ホットココア
サンタクロースの国にて。
「しゃんたしゃん。ありがとうごしゃいます」
早く仕事を終わらせてサンタクロースの国を色々案内してあげたい。
仕事のできるサンタクロースというできる男姿を見せて少しでもいい印象を抱いてほしい。
冬和への邪な想いも抱きつつも、最終的には子どもたちの笑顔が頭に占めていた露衣。贈り物のラッピングを超高速で丁寧にし続けては本日分の仕事量を終わらせた時だった。
頭の上部から狼の両耳を出し、ふくふくの頬のように全体的に丸々とした少年へと幼児化してしまった冬和が、両腕を少し上げて小さなお盆に乗せた露衣専用のコップを露衣へと差し出したのである。
「ちょこれーともはいっているほっとここあです。あやとしゃんにおしえてもらっていれました。あついのできをつけてくだしゃい」
状況を掴めないだろう露衣に対し説明すべく、爛々と目を輝かせて興奮して頬を紅潮させる冬和の後ろに立っていた綾斗が口を開いた。
「貴様が集中し始めたからな。退屈だろうと思って一緒に遊ぼうと誘ったんだが、貴様の仕事姿を見ていたいって、その椅子に座ってじっと貴様を見ていた。そして、貴様が頑張っているから何か差し入れをしたいと言うのでな。厨房に連れて行って、貴様の大好物のチョコレートがふんだんに入ったホットココアを作り方を教えたってわけだ」
「冬和さん。ありがとう。仕事が終わったからサンタクロースの国を案内するよ」
「いえ。しゃんたしゃんはつかれているのでおやすみください」
「うん。そうだねえ。じゃあ、ちょっと休むよ。休んだら僕と遊んでくれる?」
「………はい」
「えへへ。ありがとう。うん。すっごく嬉しい。すっごく美味しい。宇宙一美味しい。えへへ」
(………おかしいな。歓喜に打ち震えて挙動不審な行動に駆け走ると思ったんだが?)
柔和な笑顔を浮かべて冷静に受け取ってはホットココアを飲み続ける露衣をひどく訝しんだ綾斗。じっと露衣を観察しては、ふと、かっこつけたいのかとの考えに至った。
(惚れた相手には完璧な姿を見せたいって気持ちを貴様も持っていたんだな)
(あばばばばばばばば。ヤバいヤバいヤバイよ僕!!! 仕事に集中して冬和さんの存在を忘れていたなんて最悪だよ最低だよあがががががががが!!! こんな史上最悪のサンタクロースにこんな最上級のホットココアを飲む資格なんてないよ!!! 飲むけどね飲まないなんて選択肢はないけどね!!! あああああ美味しい美味し過ぎるもうこれだけでこの先のサンタクロース生を歩んで行けるよ。あああああもう。一秒休んで挽回しないと!!!)
(2025.6.10)