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Awake:03

ここから三話はストーリーとキャラ見せつつの説明が多くなるやつ……会話多めなのは許してやぁ……


 ――――


 ――



 …………


 ……


 ……光、眩しい……もう少し寝たい。


 …………んん!? 待て、生きてる……! だが一体


「ここは、いっでええぇ!!」


 そうだ、思い出した。正直死んだと覚悟したが、まさか生きてるとは……じゃなくて、ここは何処だ?

 身体の痛みが一通り引いてから辺りを見渡してみる。中央に寂しく設置されたベッド、その上で目覚めた俺。で、来ている病衣に身体の節々に巻かれた包帯に左腕の点滴。手首のリストバンドの存在も気になったが、手首の音と設置された心電計の光と数値が連動している。なるほどそういう造りか。数値上問題は無いし、多分回復したってことだろう。

 ……しかしここは病院の一室にしては嫌に広いし、なにも無さ過ぎる。清潔なのは良いことだが居心地が悪い。なんか落ち着かないのが良い証拠だ。


「……病院、なんだよな。多分」


 ああ、落ち着かない理由がなんとなく分かった。窓もない密室なせいで息苦しい上に、外からの物音も聞こえない。そりゃ落ち着かんわ。 ……そう考えると、ここが段々病院なのか怪しくなってきたな。一度身体に這った違和感が気持ち悪い。極端に激しく動かなければ痛みもほとんどないし、歩く分にも問題はなさそうだし軽く外にでるくらいなら……あ、でも腕に色々引っ付いてるしそこまで移動出来ないか。寝てばっかなのも退屈だし、軽い運動なら良いだろ。

 ベッドから脚を降ろしたタイミングで、病室の扉がスライドされる。


「~~♪」


 白衣、には違いない。ご機嫌な鼻歌を奏でながら病室に入ってきた彼女の髪は乱れ、余らせた袖の白衣を羽織った彼女の瞳は、見開かれていることで危うい光を(つよ)く放つ。白衣の天使どころか、マッドサイエンティストと呼ぶ方が彼女に相応しい。もっと分かりやすく言えば胡散臭い、というイメージが半端じゃない。

 「…………おやおやおや」その淀んだ眼光が俺を眺めている。


「これは驚いた。予測よりも早く回復して……っと、そう身構えなくていい」

「こんな状況で無理だろ。 ……まさかとは思うが、今から俺スーパーヒーローに改造される流れ?」

「改造! それは実に魅力的な提案だ! キミが許すなら今からでも構わないかね!?」

「当然! ノーだ!」

「なんだい、残念だねぇ」


 全力で身を乗り出されたが、言動から察するに目的はまったく別らしい。ていうかやろうと思えば出来るのかよこえーよ。

 「いやぁ本当に残念だ」どんだけ残念なんだよ。名残惜しいのが横目で何度も見る仕草でバレバレだぞ。どこかに行くと思ったら、かけてあったパイプ椅子を俺と向かい合う様に置き、ワンタッチで準備をしてから腰をかける。


「とりあえずキミもベッドにかけたまえ」

「ああ」

「さて、警戒が解けていないキミに経緯を簡単に説明しよう。意識を失っていたキミは、ここで治療を受けていたんだ。怪我は勿論、感染症の危険を鑑みてこの個室で検査もしていたが、喜びたまえ。診断結果はただの全治五日だ」

「五日? 俺穴だらけだった記憶だが」

「全弾貫通という悪運に感謝したまえ。それに、ここの医療設備を甘く見ては困る」

「なるほど。それなら助かった、例を言う。 ……ええっと」

「おぉっとこれはこれはこれは失礼。名前を知らないのは仕方ないねぇ」


 一層身を乗り出した拍子に、彼女の淀んだ瞳が近付く。


「私はライブラ。御覧の通り科学者だ」

「……なんつーか、期待を裏切らない感じだな」

「そう褒めないで欲しいな、はっはっは」

「ていうか声は抑えない?」

「なにを言う、聞かれて困る話でもあるのかい?」


 確かに俺たち以外いないし内緒話をする気も無いが……それにしたってあまりにもマイペースすぎる。

 それにしても、漂っていた胡散臭さのせいで正直とっつきにくい印象を覚えそうになったが、一応話が通じる相手と分かれば対応もやりやすい。「……ないな」事実だし、円滑な会話の為に切り出す。


