とんでもない災難
お婆さんの正体は悪い魔女、つまり悪魔女だったのです。
自由を奪われてしまったオチャコは、我慢できずに大声で叫びます。
「ちょっとお婆さん、タチの悪い冗談はよして!」
でも悪魔女は、まるで聞く耳を持ちません。檻の中で怒っているオチャコの瞳を見つめて、また怪しげな言葉を囁くのです。
「姿を変えよお猿に」
これは魔法なのです。そのせいでオチャコが、ニホンザルになりました。
悪魔女は、次に光男さんの瞳を見つめて、魔法を唱えます。
「姿を変えよ犬に」
光男さんは、ブルドッグにされてしまいます。
それとは逆に、お婆さんだった悪魔女の方は、若返って、オチャコのお母さんと同じ歳くらいの小母さんに変身しました。
「あと三人くらいから、《若い姿》を奪わないとね。あっははは」
百歳を迎えると、魔法を使って善良な若者たちから、若さを吸い取り、二十歳にまで若返るのです。そんな悪いことを繰り返して、この悪魔女は、大昔の縄文時代から今まで、五万年も生きてきました。
若い姿を奪われた人は、どうしてかは知りませんけれど、歳が増えるのでなく、動物の姿になります。どんな動物になるかは、人によって違うのです。
小母さんの姿になった悪魔女が、また別の魔法を唱えます。
「変われ檻から迷宮に」
オチャコたちの目の前が、突如、真っ暗闇になりました。
「さあ、お前たちは迷宮に閉じ込められたのだよ。どうあがいても、抜け出すことなどできないからね。あっはっはっは!!」
これは、とんでもない災難です。
犠牲になってしまったオチャコと光男さんは、まさかこんな事態になるとは、思いも寄らないことでした。楽しいデートが、ぶち壊しです。
動物に変えられた二人は、せいぜい鳴き声を上げるくらいしかできません。
「ウキキー、ウッキキ!《なんてこと、するのよ!》」
「ワンワン、ワオーン!《僕たちを、元に戻して!》」
悪魔女には、動物の言葉がちゃんと分かります。
でも、オチャコたちの言うことを聞こうとしません。
「さあ、二人でケンカをしなさい」
「ウキッ?《どうしてなの?》」
たとい動物の姿になっても、オチャコは、相手が日本語または英語を使って話し掛けてくれば、たいていの言葉が通じます。
けれども、どうして光男さんとケンカをしなければならないか、その理由については、サッパリ分かりません。