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始まりと終わりの探偵喫茶

作者: 昼月キオリ

ー自己紹介ー


〜なぎさ喫茶〜

創業3年目だがレトロな雰囲気漂う喫茶店


〜シン(32)〜

喫茶店の店長

あだ名はワトソン君

暴走しがちなロンの助手

冷静で真面目な性格


〜ロン(20)〜

大学二年生

フリーで探偵のバイトをしている

喫茶店の常連客

あだ名はホームズ君

興味のあるものを見かけるとどこまでも追いかけていく

その優れた推理力から警察に頼られる事もしばしば

大学では変わり者扱いされている

メアリーに恋をしている


〜メアリー(24)〜

絶世の美女

あだ名はアイリーン

ロンとは友達以上恋人未満

ふわふわした口調


〜少年探偵団(10〜12)〜

ナッツ、チョコ、コナ、ココ、ベリー

喫茶店にたまに来る子ども達

ベリーは少年探偵団の中で唯一女の子

ロンやシンの手伝いをしている


〜マキタ(74)〜

喫茶店の常連客

足が悪い為、杖を使っている


〜キーシュ(20)〜

ロンの大学の同級生

花屋のアルバイトをしている

地味で目立たないタイプ


〜教授(55)〜

ロンとキーシュが通う大学の教授


〜ジャックザリッパー〜

謎多き殺人鬼


〜モリアーティ〜

ジャックザリッパーを動かす黒幕




第一話 連続殺人鬼

テレビ「昨夜、午後8時、女性が刃物で殺害される事件が起こりました

犯行手口が似ていることから一連の事件は同一犯ではないかと推測されています

殺害されたのはこれで6人目ということですが犯人は未だ捕まっていません

夜の外出はなるべく控えるようにして下さい」


シン「無差別殺人、これで被害者は6人目か」

シンはテレビ画面に目線を向け、洗った食器を拭きながらそう呟いた。

ロン「いや、無差別じゃない」

しかし、ロンはそれをあっさりと否定した。

シン「え、でも今テレビで無差別だって言ってなかった?」

ロンは机の上に資料を広げた。

いつものようにこっそりと裏から手を回し、警察から資料を手に入れていたのだ。

もちろん、バレたらそれはそれは大変な事なので内密に。

無差別かに思われた殺人事件。

しかし、殺された人達にはある共通点があった。

ロン「事件が起こる日は決まって雨の日の夕方、

殺害されたのは全部で6人、全員女性、それも服装はワンピース、ハイヒール、香水を付けている、

もっと言うと殺害された遺体の写真を見たけど刺した数が異常に多かった、

無差別というより怨恨の線が強いね、

死んだ後も何度も刺し続けた証拠だよ」

シン「ホームズ君は相変わらず事件のこととなると仕事が早いねぇ

テレビに出回っていない情報をもう手に入れてしまうんだから」

ロン「ははは、俺にはそれくらいしか取り柄がないからね〜」

シン「それにしても、女性ばかり狙うなんてまるでジャックザリッパーみたいだな」

ロン「そうだね、あと、これは重大な内容なんだけど、そのジャックザリッパーに殺人を依頼している人物もいるんだって」

シン「え、本当に?」

ロン「うん、警察の間で噂になってた、まさに、モリアーティみたいな人物がいるってね」


女性に恨み、となると異性関係?

でも、確か殺害された女性は全員が結婚して子どもがいた。

となると母親との間に何かあった?

母親に似た人をターゲットにしているとか。

若い母親、ワンピースにハイヒールに香水、それが自分の母親の特徴?

でも、母親に恨みがあるんだとしたら真っ先に殺しに行くはず。

つまり、最初に殺された女性の子どもが犯人という事になるけど・・・

被害者の子どもはまだお腹の中にいたし人を殺せるはずがない。

いや、そもそも殺害された女性達の年齢は20代前半、

連続殺人鬼の目撃情報からして10代後半から20代後半

それを踏まえるとあまりに若過ぎる。

ということはまだ目的の人物を殺せていない・・・?

探している最中か?

うーん、まだ全て俺の憶測に過ぎないしもう少し有力な情報が欲しいな。



 

