『削除されました』
「………」
何も見えない、何も聞こえない、何も感じない。
それもそうか…だって五感がないんだもの。
けどまぁ…やる事は変わらない。今はただ、目の前に居るであろう龍を倒すだけだ。
「…ッ!!」
手に握っているであろう武器を振るう。
掛け声は無い。声帯がないんだもの。
攻撃は確実に当たった。
けれども相手に効いた様子はない。
(これ…かなりキツイわね…)
五感が無くても気配は感じることが出来る。
そしてその気配は弱くならず、逆に強くなっている。
もう一撃放とうとしたところで龍からの一撃が飛んでくる。
「…!?」
かわせるはずが無い。
私は吹き飛ばされ…た?
まぁ良い。
(全力で行くしかないか…)
私は左足で地面を強く蹴って飛び上がる。
(憑依!!源霊『鎌鼬』!!)
必殺?技の源霊憑依を使う。
憑依によって自分の姿は変わらない、でも
「これで見える。」
五感が全て戻る。
「…?」
辺りを見回すが真っ暗で何もない。
龍もいない。
ただの洞窟だ。
「逃げた?それとも…かなり吹き飛ばされた?」
取り敢えず全速力で洞窟を進む。
移動の過程で早すぎるが故に残像すら残っていない。
「…長い」
洞窟を進み始めて一分が経とうとしている。
源霊憑依の時間は五分、それを過ぎてしまえばまともに戦う事すら出来ない。
「急がないと…」
加速し更に早くなる。
そこから30秒ほど移動した時に視界の端に何かが映った。
「ん?」
私は『ソレ』に近づく。
「…斧?何でこんなところに…」
私は周囲を見回す。
「ッ!?」
周囲にあったのは種類も系統もバラバラの無数の武器たちだ。
ハンマー、ランス、ライフル、刀、弓、大剣、etc…
更に辺りを見回すと白骨死体が壁に寄りかかっているのが見えた。
…よく見たら壁は岩じゃなくて肉だ。なるほど…ここは龍の中なのね。
「残り3分半…」
私は迷うことなく地面の肉に己の武器、大鎌を振り下ろす。
地面の理由?龍の体の構造は蛇とほとんど同じだ。それならお腹側、地面を攻撃したほうがいいでしょ?
「そこまで硬くはないか…」
大鎌は深々と刺さった。
そして抜き取りもう一度振り下ろす。
「あと30秒…」
既に20メートル近く削り進んでいる。
今さらだろうが、口か肛門に向かって全力疾走した方が良かったかもしれない。
そんなことを考えながら鎌を振り下ろしたら…
カンッ
金属音が鳴った。
「え?」
私は恐る恐る鎌を抜き取りそこを見る。
「嘘!!」
そこにあったのは骨だった。
絶望、諦め、喪失、マイナスのイメージが数多く流れてきた。
「はは…」
私は大鎌を手から落とした。
そのタイミングで源霊憑依が切れた。
その瞬間私の五感が消える。
「…」
私はその場で膝をつく。
もうどうしようもないのだ。
(悪いわね…次の誰か…後は任せるわ…)
私はそこで意識を手放した。
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