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幕末《剣客未満》屠龍の剣  作者: あきやす・もぶゆき
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第四話 局長・芹沢鴨

丼部衛と平間の事件の数日後、


「壬生浪士組局長、芹沢鴨である!」

今度は、浪士組の親玉が乗り込んできた。


僕が応対にでると、


「小僧、道場主を出せ!」

と、かなりの高圧的な態度で、迫っくる。少々、酒気も帯びているようだ。


しかも隊士を十名、引き連れていた。


率いられた隊士は、皆、火消しの破壊道具である、とび口、大のこ、大刺又などを担いでいる。


道場を、打ち壊すつもりなのか。


だが、

「何の騒ぎですかな」

と、師匠が表に顔を出すと、


芹沢は態度を急変させる。

「おっ、これは、これは、湖龍斎先生では、ありませんか」


「芹沢殿か、久しぶりだな」

「ウチの者が、ご迷惑をかけたようで」


そして芹沢は、平間の仲間だった四人を前に出し、


「つきましては、この者共、切腹、致します」


「きょ、局長!」

顔面蒼白になる四人。


「待って下さい」

「なぜ」

「我々が」


師匠は呆れて、

「切腹されても、さらに迷惑だ」


この言葉を待っていたかのように、芹沢は、

「お前たち、ご恩赦だ。御礼を申せ」


「あ、ありがとうございます!」

四人は、切腹を免れた。


「芹沢殿、今度はシラフの時に来なさい」

「そう致します」

そう言って、この日は引き上げていった。


「師匠、あの局長さんとは、お知り合いですか?」

「昔、江戸で一度、顔を会わしたことがある。彼は神道無念流の免許皆伝だ。だが、酷く酒乱な男だよ」


芹沢鴨率いる壬生浪士組は、不逞浪士を取り締まり、京都の治安維持に貢献している。


だが、隊士の素行は悪く、傍若無人に振る舞い、町人を相手に乱暴狼藉を働いていた。京の町の人々は、彼らを壬生の狼『壬生狼』と呼んで、忌み嫌っている。



そして、その翌日。


芹沢が単身、道場に姿を現した。


「湖龍斎先生。約束通りシラフできました。一手、ご教導を、お願います」

手には木刀を携えている。


通常、木刀での手合わせは、体には当てずに止める。だが、芹沢は当てる気だろう。そのような殺気が、全身からみなぎっていた。


真剣の勝負に近い戦いを、彼は望んでいるのか。


「よろしい」

と、師匠も木刀を取り、応じる。


この時、師匠は物凄い闘気を発していた。こういう師匠は、あまり見たことがない。本気なのだ。


だが、構えは基本通り。


師匠は『構え』『攻撃』『防御』の全てで『基本的』な、動きしかしない。


だが、それは、研鑽の上に研鑽を重ねた『基本』だ。


「では」

と、芹沢が一礼し、


「いやぁーッ!」

甲高い気合いを発する。


ビューンッ。

鋭い一撃。


カコーンッ!

木刀で受ける、師匠。


そして芹沢の連続攻撃。


カツン!

カッ!

カコンッ!


師匠は基本の受けで、完璧に防いだ。


直後。


気合い一閃。


「いやぁーっ!」


師匠の一太刀。


ブオォンッ!


基本の通りの面打ちだが『業』の格が違った。


ガコッ!

辛うじて、木刀で防ぐ芹沢。


そして、


バッ、

と、芹沢は後ろに退いた。


「参りました」

潔く、一礼する芹沢。


「屠龍の業、感服致しました。有難う御座います」


頭を下げた芹沢は、そのまま道場を去ろうとしたが、


「芹沢殿」

と、師匠が呼び止める。


「芹沢殿。名人達人と呼ばれる者は、やたらと人を斬らないものだよ」


「はあ、ですが、私は未熟者ですから」

そう言って笑う、芹沢。


「芹沢殿、また来なさい」

「はい。生きていれば、参ります」


冗談のように言った芹沢だが、この後、本当に死んでしまう。病死と発表されたが、


『仲間から誅殺された』


との噂が流れた。

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