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Awake:02


「……っと、すまない。もうひとつだけ」

「なん、でしょう?」

「あれは見えているのか? こう、人と同じ様に目で見てる、みたいな」

「そうで、すね。音だけじゃなく、視認もし、ている様です」

「分かった」


 ことを起こす前にもうひとつだけ確認。あれこれ聞きたくても向こうが許してくれないし、これ以上の情報を得るのは難しいな。

 とりあえず当面すべきことを纏めればこうだ。レギオンとかいう機械を(こわ)して俺とこのイエナと名乗る女性は脱出。以上。その時無事だったら聞きたいことを聞けば、いや、彼女の崩壊とも言える身体の状態を考えれば落ち着いてからでも……そもそも落ち着ける状況が来るのか? ああダメだ、難しく考えるとネガティブになる。その時のことはその時考えればいいや。

 ――さて、やるか。あれの性能がどれ程かは分からないが、飛んでこなかったりコンタクトを取り合ってる様子も無さそうだ。脚の運び同様、どことなく不揃いな印象を受けたそれには、軍隊ではなく群れ成すだけの虫にも見えなくもない。


「確率は低いが、ゼロじゃないならってな」


 半ば、いや、完全に自分に言い聞かせる為に口に出す。保障も確証も無い希望的観測に違いないが、生き残ることを勝算と言うなら無い訳じゃない。


「あの、な、にを」

「あれの感知能力がどの程度か確かめるだけだ」


 足元の大き目のコンクリート片を拾ってみせる。なに、極めて単純な陽動をするだけだ。見込みはほとんど期待してないけど。

 「えっ……!?」どうやらイエナにとって俺の行動は余程デタラメに見えているらしい。分かる、俺だってバカやってる自覚はある。


 ――開け放たれた窓から右方向に石を高く放り投げる。さて、これでどんな反応をするのか……覗き見て装備された機銃の動きを注視する。

 ……動いた! なるほど、動く物に反応すると言ったところか。意外と単純な性能してるな。装備されたひとつだけの機銃がぐんっと挙動している、となると


 がががががががが。


 身を乗り出してこちらも銃を発砲する。


「くっ、っ、うおぉおぉ!?」


 侮っていた訳じゃない。だが、アサルトライフルの反動にしてはやけに強い気がする。ただの印象だけど。だけどその分か、威力も強い様に思える。数発外してしまったにしても、弾道は鉄の外殻を弾くことなく、ぐりゅっと内部まで通過している様に見える。

 しかしこんな癖の強い銃を扱えるこの女性(そんざい)は一体……いや、今はそれを考えてる暇はない。ただただ突破するだけだ。


「オーライ! 行くぜえぇ!」


 窓から飛び出し、後は勢いのまま一番近くの遮蔽物へ駆けながら、じゃじゃ馬の口火から黒鉄を放つ。ダメだ、マガジン一つは使わないと要領も掴めない。かと言って無駄弾の消費も抑えたい。なるだけ当てる意識を持たないと意味が無い。過度な心配はしなくていい、鳥だって最初から上手く飛べるもんじゃないさ。

 ……ちいっ。抑え過ぎれば銃口は地を向き、力を抜き加減を間違えれば地平へと向く。見所がまるで無いなと自嘲したいが、時折当たる弾頭の影響かレギオンは爆発を起こしている。現状は上等、想像よりは悪くないが、問題はここからだ。

 だよな、単純構造の機械と言ってもそこまでバカじゃない。意識を逸らされたと言っても、自分たちを攻撃してくる存在を無視する訳がない。

 ぎぎぎぎ、機銃はとうに俺を見ている。


「ちいっ!!」


 こんな状態で撃っている場合じゃない。優先するのは殲滅じゃなくて生存。崩れかけた巨大の一枚瓦礫をに飛び込む。

 …………背にして息を整える。半ば無我夢中だっただけに残弾の確認をし損ねた。一度マガジンを外して確認をする。 ……弾が切れていたのか。気付かなかった辺り、自分で思っていた以上に余裕が無かったようだ。こんな状況だからこそ一番必要なのは冷静さだ。一度深く呼吸をしながら、一度目のリロード。

 ……状況は上等と思ったが訂正しよう。この上ない幸運も重なった最高の展開だ。撃破した数は少しなのは別にいい。一番のポイントは、この時点で傷一つも無いことだと思う。どこに傷を負ってもだろうが、脚に掠ろうものならその瞬間アウト。だが現状無傷となれば、非常に贅沢な展開としか言えない。

 まずい、壁越しに関係なく向こうからの銃撃が音が明らかに増えた。猛獣の咆哮の様に途切れない銃声。聞いてるだけで脳内まで騒がせる嫌な気分だ。だが落ち着け。使える策は全て使わせて貰う。さっきのでレギオンの大まかな性能は分かった。小細工の通用する相手と分かればもう一度……!