第二話 マキタの機転

夜7時。

街中に悲鳴が行き渡った。

女性1「きゃあああ!!」

女性2「誰かー!誰か来てー!人が倒れているわ!」

男性1「おいあんた、大丈夫か!?」

女性1「だめよ、もう死んでいるわ・・・」

男性1「ひでぇ、なんて刺し傷の多さだ・・・」

倒れた女性の体には無数の切り傷から血が流れている。


ジャックザリッパーが暗い道を逃げていく。

マキタ「うわ!!いたたっ・・・」

動線にたまたまいたマキタはジャックザリッパーとぶつかった衝撃で転び、杖を落としてしまった。

ジャックザリッパーは後ろを振り返ることなく走り去っていった。

女性3「大丈夫ですか!?あの、杖、あなたのですよね?」

近くにいた一人の女性がマキタの心配をして駆け寄る。

マキタ「ありがとうお嬢さん、私なら大丈夫だよ」

女性3「それなら良かったです」

マキタ「心配してくれてありがとう、だが、あなたの方こそ遅くならないうちに家に帰るんだよ?まだ犯人が近くにいるかもしれないからね」

女性3「はい、今日はもう帰ろうと思います」

マキタ「そうかい、それなら安心だ」


喫茶店。

ロン「マキタのおじいちゃん、ジャックザリッパーに遭遇したって聞いたよ

怪我は大丈夫?」

マキタは転んだ衝撃で手を擦りむいていた。

手には包帯が巻かれている。

マキタ「なーに、これくらい問題ない、少し擦りむいただけだ」

シン「マキタさんちゃんと病院で診てもらったんですか?」

マキタ「いや、擦りむいただけだから自分で手当てしたよ」

シン「ヒビが入ってるかもしれないじゃないですか」

マキタ「大丈夫さ、それよりホームズ君、有力な情報が手に入ったよ」

ロン「なーに?」

マキタは一枚の写真をロンに見せた。

ロン「この写真に写っている女性誰?」

マキタ「おそらく、ジャックザリッパーの母親だよ

彼は不用心だね、胸ポケットに写真を入れておくなんて

まぁ、おかげで情報を手に入れられた訳だけど」

ロン「さっすがマキタのおじいちゃん!抜け目ないねぇ!」

マキタはぶつかる直後に僅かに見えたジャックザリッパーの胸ポケットから写真をこっそり盗んでいた。

マキタ「ははは、褒め言葉と受け取っておくよ」

ロン「その写真、指紋が付いていないか鑑定してもらおう」

マキタ「指紋が出るとは思えんがな」

ロン「俺もそう思うけど念の為にね、それと、ジャックザリッパーと接触した場所も見張りをつけよう」

シン「うん、それがいいよホームズ君」


後日。

マキタ「やはり指紋は出なかったか」

ロン「うん、写真はいつも手袋か何かをはめて触っていたんだと思う、そういう部分はしっかりしているみたいだね

写真をポケットに入れていたくらいだからもしかしたら指紋くらいは取れるかもって期待てたんだけどなぁ」

シン「それで、現場付近で怪しい人は見つかったのかな?」

ロン「ううん、それらしい人は見つからなかったよ」

シン「そうか、今回の敵はなかなか手強いみたいだね」

ロン「本当だよ」

マキタ「手強い相手に力が入る君の気持ちは分かるけど無茶はしないようにねホームズ君」

ロン「うん」

シン「はぁ、それ、あなたが言っても全然説得力ありませんよ」

ロン「そうだよー、マキタのおじいちゃんのことだからわざとぶつかりに行ったんでしょ?

本当、刺されなくて良かったよ」

マキタ「はっはっは」

シンとロンにすかさずツッコミを入れられたマキタはその事を気に留める様子もなくケラケラと笑った。




第三話 少年探偵団

ロン「少年探偵団、皆んなに頼みたい事があるんだ、

この写真の女性を探し出して事情を説明して欲しい

その後、モリアーティとジャックザリッパーを捕まえるまでの間、彼女を安全な場所でかくまってほしい

もちろんこの事は内密にね、特にかくまう場所は少年探偵団と俺だけの秘密にして欲しい」

ナッツ「分かったよホームズ君」

チョコ「僕らの出番がやっときたんだね」

コナ「待ちくたびれたぜ!な?」

ココ「うん、ついにジャックザリッパーを捕まえる時が来たみたいだね」

ベリー「私、なんだかワクワクしてきちゃった!」

ロン「いつも以上に周りを警戒してね、ジャックザリッパーの母親に関わるとなると何が起こるか分からないから、

今回はバラバラに行動はしないで」

コナ「でも、ホームズ君、それだと時間がかかるんじゃないか?」

チョコ「一人ずつ探しに行った方が効率いいと思うけど」

ロン「ダメだよ、君たちの命がかかってるんだから

、依頼より自分達の命を最優先すること、

最低でも二人以上で行動するように」

ナッツ「うん、分かった」

ロン「じゃあみんな頼んだよ」

ナッツ「よっしゃー!行くぞみんな!」

「「おー!!」」

ナッツの言葉に他の皆んなも続く。

ロン"頼んだよ少年探偵団"




