ヴォルザークが吠える。
「無駄だ! お前たちの食欲は、飢えの呪いそのものだ!」
ミカ=エルが聖剣を振るう。
「いいえ、それは希望よ! 私たちは、食べて生きる!」
その瞬間、仲間たちが叫んだ。
ラファ:「この一撃は、美味い飯のためだッ!」
サリ:「風よ、美味しい香りを運べぇーっ!」
ガブ:「食の祈りは命の賛歌です!」
光と香りと祈りが混ざり合い、巨大な輪が生まれる。
その中央で、味男の弁当箱が輝き始めた。
「来い、ヴォルザーク! これが、俺たちの命の味だッ!!」
ミカ=エルが跳び上がる。
聖剣の軌跡が弧を描き、味男の弁当の光と重なった瞬間――
「《一閃・ソウルライス斬》ッ!!」
爆発的な光が、死の闇を裂いた。
ヴォルザークの巨体が崩れ落ち、黒い鱗が灰となって散る。
「……これが……“命の味”か……」
最後の四天王は、穏やかな顔で消えていった。
夜明けの炊き場
戦いの終わりと同時に、静寂が訪れた。
仲間たちは傷つきながらも、生きていた。
焼け焦げた大地の上に、味男が小さな炊き場を作る。
「……みんな、腹減ったろ」
「おう!」
「当たり前でしょ!」
「お腹が空きましたね」 「食べなきゃ、生きてる実感が出ないもの」
皆の腹が鳴る。
香ばしい匂いが漂い、戦場の夜が穏やかに変わっていく。
味男が皆に配った弁当は、
焦げた魂のような香ばしさと、優しい出汁の味がした。
「これが……“命の味”だな」
ラファがしみじみ頷きながら笑う。
ミカ=エルは空を見上げた。
魔王城の方角から、赤い光がゆらめく。
「次は、魔王ね」
「ああ。けど、今は――飯の時間だ」
味男の声に、仲間たちは笑った。
闇の中に、炊きたての白米の湯気が立ち上る。
それはまるで、希望の狼煙のように夜空へと昇っていった。
本日のお品書き
魔力弁当 魂のステーキ丼(命力上昇・腐食耐性・絆効果+100%)
「食べた者は“命の温度”を取り戻す」
ー第15食目に続く




