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「それ」と出会ったのは運命だったかもしれないし、偶然だったのかもしれないし、全て仕組まれていたのかもしれない。
出会わなければよかった、とは思わないが、
出会えてよかった、とも思わない。
ただ、間違いなくその日から私の人生は大きく劇的に、もしくは小さく些細に変わった。
その日は仕事帰りにたまたま立ち寄ったコンビニで缶コーヒーを買い、
敷地の隅にある喫煙スペースで電子タバコを吸っていた。
季節は春から夏へと変わっていく途中で、
陽が長くなるのを感じながら、
それでいて特になにを考えるでもなく、
ぼーっとしながら電子の紫煙を燻らせていた。
電子たばこが軽く振動し、喫煙の終了を告げた。
当初はこの機械的な趣の無さに抵抗があり、
やはり紙巻きたばこの方が好みだと思っていたが、
何にでも慣れはあるもので、
今では「やっぱ今時電子たばこだよね」と吹聴するぐらいには中毒になっていた。
灰皿に使用済みのスティックを捨て、
帰路に戻ろうと視線を上げたときに視界に入るモノがあった。
わたしのほぼ正面に人が立っており、こちらをじっと見ていた。
その人はずっとそこにいたようにも見えたし、
突然魔法のように現れたようにも思えた。
普段であれば、無視して早急にその場を去るという選択をするが、
その時は何故か「話しかける」という行動以外の選択肢が頭から欠落してしまったかのように、ごく自然にその人に話しかけていた。
「どうかされましたか?」
当たり障り無く、それでいて素直な疑問を吐き出した。
その人の顔を見ても全く記憶にない。
白いワンピースを身に纏い、白いパンプスを履いた黒い長髪の女性。
一般的な男であれば、少なからず好意を寄せるであろう、
清楚を絵に描いたような見た目は、
興味を集めるには十分に見えた。
逆に言えば、
「こういう見た目なら男は喜ぶんだろう?」
と小馬鹿にされているようにも感じるほど、完成された佇まいでもあった。
「ねぇねぇ、ひとつだけ何でも願いを叶えてあげるよ、何がいい?」
女はそう言った。
これは困った。とても面倒臭そうな予感がする。
「あ、そういうの間に合ってるんで」
私はそう言ってその場を去ろうとしたが、女に行く手を遮られた。
「いやいや違う違う!マジのやつだから!いやマジのやつというかなんと言うか、、、。とにかくちょっと待って!」
急に饒舌になったかと思うと、スカートの裾を軽く手で払い、
澄ました顔でこう言った。
「私はいわゆるところ、神と呼ばれているものと同等の存在だよ!」
ここで不思議なことが起こった。
端的に言えば、その言葉が真実である、と思ってしまった。
「はぁ?」
急に姿を消した私の中の常識を捻りだそうと、なんとか不信感を表明する。
「残念ながら君はもう私という存在を認めてしまっているよね。今そういう風にしたから。」