第四話 同級生

一年前。

大学の入学式から数週間が経った頃。

キーシュ「いたた・・・」

キーシュは廊下で転んでしまった。

同級生1「おい、キーシュ、何やってんだよ〜、よく何もないところで転べるよな笑」

同級生2「キーシュはほんと鈍臭いよなぁ」

ロン「大丈夫?」

ロンは笑っているクラスメイト達をすり抜けると、転んだキーシュに駆け寄り手を貸した。

同級生1「変わり者と引っ込み思案が連んでる!」

同級生2「やっぱ類は友を呼ぶんだなぁ、ははは!」

同級生1「おい、そろそろ行こうぜー!」

同級生2「おぉ」

キーシュ「ありがとう、君はえーと・・・」

ロン「俺、ロンって言うんだ!よろしく!」

キーシュ「僕はキーシュ、よろしく」

二人は握手を交わす。

そこへ大学の教授が通りがかる。

教授「おや、キーシュ君、ロン君と友達になったのかい?」

キーシュ「教授!あ、いえ、まだそういうわけでは・・・」

ロン「はい!たった今友達になりました!」

キーシュ「ロン君・・・」

教授「おお!それは良かったね、ロン君、キーシュ君は自分からコミュニケーションを取るのが苦手な子だからこれから仲良くしてあげて」

ロン「はい!」

教授「あーそれともう一つ」

ロン「何でしょうか?」

教授「ロン君、君は明るいのは大変いいことなんだけど、興味のあるものがあると周りが見えなくなって暴走してしまうところがあるから、

キーシュ君、上手くブレーキをかけてあげてね」

キーシュ「は、はい」

教授「それじゃあ二人とも気をつけて帰るんだよ、最近、物騒な事件が多いからね」

ロン「あー、例の連続殺人ですか?」

教授「そうそう、狙われているのは今のところ女性だけど、この先も男性が狙われないとは限らないからね」

ロン「そうですね、ご心配ありがとうございます」

キーシュ「あの、教授、授業で分からない事があって聞きたいんですが・・・」

教授「分かった、今日はこの後予定があってね、明日時間を作るからその時でもいいかな?」

キーシュ「はい、ありがとうございます」


ロン「キーシュ君、教授と仲良いんだね」

キーシュ「うーん、僕、クラスで孤立しがちだから気にかけてくれてるんだよ、教授は一人でいる人によく声をかけていたから」

ロン「僕の心配もしてくれてたね・・・周りが見えなくなって暴走かぁ、自分ではセーブしてるつもりなんだけどなぁ」

キーシュ「僕はその方がロン君らしくていいと思うよ」

ロン「そう?ありがとう、あ、そうだ」

キーシュ「?」

ロン「キーシュ君、この後って何か用事ある?」

キーシュ「ううん、ないけど」

ロン「じゃあさ、一緒にご飯食べに行こうよ!」

キーシュ「うん、いいよ」


ロンはキーシュをなぎさ喫茶に連れて行った。

ロン「キーシュ君、紹介するよ、この人が喫茶店の店長のシン!」

キーシュ「どーも・・・」

ロン「それでこの子がキーシュ君」

シン「よろしくね」

キーシュ「は、はい、よろしくお願いします」

シン「そんなかしこまらなくていいよ、気楽にゆっくりしていって」

キーシュ「ありがとうございます」

ロン「あ、、いつもの席空いてる!ラッキー!」

キーシュはロンに付いていくとロンの向かいの席に座った。

シン「何にする?」

ロン「俺はオムライスで!」

キーシュ「えーと・・・じゃあ僕も同じもので」

シン「ホームズ君と同じものね」

シンは注文を聞くと厨房に入ってオムライスを作り始めた。

キーシュ「ねぇ、ホームズ君って?」

ロン「あー、ホームズって言うのは俺のあだ名なんだ」

シン「そうそう、ロン君はねこれでも探偵なんだよ」

ロン「もー、これでもってひどいなワトソン君」

シン「ごめんごめん」

キーシュ「探偵・・・ロン君って凄い人なんだね」

ロン「凄いって言ってもほとんどバイトみたいなものだよ」

シン「いやいや、大人顔負けの君の推理力は大したものだよ」

キーシュ「へぇ・・・見てみたいなぁ僕もその推理を」

ロン「それは企業秘密だよ」

キーシュ「じゃあ一つ教えて、シンさんがワトソン君っていうのは?」

ロン「それは、シンが俺のフォローを色々としてくれているからだよ」

シン「ロン君は推理力は抜群なんだけど手のかかる子だからね、はい、オムライス二つね」

テーブルの上にコトンと置かれたオムライスは昔ながらのシンプルなタイプのオムライスだ。

食欲をそそるいい香りが湯気と共に立ちこめている。

ロン「シンの作る料理はシンプルだけどとっても美味しいよ!食べてみて!」

キーシュ「うん、ぱくっ、ん!美味しい!」

ロン「でしょでしょ!」

シン「口にあったみたいで良かったよ」

キーシュ「このお店、初めて来たけどいいお店ですね!」

シン「ありがとう」


カラン。

喫茶店の入り口のベルが鳴ると、一人の女性が入ってきた。

メアリー「あら、ホームズ君、今日はお友達と来てたのね」

ロン「うん、大学の同級生のキーシュ君」

メアリー「キーシュ君、よろしくね、私はメアリーよ」

キーシュ「メアリーさん、こちらこそよろしくお願いします・・・」

メアリーはテーブル席ではなくカウンターに腰掛けた。

メアリー「店長さん、紅茶を頂けるかしら?」

シン「ホット?アイス?」

メアリー「そうね、今日はアイスにしようかしら」

シン「OK」


キーシュはメアリーをじっと見つめている。

そんなキーシュをロンは見ていた。

キーシュ「はっ、ごめん、メアリーさんがあまりに綺麗な人だからつい・・・」

ロン「メアリーは美人だからね、見惚れるのも無理ないよ」

キーシュ「メアリーさんもロン君をホームズ君って呼んでたね、仲良いの?」

ロン「うん、彼女はよき友達だよ」

キーシュ「そうなんだ・・・あ、僕ちょっとトイレ行ってくるよ」

ロン「うん」


キーシュがトイレに立っている間にロンはメアリーのところに行った。

ロン「メアリー、そのピアス付けてくれてるんだね」

メアリー「どう?似合ってるかしら?」

メアリーは耳をロンの方に向けて見せた。

ロン「うん、凄くよく似合ってるよ、そのピンク色のレースのワンピースにピッタリだよ」

メアリー「ふふ、ありがとう、なんて言ってもあなたがくれたピアスだものね

ホームズ君は本当にセンスがあるわ」

ロンは微笑むとメアリーの手に口付け、席へと戻った。


キーシュがトイレから戻ってきた後、小一時ほど雑談を交わす。

キーシュ「ロン君、僕はそろそろ帰るよ」

