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銀牙たちがクリスマスパーティーをしていた店とは別のカラオケ店にて。
あのおじさん誰。
幼児化してしまった冬和にそう言われてしまった銀牙。二十年以上の付き合いがある大切な友達だよと優しく言う事なく、あの刻と同様に露衣に冬和を任せてはカラオケ店を出た先で立っていた、露衣の相棒のトナカイである綾斗に浅くお辞儀をした。
「露衣さんの様子を見に来たんですか?」
「ああ。盛大にやらかすと思ってな。露衣と冬和の二人の顔を見るまでは、待っていようと思ったが、貴様の顔を見て気が変わった。俺はサンタクロースの国で露衣を待っている。どうせにやけ顔で帰ってくるだろうよ」
「………俺。そんなに分かりやすい顔をしてましたか?」
「ああ。にやけたくて、だがにやけたらいけないと我慢している顔をしていたな」
「そう、ですか」
「………貴様は言ったな。前回、露衣に幼児化した冬和を預けた時に、冬和は幼児化した年齢までの記憶しかない、子どもそのものだと」
「はい」
「あれは嘘だったのではないか?」
「………」
「幼児化により記憶も退行したわけではない。記憶は全部残ったままだったのではないか?」
「………」
「つまり、冬和は幼児のフリをしていた」
「………」
「貴様は本当に顔に出るな。丸わかりだ。よくもまあそんなわかりやすい。いや。これは愚問だった」
「綾斗さん。そんなに俺が丸わかりなら、俺が冬和と露衣さんの事を話したくて話したくてうずうずしているのも丸わかりですよね? 俺に付き合ってくれませんか?」
「それよりも早く眠れ。目が充血しているぞ」
「いやもう興奮して眠気なんて吹っ飛んでいるんですよ。もう。話したくて話したくて。どうかお願いします!」
「………わかった」
「ありがとうございます! じゃあ俺の部屋にでもうぎゃっ!」
綾斗は背を向けてスキップしながら歩く銀牙の背中目がけて突進しては、己の角を強く押し付け、素早く移動し地面に倒れる前の銀牙を背中で受け止めた。
「睡眠のツボを押した。安らかに眠れ。起きた時に話はいくらでも聞いてやる」
(2025.6.17)