無料ガチャ
ニホンザルの姿になったオチャコと、ブルドッグの姿になった光男さんが立っているのは、迷宮内の暗いお部屋です。
天井から、また悪魔女の声が聞こえてきます。
「お猿と犬はねえ、《犬猿の仲》と言われるほど、仲が悪いのよ。だから、お前たちはケンカせぜるを得ないの。あっはははは!」
悪魔女が高らかと笑います。
けれども、オチャコと光男さんはケンカする様子を見せません。
痺れを切らした悪魔女が、怒って言います。
「お前たち、どうしてケンカをしないのだい!」
オチャコも言い返すしかありません。
「ウッキ、キキキ、ウキッ、ウキウキ!《あたしと光男さんの愛は永遠よ!》」
「お猿と犬でもかい?」
「ウキ!《そうよ!》」
たとい動物の姿にされてしまっても、オチャコと光男さんの愛が揺らぎはしなかったのです。
このことは、少しばかり悪魔女を感心させるのでした。
「お前たちの琵琶湖よりも深い愛に免じて、チャンスをやろう。まずは、人の言葉を話せるように戻してやることにしよう」
悪魔女は、なにか魔法を囁き、それから続きを話します。
「しかも、ガチャを三回やらせよう」
「えっ、ガチャですって??」
「それには、お代が必要ですか?」
光男さんが尋ねました。
「いらないよ。これはサービスだからね」
「まあホントに!?」
オチャコは驚きました。まさかこんなところで、いわゆる「無料ガチャ」ができるとは思っていなかったのだから、無理もありません。
天井から、突如、なにか機械が下りてきます。暗闇に少しばかり慣れてきているので、それがガチャだと分かりました。ボタンを押すタイプです。
「三回だけやってみな」
「分かったわ」
オチャコは、悪魔女に言われた通り、ガチャのボタンを押してみます。
一回目は、蓋つきのコンパスが出ました。
「これって、なにかしら?」
「方位磁針だね。それを使って、東西南北を知ることができるよ」
光男さんが説明してくれました。
オチャコは、コンパスの蓋を開けます。それでようやく、理科で習った道具の一種だということを思い出しました。
そしてまたガチャをします。今度は、タブレットが、それの説明書と一緒に出てきました。
三回目は、光男さんがボタンを押します。オイルランプとライターのセットが出ました。突如、ガチャの機械が消えました。
そして、天井から悪魔女の声が聞こえてきます。
「お前たち、ゲットした三つのアイテムを使って探索しなさい。そして、この迷宮を抜け出してみな。できるものならね。あっはははは!」
これ以降は、悪魔女の声が途絶えます。