「で、科学者さんが俺になにか?」

「なになになに単なる好奇心さ! 地上で救助された上に、レギオンと交戦して生き残った記憶無しで戦闘素人の人間! おまけにその人物がアンジール用の銃で撃破した聞けば殊更だろう? 話してみたいと思うのは自然の事じゃあないか!?」

「好奇心駄々洩れだな……気になったんだが、天使(アンジール)ってなんなんだ?」

「あぁそうかそうかそうか、今のキミは記憶が一切無いと聞く。加えて発見当初の状況から地上暮らしと仮定されている身の上、知らないのも無理はない。となると、説明する事項も非常に多い」

「そんなに事情が入り組んでいるのか?」

「深い部分まで語れば、キミの想像の五十倍はあるんじゃあないか?」


 変に百倍あるとか言われるより現実的に聞こえる。しかも低く見ての割合だから、下手したら予想より高くなるのがまた……

 しかしこの女性、印象に反して嘘は言っていない、と思う。こっちの反応を楽しんで言葉を選んでる風に見えるのが厄介ではあるが。


「室長、一体なにを……あ、地上さんが起きてる!」


 もう一度横滑りするドアを潜ったのは、青い服から羽織った白衣が一番に目に入る少女。ちょい待って、ちじょうさん……? もしかして地上の人って意味? 個性的な言い方すぎて呆然としたが、もうちょっと良い表現というか呼び方は無い? ……いや、名前も身分を示すものも無いだろうから呼び方に困るのは仕方ないか。それぐらいいいか。とりあえず目も合わせたのに無視は失礼だ、軽く手を振って返す。


「バイタルは……良好と。顔色も良さそうでなによりです」

「なんとかな。 ……ところでここは?」

「ここですか? ああ~……なにから説明すべきか……室長パス!」

「え、丸投げマジ?」

「そぅそぅそぅ、キミに優先して伝えるべき重要事項を思い出した!」

「それ今言う?」


 どうにもこのライブラ、ある意味、業務より自分の好奇心を優先させる性分だな間違いない。まあ分かりやすいっちゃ分かりやすいけど。

 とにかく、その濁りとも色の怪しい光の瞳は俺を捉えて離さない。ぐにっと歪んだ口角から放つ言葉は止まらない。


「病み上がりで申し訳ないが、これからとある偉い人に会って貰いたい」

「これから? 偉い人と……?」

「そうだ」

「でも俺」

「忙しいから歩ける状態なら連れてこい、と言われててね」

「……ヘビーだ」


 俺の顔は間違いなく、嫌気全開で険しくさせてると思う。


 ――


 ……確かに病院かどうかを怪しんでいたのは事実だが、こんな無骨――いや、最早無菌ともとれる場所とまでは想像していなかった。一瞥されるも一瞬だけ、擦れ違う人はみな足早に何処ぞへと向かう。

 人波を横切って一先ず乗り込むエレベーター。ここもやはり手入れの届いた清潔な印象がある。よっぽど良い素材だからか、光の照り具合も目に優しい。ここまで来ると病院とは考えづらい。もっとも、従業員の服の大半がスーツな以上、黑寄りのグレーが真っ黒になっただけの違いでしかないが。

 横の壁にもたれて一息。それなりに寝ていたとは言え、病み上がりの人間にしては随分歩いたと思う。そんな俺にライブラ、とは違うもう一人の少女が声を遠慮がちに声をかける。


「あの、身体は大丈夫ですか?」

「大丈夫、腹が減ってるだけ。 ……それより、ここは病院じゃなくて会社なのか?」

「はい。ここは兵器製造と化学研究を兼ねた研究所なんです」

「わお。通りでお堅い雰囲気だ」

「そうです地上さん。話したいことは多々あるのですが、これからについて」

「その前にマルーンくん、自己紹介は済ませたかい?」

「そう言えば聞いてないな」

「はっ! しし、失礼しました! マルのことはマルーンと呼んでください!」

「覚えやすくていいな」


 どっちの呼び方をすればと一瞬迷ったが、マルーンにしよう。初対面相手から愛称で呼ばれるのも気が引けるだろうし、普通のがいいな。そもそも、一気に距離詰めたら逃げられそうなタイプって感じだし。