「――ラウンド、ツー!」


 無理矢理にでも盛り上げる気分にならないとやってられん。壁を背にしたままもう一度、足元の石を向こうへ放る。よし、外野フライの放物線を思わせる酷く緩やかな軌道を描けたはず。

 ……すぐに行くな、向こうの銃撃の矛先が変わってから走るんだ。次の壁の目星もつけている、恐れるな。

 ――気配が変わった。待てば意識の向き戻る。行くなら今だ!


「おおあっしゃあぁあ!!」


 ががががががががががが。予習は済ませただろ? 本番はここからだ。

 頭で考えるな、得た経験を身体に馴染ませろ。更なる経験を身体に馴染ませろ。そうして、この腕の中の暴れ馬を躾けてやる。

 無防備の中を駆けながら撃つアサルトライフル。動きながら撃ったところでまともに当たる方がラッキーだ。 ……二、いや長くて三秒。脚を止めて、しっかり狙いを定めて、引き金を引く。


「おおぉっ!? おぉおおおぉぉおお!!」


 なんとなくの勘を信じてやってみて我ながら驚いた。銃の制動に少し慣れたのもあるが、予想した以上に直撃する。どうにも相手のサイズが少し小さいせいで弱点への直撃は遅れてしまう、それでも先の銃撃と比べれば遥かに鉄の着弾音と爆発が聞こえる。

 ……しまった、目に見える変化が嬉しくて留まり過ぎた! 屈んだ程度じゃ避けた内にも入らん、さっさと次の壁に


「ッが!」


 完っ全にやらかした……調子にのったせいで酷いミスを犯したにしては、ハチの巣にならなかったのは不幸中の幸いかもしれない。 ……うん、右膝下と右脇腹の二ヵ所で済んだのは運が良かったはずだが、万全に動くことが出来ない時点でもう怪しい気がしてきた……

 当然、支えきれずに倒れる。やばい、やばいやばいやばい……まだ多くが残る銃口たちがこちらに向いている。


 ……身体も完全に硬直。死んだな。だが参ったことに、思い出す程の走馬灯が無いのは悲しいが仕方ない。こんな世界でこんな死に方というのは当然嫌だが、話せた相手もいたしまあ……


「な、なんだ!?」


 それはこっちから放たれた銃弾じゃない。敵に放たれた銃弾の軌跡は煙を纏いながら、俺がさっきまでいたあの建物……あの場所って確か俺が乗り出した窓で……まさか……!


「まさか、イエナか……!」


 信号弾と言えど攻撃力はあるはずだ。ただダメージは与えても撃破に至らない。だが、新手のお出ましとなれば、レギオンがどう反応するか。 ……まずい、数機が彼女に向きを変えようとしている。


「おい! ハンサムのサインが欲しいか!」


 わざと大声を張って注意を引く。 ……立ち上がって銃を撃ったところで身体を支え切れると思えない。ならいっそ、寝て撃つしかない。

 スタンドが無い分狙いもいまいちだが、それでも今はこの方がマシだ。いやごめん気のせいだった。地面に固定しずらいせいで余計照準が合わせにくいし反動も抑えにくい。 ……仕方ない、膝を着いた撃ち方をするしかない。

 「持ってけえぇぇ!!」ががががががががががががが。あ、こっちがマシだな。銃の半身を脇で挟めば少しは……オーケー良い感じ。

 ……カチッ。聞こえた弾切れの音。よし、少しは状況に落ち着いたようだ。二度目のリロード。 ……よし、このまま棒立ちで続行しても危ないのは言うまでもない。見映えなんか知らん、身体をごろごろと転がしながら一度壁に隠れる。一息くらいは吐きたい。


「ふう……」


 死んでもおかしくなかった……戻ったらイエナに感謝しないとだな。

 にしても、あと何機だったか。一発の信号弾の援護で命を拾った。だが恐らく、次は無いだろう。信号弾にそう弾数があるとは思えない。

 ……さて、あとどれくらいだったか。残りのレギオンをの数をはっきり覚えてない。十はいたようないなかったような……マガジンの予備はひとつを残しているが、なにが起こるか分から


 ぼしゅん。

 気のせいか? 上手く言えないが、なにかが排出された音が聞こえ


「なんだ今の――ぐあっ!」


 直後、背負っていた壁が爆発した。なにが起こった……?