ロン「おっと、もうそんな時間か、今日は付き合ってくれてありがとね」

キーシュ「ううん、僕の方こそ誘ってくれてありがとう」


キーシュが帰った後。

メアリー「キーシュ君、シャイで可愛い子ね」

シン「キーシュ君、メアリーさんのことじっと見ていたね」

メアリー「ええ、彼の視線は時折感じていたわ」

ロン「メアリー、ダメだよ?キーシュ君に手出しちゃ」

メアリー「あら、妬いてくれているの?名探偵のホームズ君は」

ロン「そりゃあ君が他の男の人のことを考えていたら

例え俺が本物のシャーロックホームズでも妬いていたよ

シャーロックホームズはアイリーンアドラーには敵わないから」

メアリー「なるほど、それならホームズ君を妬かせられるのは私だけってわけね」

ロン「そうだよ、この世で唯一ね」

メアリーは一瞬ロンの目を見つめると。

メアリー「私もそろそろ帰るわ」

ロン「だったらタクシー呼ぶよ」

メアリー「いいわよ、歩いて帰るから」

ロン「ダメだよ、外はもう暗いんだから」

メアリー「まだ7時よ?子どもじゃないんだから大丈夫よ」

ロン「7時でも暗いんだから危ないよ、ただでさえアイリーンは狙われやすいんだから」

メアリー「もう、分かったわよ、ホームズ君は心配性ね」

シン「ほんと相変わらずロン君は過保護だねぇ」

ロン「当たり前だよ、アイリーンはか弱いレディーなんだから」

メアリー「ふふ、それならホームズ君、タクシーに私が乗るまでエスコートしてくれる?」

ロン「もちろん」

シン「ロン君はメアリーさんの頼れるボディーガードだね」

メアリー「ホームズ君、頼りにしてるわよ」

ロン「うん、任せておいて」




第五話 デートの約束

ロンがメアリーをタクシーまで送る。

メアリー「じゃあねホームズ君、また明日、楽しみにしてるわ」

ロン「メアリー」

ロンはメアリーの頬に口付けるとそのまま耳の近くであることを小声で伝えた。

ロン「メアリー、明日のデートはハイネックの服を着てくれない?」

メアリー「それは構わないけど、急にどうしたのよ?」

ロン「君はいつも露出が多いから他の男に狙われないか心配なんだよ

ただでさえ君は絶世の美女、まさにアイリーンアドラーなんだから」

メアリー「ふふ、分かったわ、明日は必ずハイネックの服を着てホームズ君に会いに行くわ」

ロン「ありがとう」


メアリー"ホームズ君ったら何を企んでるのかしら、

いつもは服に関して口を出して来ない彼が珍しくハイネックを着て来てくれだなんて、

明日、何が起こるのかしら、

ふふ、面白くなってきたわね"




第六話 モリアーティ捕獲

デート前日。

シン「え、犯人が分かった!?」

ロン「うん、やっと分かったよワトソン君」

シン「それで、誰が犯人なんだい?」

ロン「それはまだ秘密だよ、まだ誰にも話していない、メアリーと約束していてね、犯人が分かったら一番最初に教えるって、

明日のデートで話したらワトソン君にも教えるよ」

シン「やれやれ、ワトソンはアイリーンに負けてしまったか」


デート当日。

ロン「メアリー、夜景を見に行かない?」

メアリー「あらいいわね、行きましょう」

二人はレストランで食事をした後、夜景が見える公園に来た。

メアリーが異変に気付く。

メアリー「ねぇ、ホームズ君、私たち付けられてるわ」

ロン「うん、分かってる、ねぇ、そろそろ隠れてないで出てきてもいいんじゃない?」

物陰から姿を現したのは・・・。

メアリー「え、シンさん?どうしてあなたがここに・・・」

シン「やだなぁ、私はたまたまここを通りがかっただけだよホームズ君」

ロン「ワトソン君が俺達を尾行するって分かっていたよ、昨日、犯人が分かったとあなたに話をしたあの時点でね」

シン「・・・」

ロン「ね、ワトソン君、それともモリアーティって呼ぶべきかな?」

メアリー「え、シンさんがモリアーティだったの!?」

ロン「変だと思ったんだよね、俺達の話を聞いたかの如く行動するジャックザリッパーがさ、

写真を落としたのに現場に探しに来なかったし、

それは写真が誰かの手元にあるって知っていたからだ、

この類の話は喫茶店でしかしていない、にも関わらず情報が漏れていた、

この喫茶店には盗聴器や監視カメラはあなたが不在の時に調べたけどなかった、

他の客がいる時にこの手の話は禁じられているし、

となれば犯人はこの喫茶店に来ていて尚且つ調査をしている俺達の中にいることになるじゃない?

俺が写真の話をしたのはマキタのおじいちゃんとシンだけ、

マキタのおじいちゃんはジャックザリッパーに遭遇して写真を抜き取っていたし足が悪いのは本当だからモリアーティじゃない、

だとしたらシンしかいないって訳、

今まで事件が起きた直後に喫茶店にいなかった人はいないから、

ジャックザリッパーだけは別にいるはずだけどね」

シン「お見事だよホームズ君」

ロン「シン、今すぐあんたの身柄を拘束する、覚悟して」

シン「フッ・・・」

シンは一番近くにいたメアリーの腕を強引に引っ張った。

メアリー「きゃあ!!」

ロン「メアリー!!」

シン「動くな、動くとお前の愛しいアイリーンの首が掻き切れるぞ」

メアリーの首元に鋭利な刃物がギラリと光っている。

ハイネックの服を着ているとはいえ、男の力で本気を出せば軽傷では済まない。

ロン「・・・」

シン「そうだ、そのままじっとして・・・!?ぐわっ!!」

シンが言い終わる前にメアリーは首に刃物が当てられたままモリアーティを背負い投げしてしまった。

その衝撃で首元の服がザクッと破れ、シンの手から離れたナイフがカシャンと音を立てて地面に転がった。

シン「な、ばかな・・・・・」

・・・。

投げとばさた衝撃でシンは意識を失った。

メアリー「あらあら、ホームズ君が今日のデートはハイネックの服を着て来てくれなんて言うから変だと思ったのよ

こういう事だったのね」

ロン「メアリー、首大丈夫!?」

メアリー「ええ、念の為、首に包帯を何重にも巻いていたから、

切れたのは服と包帯だけよ」

メアリーはそう言って自分の首から包帯を解き、シンの腕を拘束した。

ロン「はは、さすが俺が唯一惚れた女なだけあるね」

メアリー「ふふふ」


モリアーティ拘束後。

シン「くそ・・・まさかこの女がこんなに強かったとは・・・」

ロン「アイリーンを普段からか弱い女性扱いしてたのは、アイリーンに対して警戒させない為

そうしとけば先入観から相手が弱いと勝手に油断するだろう?