 ――静かな駆動音を潜ませて、エレベーターは左右に開く。景色の向こうの印象はさっきと変わらず、無味無臭にオフィスに続いているだろう扉が規則的に並んでいる。ライブラの言葉から想像を膨らませるなら、この部屋の奥で兵器製造やらなにかしらの研究、なんなら会議みたいなことまでしてるかもしれない。ま、俺には関係なさそうな世界だからあまり考えなくていいか。


「で、マルーンが伝えたいことは?」

「えとですね……イエナは覚えてますよね?」

「イエナ――そうだ、イエナだ!」


 自分のことで手一杯になっていたせいで、俺を助けた恩人を忘れていたのは最悪極まりない。でも記憶通りなら、無事なのかどうか確かに気になるところだが。


「イエナは無事なのか!?」

「落ち着きたまえよ。彼女は無事と言えば無事だ」

「それなら……けど、その含みのある言い方が気になるな」

「意外に鋭いねぇ。その通り、問題という問題はこれから起こる」

「イエナが解体処分を受ける可能性があるかもしれなくて……」


 「…………なんだって?」理解出来ない。いや、言われていることの意味は分かっている。だが、なぜそうなるのか解せない。


「だから、彼女は戦闘データを引き抜かれてからスクラップにされる、ということだ」

「命辛々生き残って、帰ってきて、なんで殺されなきゃならない?」

「殺される、ねぇ。キミにとってイエナくんは人間の様に感じると?」

「他にどう見えるんだ?」

「地上さんも見たと思いますけど、彼女は機械の身体です。だから人にとっては彼女は機械として壊される、と考えられるの珍しくないんです」

「はっきり言うなら、そっちの方が主流だがねぇ」

「そうだとしても簡単に認めるのは……じゃなくて、どうして彼女が殺されるんだ?」

「……社長が言うに、死にかけで生還した情けないアンジールなんかいらない、だそうです」

「社長?」

「こちらも話すと長いのですが、イエナを製造した会社の社長ということです」


 ライブラが言った通り、俺が思ったよりこの世界は様子がおかしい。下手したら闇すらも深いのかもしれないが、今知るべきは正に、これから起こることへの対処だろう。

 細かな経緯は知らないが、なにか戦闘があってイエナはボロボロになった身でも俺を助けようとして、死ぬかもしれない状態でも抵抗して、帰ってきた。そしてその報酬は死ぬ。死ぬ為に生きて帰ったとか冗談でも笑えない。少なくとも俺は納得出来ないししたくもない。


「厄介なことに、その思想の持主が一企業の社長、という訳さ」

「会話になる気がしないから手話教えてくれない?」

「残念だが、とっておきのひとつしか知らなくてねぇ」

「中指を立てないでください室長! ごほん……だ、大丈夫ですよ! あくまで話を聞いて最終的な処遇を決めるとのことですが、マルにとっても彼女が処分されるのは不本意なので手伝わせてください」

「良いのか? 社長に歯向かうってことだろ?」

「はっきり言えば社長を好いているアンジールはほぼいないぞ」


 ひでえ……しかし、なんとなく分かってきた。俺が今から交渉する相手はかなり気性の悪い人間らしい。なんだか悪いイメージしかないし、果たして話し合いになるかどうか……意見を通す材料を大まかに揃えれば「人間を助けた」という事実だけかもしれないが、一体どれだけ有利になれるかも分からないが、やるだけはやってみるか。


「しかしまぁ、事情という事情はおろか記憶も無いというのに、出会ったばかりの造り物に肩入れしているねぇ」

「あれを生きてるって言わないのは失礼だろ」

「フフッ、クク、これは期待出来そうかな」


 ライブラは多分本心で言ってるだろうが、俺が思ってる方向とは違ってる気がしてならない。どうしよう、その意味では期待に応えたくないのが本音だが……とりあえずトラブルは避ける様にしよう。

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