黒の鋼
評価お願いします!!
薄暗く、迷路のような場所を10歳にも満たない幼い少年が走っていた。
(逃げなきゃ、ここから)
薬品臭く、腐った鉄臭く、パイプだらけの無機質なコンクリート空間から。
(腕がイタイ)
左腕の肩から爪の先までが黒く、火傷のように爛れ、時折脈を打っている。
右手で左腕を押さえ、激痛に悶えながらもその脚を止めることは許されない。なぜならこれが自分が生き残る最後のチャンスだからだ。
長く、長い道を走り続け、とうとうその先にぼんやりと光る照明の先に鉄の扉が見えた。
(やった!)と声に出したいほどの喜びを心の中に留めたその時、「カツン、カツン」と靴音がトンネルのような通路に響いた。
数少ない照明に照らされた“ソイツ”は白い防護服を纏っているため顔は見えない。腕には銃があり、それを顔の前に構え標準を定めている。
そして自分の計画が破綻したと気付き、脚が止まってしまった瞬間、「バンッ!」と火薬が焼ける匂いを鼻で捉えた時、針が胸に刺さった。そして、暗い空間に意識を手放す。
*
「クッ!」と無いはずの腹の痛みを感じ、俺は瞼を開ける。
「…本当に嫌な夢だ。最後の結末だけ違う」
もしあの時、あの夢通りになっていたら…
雑居ビルと雑居ビルの暗く狭い路地裏。薄い膜に詰められたゴミの玉を4つ纏めたベットから身を起こし、掛け布団にしていた黒いコートを羽織る。
「痛ェ」と首の付け根に手を置き、ぐるっと回す。
何度もこんな感じのベットで寝ているが、やはりこれだけは慣れない。
だがこれでも周りの奴に比べればまだマシな方だ。この狭い隙間に俺を含めて7人。敷く物も無ければ掛ける物もないヤツらばかりだ。ここで寝る人間にとってゴミ袋と、排気口の下の争奪戦になる。
俺はコートのゴミを軽く払い、周りで寝ているヤツらを見渡す。
(一番、眠りが深いヤツ…)
最も眠りが深かそうなジジイに狙いを定め、こっそりとソイツのポケットに手を入れ、タバコを抜き取る。
どんなに金が無くてもタバコは買おうとするコイツの習性にはいつも助けられている。
どんなに深く寝ていてもタバコの煙のニオイを嗅いだら目を覚ますようなヤツらだから、路地裏を抜けてから火を付ける。
俺の口先から出る灰色はすぐさま街路樹型ロボットに吸われていく。一見本物に見える草木も触れば無機質な空気清浄機だ。
咥えているタバコの長さが減ると同時に、腹も減り始める。辺りを見まわし、ロボットがいない事を確認、その場に吸い殻を捨て、その場を走り去る。
すぐに球体型ロボがやって来て、吸い殻を拾い、赤く光りながらサイレンを鳴らし、俺を追いかける。ポイ捨てされたゴミと、した人間から罰金を徴収するロボットだ。
罰金徴収ロボットを撒き、コンビニに入って朝食を買う。
といっても決していい物は買えない。栄養ゼリーを1つとスティック状のクッキーのような栄養調整食品を3本取ってカゴに入れて、無人のレジに持っていく。
カゴを台の上に置くと「ピッピッ」とパネルに値段が映し出されていく。
右手を差し出すと自動で会計が完了し、商品を取ってドアに向かって歩き出す。
「兄ちゃん、右利きなのにチップ右に入ってんのか」
俺と同時に店を出たジジイが、俺の右腕を舐め回すように見つめながら聞いてくる。
「だって兄ちゃん、物を取ったり、パネル操作するの右手だったろ?チップは利き手じゃない方に入れるだろ普通ぅ?」
昔ではスマホでやっていたようだが、今は手にマイクロチップを埋め込み、生体認証やキャッシュレス決済、鍵の解錠etc.を、手をかざすだけで済ませるように出来ている。
「だからなんだってんだよ。ジジイ」
俺はそんなジジイを軽くあしらい、左の手袋をより強くつけ、一本目のスティックを口に咥えながら歩き出す。