今それが証明されたよ」

メアリー「ホームズ君、私を売ったのね?」

メアリーの顔は笑っているが冷ややかな空気が漂っている。

ロン「売ったなんて人聞きが悪いなぁ、俺は君を信用して今回の計画を立てていたんだよ?」

メアリー「信用してくれているっていうのは分かっているわ、でもなんだか面白くないわ」

どうやらメアリーは少し拗ねているようだ。

いつもは大人びたメアリーがたまに見せる子どもっぽい表情だ。

ロン「ごめんって、今度、夜景が見えるレストラン予約するからさ」

メアリー「あら、食べ物で釣るなんて私そんな安い女じゃないわ」

ロン「機嫌直してよメアリー」

シン「ホームズ君」

ロン「!」

シン「君は最初から俺に目をつけていたのか?喫茶店に来たあの日から」

ロン「いやいや、さすがにそこまでは分からなかったよ、ただ、奥の手は最後の最後まで秘密にしておくものなんだ、

手の内は全て明かさない、

例えそれが身内でも恋人でもね」

メアリー「あら、ホームズ君、カッコつけているところ悪いけれどそれは私があなたに言った台詞よ?」

ロン「もー、今カッコつけてる最中なのに〜!」

メアリー「ホームズ君にばかりいい格好はさせないわよ」

ロン「本当敵わないな君には」

シン「ホームズ君、残念だが私を拘束しても奴は止まらないよ」

ロン「?あんたが奴に殺害の指示をしていたんじゃないの?」

シン「ああ、最初はしていたさ、だがそれも最初の二人まで、途中からは私の指示がなくても動くようにまで成長したんだ」

ロン「最初の二人までって・・・それからはずっと自分の意思で殺してるって事?」

シン「ああ、しかし、それだけじゃない、近々、もっと大きな事件が起きる、今までのように一人ずつなんて半端な殺しではなく一気に沢山の人間を殺せるような大きな事件がね、

私が捕まった暁には実行するよう伝えてある、

そして私が捕まったことはもうすでに彼は知っている、

彼はもう止まらないよ」

もっとも、誤算だったのはジャックザリッパーが本気でアイリーンに惚れてしまったこと。

やはり彼はまだ未熟過ぎた。

おそらく、近いうちに彼もホームズ君達の手によって捕まるだろうな。

ロン「な!ジャックザリッパーはいつ、どこで、何をする気なんだ!?」

シン「それは言えないな、なんなら私を拷問にでもかけて吐かせてみるか?」

ロン「く・・・」

シン「そう、ホーム君は分かっているはずだ、私は例え拷問をされても吐かない上に、その行為はジャックザリッパーを野放しにする時間稼ぎにしかならないと」

ロン「くそっ!」

メアリー「とにかく、彼は警察に引き渡しましょう」

ロン「うん」

一体何を依頼したんだ?・・・女性とは言っていなかったから今度は男性もターゲットになり得る?

一気に、沢山の・・・もしかすると爆弾を使って・・・。


その後、シンが逮捕されたことでなぎさ喫茶は廃業となった。




第七話 ホームズ失恋?

モリアーティ捕獲後から数日。

カフェのテレビ「昨夜、また一人の女性が殺害されました、事件現場にある赤い土は特殊なもので、このあたりに同じ土がある場所はないそうです」


ロンとメアリーはカフェで話をしていた。

ロン「メアリー、今日は夜まで一緒にいたいんだけど」

メアリー「ごめんなさい、今夜は先約があるの」

ロン「それって男?」

メアリー「そうよ」

ロン「俺がプレゼントしたワンピースを着て他の男に会いに行くなんて君は罪なことするねぇ」

メアリー「あら、だから着ていくのよ?他の服じゃこころもとないもの」

メアリーが普段使わない"心もとない"というその言葉にロンは何かに気付いた。

少なからず彼女の中に"その先約と言われた相手"に対して心細さや不安といった感情があるのだとすぐに分かった。

そんな相手は一人しかいない。

ロン「メアリー」

メアリー「あら、何かしら?」

俺はメアリーに耳打ちした。

メアリー「ふふ、分かったわ」

ロン「くれぐれも気をつけて行ってらっしゃい」

メアリー「ありがとうホームズ君」

メアリーはそう言うとロンの頬に口付けをした。


膝下まである白いレースのワンピースには黄色の小さなミモザの花が散りばめられている。胸元の鎖骨には華奢なネックレス。足元は赤いハイヒール。手には赤いクラッチバッグ。

