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俺と僕の、将来の夢。  作者: 雛桜ナミ
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将来の夢

 少し太陽が傾き、空の色が鮮やかになってきた。

 ――もうすぐ夕凪の時間だろうか。



「そうだ。おじさんって、普段どんな仕事してるの?」

 突如少年から質問が投げかけられた。


「システムエンジニアって言ってね、システムを作ってるんだよ。」


 あまり納得できていなさそうな表情の少年を見て、説明を付け加える。

「君が普段遊んでるゲームとか、携帯アプリとか、YouTubeとか、Googleとか、あれも全部システム。自分だけの力で調べたり、まとめると大変なものも、システムを使うと簡単に出来るようになるんだ。あとは、システムのおかげで、普段出会えないような人とも簡単に出会えるようになったりもするかな。」


 ……これで伝わっただろうか……。

 システムの概念を理解していない人と対話をした試しがなく、自分の説明に自信がない。


 少年は、ゆっくり考えている様子だったが、何かしら自分の中で嚙み砕いたらしい。


「つまり、おじさんは……、みんなの、ヒーローなんだね!」


「ヒ、ヒーロー……?」

 どこをどう解釈したらヒーローに行き着くのかが分からず、戸惑った。


「うん。だってさ、おじさんはみんなのために働いてるんでしょ。みんながおじさんのお蔭で、幸せになってるんでしょ。そしたらおじさんは、みんなにとってヒーローだよ!僕にとってもヒーローだね!」


 純真無垢すぎる少年の感想に、いつも無気力で働いていることへの罪悪感がどっと押し寄せてくる。

「そんなこと言っても……、俺より仕事が出来る人なんてたくさんいるし、俺一人じゃ何も出来ないし、俺はいてもいなくても変わらない存在なんだよ…………」

 少年に対して、ふと弱音を吐いてしまう。


(こんなこと、この子に言って何か変わるわけでもないのに――)


 そうすると、少年が顔を覗き込んで聞いてきた。

「おじさんは、今の仕事が好きじゃないの?」



 ――正直、分からない。

 

 最近は、好きか嫌いかすら考える間もなく、淡々と生きていた。

 ただ、入社当初は好きだったと思う。日々お客さんの役に立つことばかりを考え、ワクワクしていた。

 それもいつの間にか、周囲に忖度しながら、要件通りにシステム化することの繰り返し作業になっていき、歯車の一部としか感じなくなっていった。



「好きで、居続けたいな……。俺だって、格好いい大人になりたいよ……」


 ふと、自身の口から言葉が漏れる。


 それは、紛れもない、本音だった。

 ずっと見て見ぬ振りをして、自分自身ですら向き合わないようにしてきた本音が、少年の何気ない一言により、言葉をついて出てきた。


(そうか。俺は、もっと頑張りたいし夢も持ちたかったんだ――)


 周囲とばかり比較して自分を卑下しているうちに忘れてしまっていたが、ようやく自分の本音に向き合うことができた。


「好きはおじさんだけのものだから、他の誰かとか関係なくて、おじさんだけで勝手に決めていいんだよ。」

「……それにね、おじさんは、すでに格好いいよ――」


 少年は続ける。


「僕ね、今将来の夢の作文を書く宿題が出てるんだ。ずっと何書くか迷ってたんだけど、今日決めたよ。僕もおじさんと同じシステムエンジャになって、世界中の人達を幸せにしたい!」


 そう言った少年の瞳は、目の前に広がる海と同じくらい、キラキラと深くて純粋な輝きを放っていた――


 そんな少年の頭にぽんと手を置き、激励をする。


「君なら、誰よりも世の中を良くするシステムがきっと作れるよ。俺も、君が働くときに一緒に最高のシステムを作れるよう、もっともっと成長しておかなきゃな!」


 それは、少年だけではなく、自分に対しての激励でもあった。


「そうだ、きみに夢を叶えるお守りをあげよう。」

 遠い昔、人から貰ってからずっと大切に持っていた青い石のストラップを少年に渡す。


「これに願い事をすると、昔から絶対に叶ったんだ。おじさんはすでにたくさん助けてもらったから、今度はきみがこれを持つ番だ。」


「そんな大切なもの、僕が貰っちゃっていいの?」


「ああ。いつかきみの夢が叶ったときに、それを持って会いに来てごらん。」


 不安そうに覗き込んでくる少年に、笑いかける。



 その時、ふと風が止んだ。

 凪の時間になったらしい。



「僕、そろそろ行かなきゃ。」

 少年が腰を上げる。

「それじゃあ、ばいばい!」


 手を振って立ち去ろうとする少年を見て、今更だが名前を聞いていないことに気付き、急いで呼び止める。


「そうだ!きみの名前はなんだ?将来きみと一緒に働くときのために教えてくれ!」


 少年は、振り返って、にこやかな笑顔で答えた。

「僕の名前は、○○○○だよ!」




 俺は少年のいなくなった海を見ながら、不思議な気持ちに浸る。


(同姓同名だったのか……)


 人生で初めて出会った同姓同名がこのような出会い方となると、なんだか神秘的なものを感じる。

 そのまま物思いに耽りながら景色を見ていると、眠気が一気に押し寄せてきて、再び眠りに落てしまった――

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