(今夜は…久々の仕事が入ってる、それまでは休んでいよう)
俺はあてもなく、ただブラブラと歩き出す。
*
〈深夜0時〉
周りを大きなビルで囲まれ、ひっそりとした人気のない小さなビル。その一室が光を発している。
音を殺し、一階二階と錆びた階段を登り目的の階まだ上がり、その隣の部屋のドアの鍵をピッキングし、そっと壁に耳をたてる。
数人の男のとても興奮したような笑い声、ビン(多分酒瓶)を置く音、機械を弄る音、そして鎖のジャラジャラとした音が時折微かに鳴り、その時は女のうめき声も聞こえる。
笑い声は、とても理性があるような笑い声ではなく、猿のような下品で知性が無いような笑い方だ。
(この興奮、多分酒だけじゃなく薬物もやってるな)
そして機械を弄る二種類の音。「パチッ」と放電する音が聞こえる。これは鉄の棒に電気が流れるように改造した、いわゆる「スタンロット」とかの類いで、もう片方は多分ハンドガンか何かだろう。
その時、「パァン!」と銃声が響き、すぐに怒号と煽るような声が飛び交う。
(女への仕置きか、脅しで打ったのだろう)
そしてやっと薬中どもの笑い声が収まり、隣の部屋には男が5人いる事が分かった。
もうこれ以上は必要ない。仕事、始めるか。
俺は左手首の銀の腕輪を外し、コートにしまう。
眼を閉じ、左腕に意識を巡らせる。もう一人の“誰か”に。 『起きろ、仕事だ』と
「ドグゥン」と左腕だけが鼓動する。段々と速く脈打つやうになり、熱も帯びてくる。それはまるで一つの生命のように。
「変身」
最初に左腕が黒い光りを放ち、そのまま光が全身を包み、光が消えると黒い鎧が全身を覆っている。この暗闇を全て飲み込むような。
【L.A.M.】 かつて科学者:ジク博士が開発した【生きる金属】。
それは俺を縛る鎖であり、俺の武器だ。
*
「マジで人生チョロすぎんだろォォオオ!ヒャァハハハッ!」
「フォー!!マジ人生最高!!」
すべて順調だ。俺はそこいらの雑魚ども、毎日毎日ロボだの“黒き鋼”?だのワケのわからねえモノに日和ってるヤツらとは訳が違う。
毎日バイクで格下を率いて、毎日ツラのいい女を取っ替え引っ替えして、毎日気の済むまで酒に溺れる。
今日も格下を侍らせ、変わる変わる女と酒を楽しむ。
その時、向こうの壁から「ドンドン!」と音がする。
「ぁあ?なんの音だ?オマエ見てこいよ」
俺は空の酒瓶で音のした壁を指す。
「へいへい」と腑抜けた返事を聞き、ムカついた俺が(一斗缶イッキの刑)を決めたその時、
『ドシュッ!!』とかなりの量の水が滴れる音や何かが刺さ音がする。
「………??…あ?」
恐る恐る後ろを振り向くと、黒いカタナが壁と首を貫通していた。
「ううう…、」声にならないうめき声を漏らしてたがすぐにそのか細い声も止まり、紅く染まった黒は亀裂の奥へと消えていった。
「………あああ!!ぁぁあ!ううぁー!シシシっ死ぬしし死ぬ!ここkkこころ殺される!」
仲間の動揺した声で現実に向き合わされ、俺は銃にしがみつくように床の銃を持ち上げ、標準を定める。俺以外誰も闘おうとしない。
手下どもが逃げ出し、ドアノブに手を掛けたその時、「スパンッ!」と首が一つ落ち、それはもはや俺に「美しい」とまで思わせた。
“ソイツ”は左腕に装着された黒いカタナでまた一人の手下の首を串刺しにしながら、ゆっくりと近づいてくる。
(くっ、黒い…鎧…!?まさか、こいつは…!)
2年前、ヤクザにも平気で喧嘩を吹っ掛ける先輩がいた。
だが、禁忌に触れた。その場にいた組員を全員殺し、シノギの薬物を強奪した。その先輩は見るも無惨な姿で殺されていた。それと同時にある殺し屋の噂が流れ始めた。
レイ。又の名を【黒の鋼】