色白な肌にウェーブがかった栗色の髪が歩くたびにまるで男を誘惑するかのようにゆらゆらと揺れる。

でも、メアリーの魅力は容姿だけではない。

決して男にスキンシップを軽々しくして勘違いをさせるようなことはしないし、どんなに言い寄られても自分が決めた特定の相手としか寝れない。

これは俺の願望も入っている。

フワフワした話し方をしているけど自分の意思はしっかりと持っている。

しかも自分の身は自分で守れるほど武術に長けている。

彼女はその体からはとても想像できないが柔道のプロだ。

おおよその男は彼女に勝てないし、俺も護身用に空手は習っているけど彼女に本気を出されたら勝てる自信はない。

遠くなっていく愛しい人の背中。

アイリーン、君は本当に人の心を魅了する才能がある。

そう、例えそれが殺人鬼の心であっても。


・・・。


とあるバー。

メアリー「ごめんなさい、待たせちゃったかしら?」

「いえいえ、僕も今来たところですから気にしないで下さい」

メアリー「そう、それなら良かったわ」

「今日のワンピース、とてもよくお似合いですよ」

メアリー「ありがとう、ーー君もそのスーツ似合っているわよ」

「ありがとうございます、あなたにそう言ってもらえるなんて光栄です」




第八話 パーティー

ロン「へぇ、メアリーのパーティーか」

メアリー「ええ、来てくれるかしら?」

ロン「もちろんだよ、なんてったって君を祝うパーティーなんだから」

メアリーが描いた絵が賞を取り、パーティーが開かれることになった。

メアリーは趣味で水彩画を描いている。

メアリー「ありがとうホームズ君」

ロン「キーシュ君も誘っていいかな?」

メアリー「ええ、もちろんよ」

ロン「じゃあメールで聞いてみるね」


数分後。

キーシュ「分かった、僕もそのパーティーに出席するよ」


1週間後。パーティー会場。

会場に入ると、薔薇の花が至る所に綺麗に飾られていた。

メアリー「まぁ、綺麗な薔薇がこんなに沢山!」

ロン「メアリー、君の方が綺麗だよ」

メアリー「ふふ、ありがとう」

キーシュ「メアリーさん、ロン君」

ロン「やぁキーシュ君!人が沢山いる場所は苦手だって言ってたけど大丈夫?」

キーシュ「うん、メアリーさんの絵をどうしても見たくてね

僕も絵を見に美術館にはよく行くから、

でも、絵を見終わったら僕は先に帰るよ」

ロン「そっか、分かった!」

メアリー「キーシュ君ありがとう、この薔薇の装飾はキーシュ君が担当してくれたのよね?」

キーシュ「はい、僕が務めさせて頂きました」

ロン「へぇ、キーシュ君が」

キーシュ「僕が花屋でアルバイトしてるのは君も知ってるだろう?」

ロン「うん」

キーシュ「その花屋の店長さんがパーティーの主催者と知り合いでね、

僕がパーティーに出るって話をしたら僕にパーティーの飾り付けをやってみないかって言ってくれたんだ、

こんな機会なかなかないから引き受けることにしたんだ」

ロン「なるほどね」

キーシュ「メアリーさんには薔薇が一番似合うかなと思ったんです」

メアリー「あら、それで薔薇にしてくれたのね、ありがとう、会場が薔薇のいい香りに包まれているわ」

キーシュ「喜んでもらえて良かったです」




第九話 薔薇の香り

パーティーの途中、メアリーの異変に気付いたロン。

ロン「メアリー、具合悪いの?」

メアリー「ホームズ君、さっきから頭がクラクラするのよ」

メアリーは頭を押さえている。

ロン「絵の披露は終わったんだし今日はもう帰らせてもらおうよ」

メアリー「え、ええ・・・」


しかし、メアリーだけでなく会場にいた人達の中にメアリーと似たような症状を訴える人が現れ始めた。

女性1「急に気持ち悪くなってきたわ・・・」

男性1「おい、大丈夫か?」

女性2「頭痛い・・・」

女性3「私もさっきから・・・」


ロン「何だ?一体何が・・・スン、ん?今薔薇の匂いに混ざって一瞬変な匂いが・・!今の匂いまさか」

ロンが異変に気付いたその時。

バチン。

女性1「きゃあ!!」

女性2「何!?どうしたの?」

男性1「何かのサプライズか?」

メアリー「変ね」

ロン「うん、これはただの停電じゃない」

男性2「おい誰か明かりを付けてくれ」

男性3「それなら蝋燭がある、ライターで火を」

ロン「!ダメだ火を付けちゃ!!」

ボォっと小さなライターの火は付けた瞬間に大きな炎へと一瞬にして姿を変えた。

ドオォン!!!

ロンは咄嗟にメアリーを引き寄せたが、爆発の衝撃から数メートル吹き飛ばされてしまった。

先に起き上がったメアリーはロンに声をかけた。

メアリー「ロン!」

ロン「メアリー、怪我は?」

メアリー「私はないわ、あなたが庇ってくれたから、でもホームズ君が」

ロンもメアリーに心配をかけまいと起き上がろうとする。

ロン「いたた・・・あーメアリー、大丈夫大丈夫」

メアリー「大丈夫って、私を庇ったままあんなに吹き飛ばされて大丈夫なわけ・・・がばっ」

何かに気付いたメアリーはいきなりロンの服を捲り上げた。

ロン「うわ!?メアリー、こんなところで脱がせてくるなんて君はなんて情熱的なんだ」

メアリー「もう、何ふざけてるのよ、動かないで」

ごそごそ。

メアリー「やっぱり」

ロンはスーツの下に防弾チョッキを着ていた。

メアリー「ほんとあなたって抜け目ないわね」

ロン「まぁね・・・いつっ・・・」

メアリー「ロン!頭から血が出てるわ」

ロン「大丈夫、少し切れただけだよ」

メアリー「とにかく早くここを出ましょう」

ロン「うん・・・」(ふらっ)

ロンは頭を強く打った衝撃でその場に倒れ込んでしまう。

メアリー「ロン!!」

 

