第五話 女子剣客団
大阪に『女子剣客団』という会がある。
剣術好きの娘さんたちで結成された親睦会だ。その歴史は古く、なんと師匠の奥さんも、何代目かの『筆頭剣客』を務めていたという。
女子剣客団は年に何度か、京都の屠龍館にも出稽古に来ていた。
師匠と奥さんの馴れ初めも、この辺にあるらしい。
この女子剣客団の出稽古のときは、奥さんが道場に立って指導する。
「では、稽古を始めます。何事も基本が大切です。初心に帰って、基本通りに剣を振って下さい」
まずは、木刀の素振りから始まった。
屠龍館の門弟二十一人も、その日は総出で、胸をときめかせながら、稽古相手を勤める。
今日は、十六人の娘さんたちが来ていた。
奥さんは、すでに四十代だが、見た目は若々しく、色白で、まだまだ美人だ。
特に木刀を振る姿は、僕の目から見ても、美しかった。
女子剣客団の間では、屠龍老荘流は『美容の流派』だと、真しやかに囁かれているという。
その女子剣客団の現在の筆頭剣客は、
大島優花。寿司屋の娘さんで、小柄だが、目がパッチリとしていて美人だ。剣術も当然、強い。
屠龍館の門弟の間でも、優花は一番人気だった。
彼女は寿司屋の看板娘だけって、人から好かれる愛嬌がある。
「わたしには剣の才能はありません。ただ剣術が好きで、一生懸命やってきただけです」
などと発言するのが、また好感度を上げていた。
対して、屠龍館の紅一点の綾姉は、武家の娘さんであるためか、無愛想だ。
そこが違う。
その綾姉と優花が、試合をすることになった。
奥さんが、
「久々の出稽古だし、筆頭剣客と紅一点で試合でもしたら、どうかしら」
と、二人を、けしかけたのだ。
この一戦には、屠龍館の門弟も、女子剣客団の面々も、興味津々で大注目した。
こうなれば、お互いに負けられない。
僕から見て、綾姉と優花は、互いに相手を意識するところがあるのか、対抗意識を持っているような気がする。
その二人を戦わせる、奥さん。
女子の世界は恐ろしい。
綾姉と優花。二人が防具を着けて、対峙した。
優花は、面を赤い紐で結んでいる。洒落者だ。彼女は小柄だし、男から見たら、こういう姿は可愛い。
だが綾姉は、こういった洒落っ気を、毛嫌いする質だ。
二人が一礼すると、道場は静まり返った。
京都対大阪の女子頂上対決。綾花と優花、花花対決でもある。
試合前から緊張感が漂い、二人の間には、見えない火花が散っているようだ。
竹刀を構えて、睨み合う二人。両者、面の奥から、物凄い目力で相手を見ている。
「始め!」
奥さんの掛け声で試合が始まった。
綾姉が、
「イヤァーッ!」
気合いを発すると、
「エェーイッ!」
と、優花が応じる。
ダン!
両者、踏み込んだ。
バヂン!
正面から激突する。
竹刀を打ち合う、二人。
バヂン!
バシン!
バシーンッ!
真正面かの叩き合いだ。
「イヤァッ、イヤッ、イヤァーッ」
「エェーイッ、エーイッ、エイッ」
両者、一歩も引かない。
女子の戦いは感情的になるというが、この試合には殺気さえ感じる。
竹刀を合わせ、
ガコッ、
つばぜり合いをする、優花と綾姉。
物凄い力で、押し合っているように見える。
意地と意地のぶつかり合いになった。
「止め」
奥さんが、一旦止めて、両者を引き離す。
「始め」
試合が再開すると、
「イヤァーッ」
綾姉が面を狙う。
優花は胴を、打った。
「エェーイッ」
バシン!
相討ちだ。
結局、この試合は引き分けとなり、勝負はつかなかった。
試合後、面を外しても『視線を合わせない』二人。
奥さんは『何食わぬ顔』で、
「良い試合でした」
と、言っている。
「本当に女子の世界は恐い」
と、僕は思った。