 「冗談だろ……」見落としていた。機銃タイプだけだと思っていたが、よく見れば砲口の形状を備え付けたタイプまでいた。こうして落ち着いて見れば武器のシルエットから違う。もう少し観察しとけば良かった……


「づうぅ……反則だろあれ……」


 言い訳、もとい負け惜しみ、更にもとい悪態ぐらい吐いても良いと思う。

 ……ここで俺の口は閉じた。爆発の衝撃で武器を手放してしまっていた。一息吐けたと気を抜いたのが最悪を招いている。

 身体が万全なら即座に飛び上がるなり、立ち上がって颯爽と駆けながら手に取ることも出来ただろう。だが、背中に刺さったコンクリート片と後頭部を打ち付けた鉄の塊のせいで動きは一層酷い。折角収まっていた頭の怪我が悪化したじゃねえか……! 

 今はもうまともに走れない、走っても揺らぎの治まらない視界、最早まともな移動手段は横たわる身体を転がすか匍匐前進の二択になる。


「……こりゃヘビーだ」


 …………雑に数えて敵の数は残り十と六機。随分甘い見通しだったなと自分に呆れるが、まあ頑張ったよと労っておく。いやほんと、俺頑張ったと思うよ?

 今度こそ終わったな、さっきと違って嫌に冷静な心境で身構える。敵の銃口たちも無感情に構えられる。

 さあ、今度こそ俺は最後の言葉を言うタイミングかもしれない。さて、どんなクールな言葉を行ってやろうか。


 ――冗、談、じゃ、ねえ!!


 こっちはまだ起きて多分一時間経ったか経ってないかなんだぞ。おまけに、自分のことを含めてなにも知らない。

 綺麗な死に様考えてる暇があるならとにかく生きろ。這ってでも動け。止まれば死ぬ。そういうなら情けなくても動いてやるさ……!

 がららららららららら――思い切りの前転をした後方で弾頭が鉄を弾く音。あっっっぶねええ、もし諦めていたら間違いなく俺は死んでいた。オーライ、無理をした甲斐あって伸ばしていた腕に銃が収まっている。

 そこからは一心不乱、銃口がこちらを向いているレギオンを優先にアサルトライフルを乱れ撃つ。半身を起こしただけの姿勢だ、撃てば反動で身体は仰け反る。恐らくここで最後だ、ここで派手な隙を見せれば正真正銘、次はない。

 痛みは引かない、頭痛も酷い、なんなら視界も少し霞んでいる。だが、奥歯を噛んで意識を確保する。

 幸運にも機械の爆発音も聞こえる。なにせ俺の標的は最早あの銃先。アレが人の手にした銃なら腕でも狙っただろうが、生憎と的が小さい。レンズ部分を狙わなくても、ある程度以上ダメージを与えるだけでも停止しているのも分かっている。なら、結局、俺に照準を合わせない為に攻撃を当て続けるしかない。


「……っ!!」


 最後のリロードと敵の発砲。さあ、どっちが速いかの勝負ってやつだ。人間に負けるなよ、ミスターロボット?

 ……引き抜き、ほぼ一瞬の擦れ違いで新しいマガジンを装填。撃つよりもこういう動作の方が上手いのはどうかと思うが、とにかく、我ながら最高だと思える程スムーズに準備を終える。

 そして、構えて、引き金を、引けなかった。

 いや、やっぱずるいって。相手は装填動作無しで照準を定めるだけ。それなら撃つだけで良いとかほんとやだ。おかげで、こっち、の身体中、痛みだらけだ……


 ――――ごおぉん!


 ……なんの音だ? いや、爆発音というのは分かっている。そうじゃなくて、この爆発は文字通り、爆弾かなにかが炸裂したもので……やばい、意識が無くなりそうだ。

 いよいよ目の前の風景がぼやけている。仰向けになって見えるのはくすんだ曇り空。ただぼんやり眺めても事の真相は分からん。横たわって見てみる。


「……は?」


 見たものをありのままを説明すればこうだ。なにかに撃ち抜かれたのか機械は突然に爆散、なにか黒い砲弾によって派手に爆散。

 一見すれば悪化した戦況。だが、攻撃の全てがレギオンに向かってるとなれば、味方と見て良さそうだ。 ……更に増えた人影が打ち鳴らす銃声は途切れなく響く。


「……ふっ、くく、ははははは…………ざまあ、ねえぜ……」


 この雰囲気は実質勝ちだな。後はイエナが無事で……もう瞼も重いし、身体の感覚も遠ざかっていく……もうダメだ、随分頑張ったし、一旦休むとしよう。助けに、来た、誰か……俺も、起こして、くれ………………


 ……………………………

銃撃戦難しすぎ泣きそう…まだ2話なのに…

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