この日、パーティーにてガス爆発が起きた。

ガス漏れの発見が遅れた為、かなり広範囲にガスが充満した後に爆発。

爆発の被害によりパーティー会場にいた半分近くの人が亡くなった。

ロンはすぐに病院で検査を受けた。

頭を強く打って血が出ていたものの、大事には至らなかった。

倒れたロンを運び出したのは他ならぬメアリーだった。

メアリーは防弾チョッキを脱がせた後、ロンを背中に担ぎ建物の外へ急いで出たのだ。

ロンが病院の帰り道にメアリーに"俺、メアリーには頭が上がらないよ"と言うと"ふふふ"っとメアリーは返したのだった。


事件の次の日。

テレビのニュースを見たキーシュはロンにメールを送った。

明日、事件の事を話すよとロンは返した。

喫茶店は閉まっていたが、取り壊すまでにまだ日数はあった為、そこで話をすることになった。

マキタ「やぁ」

キーシュ「マキタさんも来ていたんですね」

マキタ「私も事件当初の話を詳しく聞かせてもらおうと思ってね、お邪魔するよ」

キーシュ「いえいえそんな」

ロン「そう、だからちょうどいいからマキタのおじいちゃんも呼んだんだ!」

メアリー「マキタさんもホームズ君に負けないくらい好奇心旺盛だから」

キーシュ「ロン君!メアリーさん!爆発に巻き込まれたって聞いたよ、怪我は大丈夫?」

ロン「うん、大丈夫だよ、この通りメアリーも無事だ」

キーシュ「そうか、良かったよ」

ロン「残念だったね、俺達を殺せなくて、キーシュ君、いや、ジャックザリッパー」

キーシュ「え・・・な、何言ってるんだよホームズ君!頭打っておかしくなっちゃったの?僕がジャックザリッパーだなんてそんなはずないでしょ」

メアリー「警察の方が言っていたわ、これだけの被害になるほどガスが充満し切っていたのに誰一人匂いに気付かなかったのは妙だってね」

キーシュ「ちょっと待ってよ、それでどうして僕がジャックザリッパーになるんだよ?」

ロン「これだけのガス漏れに誰一人気付かなかったのは・・・薔薇の花の香りだよ、

薔薇は花の中でもかなり香りが強い、

あれだけ薔薇の香りに包まれた部屋でガスの匂いに気付かなくても無理はない、

換気もしている様子はなかったし、

そして、パーティー会場にやけに多い薔薇を飾った人こそガス漏れと停電を起こした人物、

そんな事ができるのはパーティーの途中で抜け出したキーシュ君だけだ、

なにより、パーティー会場の飾り付けは花屋のアルバイトをしている君が任されていたと言っていたしね」


キーシュ「ちょっとホームズ君、花屋のアルバイトしているというだけで、薔薇の花を飾っただけで僕を犯人扱いする気かい?

途中でパーティーを出たのだって人酔いをしたからなんだよ

僕が人が多い場所が苦手なのはホームズ君も知ってるじゃないか」

ロン「もちろん他にも証拠はあるよ」

キーシュ「じゃあそんなに言うなら見せてよ、僕がジャックザリッパーだというその証拠をさ」

ロン「靴に付いた赤い土」

キーシュ「!?」

キーシュはその言葉に一瞬動揺し、自分の靴を見た。

ロン「実はね、キーシュ君がいない間にこっそり鑑定してもらってたんだ

君の靴の裏に付いている赤い土をね」

キーシュ「い、いつの間に・・・」

ロン「酒と女には溺れるな」

キーシュ「!?」

ロン「デートは楽しかった?」

キーシュ「まさか・・・」

キーシュは信じられないといった表情でメアリーを見た。

ロン「気付かなかったでしょ?君が酔い潰れている間にアイリーンがこっそり靴の裏の土を採取していた、なんてさ」

キーシュ「そんな・・・」

ロン「それに、アイリーンは普段からワンピースを着てハイヒールを履き、香水を付けている、

なのに今まで一度も狙われなかった

人目を引くこんな綺麗な女性なのにも関わらず」

メアリー「まぁ、ふふふ」

ロン「だから俺はこう思ったんだ、君はアイリーンには心を許していたみたいだし、もしかしたらアイリーンに本気で惚れているんじゃないか、ってね、

それならアイリーンだけ狙われなかったのも分かる」

キーシュ「僕を騙したんですね、メアリーさん」

メアリー「ごめんなさいね、ホームズ君が困っていたから助けてあげたくなっちゃったの」

ロン「キーシュ君、教えてくれない?

君は事件があった日はずっと家で本を読んでいたと言っていたね、

ならどうして、事件現場にあった特殊な赤い土が君の靴に付いているのかな?」

キーシュ「そ、それは、事件より前にあの場所に行ったことがあるからその時にたまたま付いたものじゃないかな?」

ロン「変だなぁ、調べた結果によるとあの赤い土は事件があった前日に完成されたもの、事件より前に訪れていたとしても靴に付くはずはないんだけど」

キーシュ「くそ・・・!」

キーシュはポケットからナイフを取り出した。

ロン「!」

ガッ!!

キーシュ「いたっ!!」

その瞬間、マキタが杖を使ってキーシュのナイフを持っている部分を叩き、ナイフが飛んでいった。

間髪入れず、メアリーがキーシュの腕を掴み投げ飛ばした。

キーシュ「ぐあっ!!」

倒れたキーシュにマキタが杖を突き出した。その先端は鋭く、どうやら仕込み杖だったようだ。

マキタ「観念したまえ」

キーシュ「あ、あんた、足が悪いはず・・・それに仕込み杖まで・・・」

ロン「マキタのおじいちゃんは確かに昔は足が悪かったみたいだけど、今ではすっかり良くなってるんだってさ」

マキタ「歳には勝てんがな」

ロン「キーシュ君、どうして母親を殺そうとしたんだ?

どうして罪のない人達まで」

キーシュ「・・・あの女は僕を捨てた、今でも覚えているよ、雨が降る夕方だった、

僕はあの女を真っ先に殺しに行こうとしていた、でも、探しているうちに似ている女性を見ると殺意が湧くようになった

最初はそんな自分に戸惑ったし罪悪感もあった

でも、そんなある日、シンさんと出会った、

僕を苦しめる奴らなんて一人残らず殺してしまえばいいって言われてね」

ロン「君は本当は素直で優しい子だったんだよ、君はシンに洗脳されていただけなんだよ」

キーシュ「違う!僕は自分の意思で殺人を犯してきたんだ、

でも、肝心のあの女だけは探し出せなかった、いや、探し出せなくなってしまった、

ロン君、君が少年探偵団を使い、上手くかくまってしまったせいでね、

シンさんからはかくまったという情報は届いていたけど、場所までは把握できなかった、子ども達の居場所もね、

そして、ついにシンさんは君たちに捕まってしまった」

ロン「それで俺まで殺そうとしたのか、メアリーや他の人達まで巻き込んで」

キーシュ「君さえ殺せれば他はどうだって良かったんだ、シンさんの言い付け通りに大きな事件を起こすことに成功したしね、

母親に捨てられて、引っ込み思案で、友人もいなかった

僕の味方はシンさんしかいなかったから、

だけど、メアリーさんだけは殺したくなかった

事件を起こすまでになんとかメアリーさんと君を引き離したかったけど、出来なかった、

自分のものにしたい欲求も抑えられなかった、

だから、それならもういっそのこと君もろともメアリーさんも殺してしまおうとね、

今までの殺してきた女性達と同様に!」

ロン「キーシュ君、君が殺人鬼じゃなかったら俺はずっと君の友人でいたし味方だったよ」

キーシュ「!・・・・」

メアリー「キーシュ君、ホームズ君だけじゃないわ、私もそうよ、周りの人もきっとあなたが普通のシャイな男の子だったなら味方でいてくれたはずよ」

キーシュ「っ・・・」

二人の言葉を聞いたキーシュは深くうなだれた。

こうしてロン達はついにモリアーティ、そしてジャックザリッパーを捕まる事に成功した。




第十話 事件解決後

ジャックザリッパーが捕まった日の夜。

ホテルの一室。

メアリー「ねぇ、ホームズ君、本当は喫茶店に来た時からシンさんが犯人だって分かっていたんでしょう?」

ロン「まぁね、店の開店日と一番最初に起きた事件の日が一致していたから

これは単なる偶然じゃないだろうなって思ってたよ

シンとキーシュ君が顔見知りなのもすぐに分かったしね」

メアリー「顔見知りっていつから気付いていたの?」

ロン「キーシュ君、なぎさ喫茶には初めて来たって言っていたのにトイレの場所を聞かなかった、目印もなく、分かりにくい奥側にあるのにも関わらずね」

メアリー「そう言われるとそうね」

ロン「あの喫茶店の店員は店長であるシンだけ、だから、来たことがあるとすれば二人が顔を合わせていないはずない、彼はシンとなんらかの接点がある、それを隠したいってことは知られたらマズイ何かがある、

だからモリアーティがシンだと分かった時、ジャックザリッパーは彼かもしれないって思っていたんだ」

メアリー「さすがはホームズ君ね」

ロン「でも、確証はなかった」

メアリー「そうよ、だから彼を酔いつぶせば何かボロが出るんじゃないかって思ったのよ」

ロン「それで彼をデートに誘ったわけだ」

メアリー「ええ、でも、それだけじゃボロは出なかったわ、

ホームズ君が赤い土のことを思い出させてくれたから上手く証拠を掴めたの、

でも悔しかったなぁ」

ロン「何が?」

メアリー「私がデートに行くって言ったらすぐに相手が分かっちゃうんだもの」

ロン「あれは君が心もとないって言ったからだよ、君がそう思う相手なんて殺人犯くらいしかいないよ、君に誰が怪しいか伝えた直後だったしさ」

メアリー「もぅ・・・ホームズ君に隠し事はできないわね、どうかした?」

ロン「苦いな」

ロンは紅茶を飲みながらポツリと呟いた。

メアリー「あら、その紅茶苦かったかしら?いつもと同じなんだけど」

ロン「うん、今日は凄く渋いし苦いよ」

メアリーはベッドの脇に座って紅茶を飲んでいるロンの頭をそっと撫でた。

ロン「メアリー?」

メアリー「ホームズ君、落ち込んでいるかと思って」

ロン「・・・」

メアリー「二人を捕まえたこと後悔しているの?」

ロン「まさか、そんなはずないよ」

メアリー「そう?でも顔に寂しいって書いてあるわよ」

ロン「正直に話すと今回ばかりは少しこたえたね

周りの人間を疑い続けなきゃいけないのも大変だなぁって思ってさ

どんなに仲良くなっても隙を見せないようにしなくちゃいけないし、心の片隅では疑っていなきゃならない

そう思うとなんだかやるせないなって」

メアリー「それなら探偵を辞める?」

ロン「ううん、辞めない、仮に辞めたとしても疑う癖は抜けないだろうし、辞めたからと言って全てをさらけ出せる人間になれるとも思えない

結局、探偵だからじゃなくて俺だからなんだろうね」

メアリー「じゃあ試してみる?ホームズ君が全てをさらけ出せないかどうか」

ロンはフッと笑うとメアリーに口付けをし、そのままベッドに押し倒した。

メアリーを抱いた後に飲んだ二杯目の紅茶は甘かった。

本当に単純だけど。切り替えが早い頭で助かった。

その夜、案外自分は探偵に向いているんじゃないかと思いながら眠りにつくのだった。

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